最近の耳鼻咽喉科領域における感染症は, 口腔鼻咽頭にみられる常在菌以外に病原菌として耐性ブドウ球菌, レンサ球菌, クレブシエラ, 緑膿菌などが検出され, 化学療法上問題視されてきた。しかし, これら上気道感染症にみられる病原菌以外には, マイコプラズマ, 嫌気性菌, ウィルス, 真菌なども重要な感染菌として見逃せず, 生体宿主側の感染防禦能の低下でグラム陰性桿菌を含めた病原菌の台頭によつていわゆるOpportunistic infectionを招くばあいが少なくない。
さきに, 米国Upjohn社の研究陣は, 強力な抗グラム陽性球菌性抗生物質としてLincomycinの7位OH基をClで置換してえられた経口用製剤のClindamycin capsuleとClindamycin palmitate dry syrupを発表し, ブドウ球菌を始めとするグラム陽性球菌性感染症に対してきわめて高い治療効果をあげてきたことは周知の事実である。
Clindamyein-2-phosphateは, 化学名を7 (S)-Chloro-7-deoxylincomycin-2-phosphateと称し, その物理化学的性状は, 白色結晶性で175℃ で分解され, 弱アルカリおよび弱酸性溶液でよく溶解し, 安定性はきわめて高く, 毒性はきわめて少ないといわれる。Clindamycin-2-phosphateの化学構造式は, Fig. 1に示したとおりであり, その分子式はC
18H
34O
8N
2SCLPで表わされ, 分子量は504.97と算定されている。
なお, Clindamycin-2-phosphateは, Upjohn社でグラム陽性球菌性感染症に対して臨床応用のさいの注射用製剤として筋注, 点滴静注用として開発され, 新製品として登場をみたものである。
著者は, 今回, 耳鼻咽喉科領域においてClindamycin-2-phosphateに関して, その血中濃度および臓器組織内移行などの基礎的検討をおこなうと同時に, 当科領域における代表的な急性感染症に対して筋注療法によつて良好な結果をえたので, その成績の概要を報告する。
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