Dibekacin (DKB, Panimycin) の適用範囲はスペクトラムと少ない副作用の点からかなり広いものがあるが, 気道系における緑膿菌感染症に対しては他の抗生剤同様十分とは言えない。我国でも近年欧米と同じようにAminoglycoside系の点滴静注投与法が検討されるようになつた。筆者はすでにDKB点滴静注による呼吸器感染症に対する治験をおこない著効60%を含む有効率70%を得たことを報告した。
今回は
Pseudomonas aeruginosaによる呼吸器感染症を中心に5例の患者にDKB点滴静注をおこない, 同時に血中濃度, 喀疾内濃度, 菌の動向, 第8脳神経を中心とした副作用の点につきくわしく検討をおこなつたので報告する。
1. 対象
昭和55年10月~昭和56年1月の間に当病院に入院した患者で呼吸器感染症5例に本剤を使用した。内訳は肺炎3例, 慢性気管支炎の急性増悪1例, 気管支炎および咽頭炎1例である。年令は18才から83才までの男性2例, 女性3例である。起炎菌は5例ともグラム陰性桿菌によるもので,
Ps. aeruginosa4例,
Serratia marcescens1例であり, 喀疾内菌量は10
7個のオーダーのもの2例, 10
8個のオーダーのもの3例であつた。
2.投与方法, 投与量, 投与期間およびDKB濃度測定のための採血, 採疲の方法および測定法
全例にDKB100mgを5%Glucose 250mlに溶解し, 1日2回12時間毎に60分で点滴静注した。投与期間は5例とも14日間であつた。全症例とも他の抗生剤の併用はおこなわなかつた。ただし肺結核の1例にはStreptomycin (SM), Isoniazid (INH), Rifampicin (RFP) を継続投与した。
本剤投与60分前からの喀疾を試験管に集め, 投与直前に採血した。点滴開始後30分, 1, 2, 3, 6時間後にそれぞれ採血し, その時間内毎の喀疾を別々の試験管に集めた。
血中濃度測定法は (1)
Bacillus subtilisATCC 6633を検定菌とするBioassay法および (2) ウサギで作製したDKB抗体に対する酵素標式DKBと検体 (血清) 中DKBの結合拮抗性を利用するEnzyme immunoassay (EIA) 法の2っの方法によつた。
喀疾内濃度測定法は血清のばあいと同じくBioassay法を採用した。
3.臨床効果判定基準
臨床症状, 細菌学およびその他の臨床検査成績の推移を考慮して下記の基準にもとついて判定した。
著効: 3日以内に臨床症状の消失と臨床検査成績の改善をみとめ, かっ1週間以内に起炎菌の消失をみとめたもの。
有効: 7日以内に臨床症状の消失と臨床検査の改善傾向をみとめ, 1週間以内に起炎菌の消失をみとめたもの。
やや有効: 細菌学的効果をみとめるが, 臨床症状の改善に7日以上を要したもの, または細菌学的効果がなくとも7日以内に臨床症状の改善がみとめられたもの。
無効: 臨床症状と臨床検査成績の改善が7日以後にもまったくみとめられなかつたもの, 又は悪化したもの。
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