寒天平板法を用い, 低濃度Tobramycinとβ-Lactam抗生剤の併用効果を, 静菌および殺菌レベルで検討した。殺菌力の測定では, 被検菌に対する抗生剤の作用時間を3時間および20時間とした。まず, TobramycinとCephalothinの併用効果を静菌力 (MIC) を指標として評価したが,
Escherichia coliで26株中20株,
Klebsiella sp.では27株中15株に相乗効果がみられた。20時間抗生剤作用時の殺菌力で検討すると, より多くの菌株で相乗効果が生じた。他の菌株では, 多くが相加効果を示した。さらに, 3時間抗生剤作用時点での殺菌力による評価では, ほぼ全株に相乗効果を証明した。また, 36株の
Pseudomonas aeruginosaに対するTobramycinとCarbenicillinの併用効果の検討では, 静菌, 殺菌レベルともに, 大多数の菌株に相乗効果をみとめた。なお, 少数菌株間では拮抗効果も証明された。
抗菌物質の抗菌力の指標として, 今日, 検査室レベルではDisc法が, 研究室レベルでは静菌力 (Minimal inhibitory concentration, MIC) や, 殺菌力の測定がおこなわれ, 最近では抗生剤接触による細菌の形態変化を指標とする試み1, 2) もなされている。また, 近年の臨床においては, 血液疾患, 悪性新生物, 免疫代謝異常, 老令者, または放射線照射や副腎皮質ホルモン剤等の投与をうけたいわゆるCompromised hostが増加しており, これら宿主に合併した細菌感染症は, きわめて難治性で, その治療にPenicillin, Cephalosporin等のβ-Lactam製剤, またはGentamicin, Tobramycin, Dibekacin, Amikacin等のAminoglycoside製剤が単独または併用で, しばしば大量に用いられる。これら薬剤は, いわゆる殺菌性抗生剤と称せられるもので, その抗菌力の指標としては, 静菌力よりむしろ殺菌力の選択が望ましいと考えられるが, 技術的な理由から, しばしば静菌力で代用される。これら抗生剤の抗菌力, とくに併用時におけるそれを殺菌レベルで評価した従来の報告は, 液体培地法での殺菌曲線を利用したものであり 3, 4, 5), その実験には多くの時間と器材を必要とするため, 同時に多数の抗生剤, 被検菌を対象としえない欠点がある。
われわれは, 寒天平板を用いたβ-Lactam抗生剤の殺菌力測定法を開発中であり6, 7), 本論文では, 低濃度Tobramycinとβ-Lactam抗生剤の併用効果を, 比較的多くの菌株について, 静菌, 殺菌両レベルで検討した。被検菌種としてはCompromised hostにおける感染症で分離頻度の高い, 8, 9, 10),
Escherichia coli, Klebsiella sp.および
Pseudomonas aeruginosaを選んだ。
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