硫酸イセパマイシン (Isepamicin, HAPA-B) を雌雄ラットに6ヵ月間連続筋肉内投与し, その毒性を検討した。1日の投与量は3.125, 6.25, 25mg/kg及び100mg/kgとし, 投与終了後2カ月間の回復試験も併せて行つた。又, 同系薬剤であるAmikacin (AMK) を25mg/kg及び100mg/kg筋肉内投与し, その毒性発現について HAPA-Bと比較検討した。
1. HAPA-B, AMK共に死亡例は認められず, 投与部位筋肉の出血以外, 一般症状に変化はみられなかつた。
2. HAPA-B, AMK共に100mg/kg群で体重の増加抑制並びに摂餌量の低下がみられた。又, AMKの雄 100mg/kg群で摂水量の著しい増加が投与期間及び回復期間共に認められた。
3. 血液学的検査ではHAPA-B, AMKとも100mg/kg群で腎障害によると思われる赤血球数, ヘマトクリット値及びヘモグロビン量の減少がみられ, 更に, 投与部位の出血によると思われる血小板数の増加が認められた。なお, 回復試験においてもAMKの100mg/kg群ではこれらの変化が依然みられた。
4. 血清生化学的検査ではHAPA-B, AMKとも100mg/kg群の雄で尿素窒素の上昇がみられ, 特に, AMK 投与群はHAPA-B投与群よりも著しく高い値を示し, 休薬後も回復は認められなかつた。又, AMK-100群ではクレアチニンの上昇も認められ, 休薬後も回復は認められなかつた。
5. 尿検査ではHAPA-B, AMK共に100mg/kg群の雄で尿量の増加と尿比重の低下がみられた。更に, 尿中酵素の中でもNAGの排泄量の増加が雄は25mg/kg群から, 雌は100mg/kg群で認められた。なお, 回復試験ではHAPA-B, AMKとも休薬後, NAGの増加は認められなかつた。
6. 肉眼的所見ではHAPA-B, AMKとも25mg/kg群及び100mg/kg群で腎臓の肥大, 褪色が認められた。なお, 100mg/kg群の回復試験では, これらの変化が依然みられた。又, 対照群を含む全群で投与部位の筋肉に出血及び炎症がみられた。
7. 臓器重量はHAPA-B, AMK共に腎重量が25mg/kg群から, 盲腸重量が6.25mg/kg群ないし25mg/ kg群から用量相関をもつて増加した。なお, これらの変化は休薬により回復傾向を示した。
8. 病理組織学的検査では25mg/kg群から, 近位尿細管上皮細胞の腫大, 空胞変性, 好酸性穎粒状変性, 尿細管腔の拡張, ボーマン嚢及び尿細管基底膜の肥厚等がみられ, 更に, 100mg/kg群では軽度な壊死がみられた。一方, 回復試験では壊死は消失し, 代りに石灰化及び再生像が多く認められた。又, HAPA-B, AMKとも観察した100mg/kg群の電子顕微鏡所見において, 近位尿細管上皮細胞の一部に刷子縁の消失がみられ, 更に, ミエリン様小体を有するライソゾーム穎粒の増加がみられた。投与部位の筋肉では対照群を含む全群で出血, 細胞浸潤, 筋線維の変性, 壊死等がみられ, 更に, 薬剤投与群では筋線維の石灰化や再生も観察された。これらの病変の程度はAMKの方がHAPA-Bより強く現れた。
9. 以上の結果, 本実験におけるHAPA-Bの無影響量は腎障害のみられない6.25mg/kgと推定した。
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