1991年6月から翌年5月までの間に全国11施設において尿路感染症と診断された患者から分離された菌株を供試し, それらの患者背景について性別・年齢別と感染症, 年齢別・感染症別菌分離頻度, 感染症と菌種, 抗菌薬投与時期別の菌と感染症, 因子・手術の有無別の菌と感染症などにつき検討した。
年齢と性及び感染症の関連についてみると, 50歳以上では男性, 女性とも症例が多く男性では半数以上が複雑性尿路感染症であった。女性では単純性尿路感染症の症例が多かった。50歳以下では女性の症例が圧倒的に多く, その大部分が単純性尿路感染症で占められていた。単純性尿路感染症では
Escherichia coliの分離頻度が高く, カテーテル非留置複雑性尿路感染症では
E. coli及び
Enterococcus faecalisの分離頻度が高い。カテーテル留置複雑性尿路感染症では
E. faecalis及び
Pseudomonas aernginosaの分離頻度が高くなる。年齢と分離菌分布の関連を感染症別にみると, 単純性尿路感染症においては全ての年代において
E.coliが33.3~61.2%と最も分離頻度が高く, その他では,
P.aeruginosaが1.7~20.0%,
E. faecalisが3.3~9.9%, CNSが2.5~13.3%と頻度が高かった。カテーテル非留置複雑性尿路感染症では0~19歳を除いてみると
E. faecalisと
P. aeruginosaが約10~20%,
E. coliは17.4~26.6%と頻度が高かった。カテーテル留置複雑性尿路感染症では
E.coliの分離頻度が0.0~14.9%と他の感染症の場合より少なく, 代わって
E. faecalisや
P.aeruginosaは約15~30%と頻度が高くなっている。薬剤投与前後における感染症群別の菌分離頻度についてみると, 単純性尿路感染症では分離菌株数は投与前319株, 投与後34株であった。投与前に最も多く分離されたのは
E.coliで56.4%を占めた。投与後の分離菌株数は薬剤感受性が低い
P.aernginosaや
E.faecalisなどであった。カテーテル非留置複雑性尿路感染症では分離菌株数は投与前122株, 投与後49株であった。投与前では
E. coliは26.2%,
E. faecalisが20.5%,
P. aeruginosaが9.0%, 投与後では
E.faecalis が20.4%と多く分離され, ついで
P. aeruginosaが18.4%であった。カテーテル留置複雑性尿路感染症では投与前67株, 投与後41株と分離菌株数はあまり変わらなかった。投与前では
E.faecalisが17.9%と最も多く, ついで
E. Ecoliが16.4%,
P.aeruginosaが13.4%であり, 投与後では
P.aeruginosa及び
E. faecalisが29.3%と高い割合を占め,
E. coliは全く分離されなかった。分離菌を因子・手術の有無別, 感染症群別にみると単純性尿路感染症においては因子・手術の有無が分離される菌に大きく影響を与えていると考えられ, 因子・手術無では
E. coliが58.1%,
E.faecalisが4.8%であるのに対し, 因子・手術有ではEcoliは34.9%と少なくなり, 逆に
E.faecalisが12.0%と分離頻度が高くなる。しかしながら複雑性尿路感染症では因子・手術の有無は分離される菌にあまり大きな影響は認められなかった。
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