1996年10月~1997年9月の間に全国16施設において, 下気道感染症患者449例から採取された検体を対象とした。それらの検体 (主として喀痰) から分離され, 起炎菌と推定された細菌557株のうち543株について感受性を測定した。分離菌の内訳は
Staphylococcusaureus 98株,
Streptococcus pneumoniae 93株,
Haemophilus influenzae 84株,
Pseudomonasaeruginosa (non-mucoid株) 84株,
Pseudomonas aeruginosa (mucoid株) 17株,
Moraxellasubgenus Branhamella catarrhalis 31株,
Klebsiella pneumoniae 21株などであった。
主要菌株の抗菌薬に対する感受性は, ほとんどの菌種で前年とほぼ同様の成績を示した。
S. aureus及び
P. aeruginosa (non-mucoid株) に対しては一部の薬剤を除き抗菌力は弱かったが, その他の菌種に対しては, ほとんどの薬剤が比較的強い抗菌力を示した。
S.aureusではOxacillinのMICが4μg/ml以上の株 (methicillin-resistant
S. aureus: MRSA) が1995年度と比べ約15%増加し, 67.3% (66株) を占めた。これらMRSAについても, ArbekacinとVancomycinは優れた抗菌力を示した。
また, 患者背景と感染症と起炎菌の推移等についても検討した。
年齢別分布では高年齢層の感染症が多く, 60歳以上の症例が71.0%を占め, 1992年以降で最も多かった。疾患別分布では, 1993年以降で増加傾向にある細菌性肺炎, 慢性気管支炎がそれぞれ35.9%, 30.3%と多かった。細菌性肺炎からの分離菌は
S. aureusが最も多く24.7%, 次いで
P. aeruginosa 17.5%,
S. pneumoniae 15.5%が多く分離された。慢性気管支炎ではS. pneumoniaeとS. aureusの分離頻度が高く, それぞれ16.3%, 15.7%であった。抗菌薬の投与の有無, 投与日数ごとの分離菌についてみると, 投与前に多く分離された菌は
S. pneumoniae 24.2%,
H. influenzae 19.3%,
S. aureus 16.3%,
P. aeruginosa 12.7%などであった。このうち
S. aureusと
S. pneumoniaeの分離頻度は投与8日以上で日数に伴い減少したが,
H. influenzaeと
P. aeruginosaの分離頻度は投与により一旦は減少するが15日以上になると投与前に比べても高かった。感染抵抗力減弱を誘起する因子・手術の有無によるMRSAの分離頻度は「有り」で77.0%, 「無し」で37.5%であった。抗菌薬の投与前後におけるMRSAの分離頻度は「投与前」で42.6%, 「投与後」で90.2%となり, 抗菌薬投与後で高値を示した。また, 入院患者からのMRSAの分離頻度は74.4% (61/82) と高く, 一方, 外来患者からの分離頻度も31.3% (5/16) を占めた。
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