1999年10月~2000年9月の間に全国16施設において, 下気道感染症患者430例から採取された検体を対象とし, 分離菌の各種抗菌薬に対する感受性及び患者背景などを検討した。これらの検体 (主として喀痰) から分離され, 原因菌と推定された細菌515株のうち506株について感受性を測定した。分離菌の内訳は
Staphylococcus aureu78株,
Strepto-coccus pneumoniae101株,
Haemophilus influenzae104株,
Pseudomonas aeruginosa (non-mucoid株) 58株,
P. aeruginosa (mucoid株) 11株,
Moraxella subgenus Branhamella ca-tarrhalis41株,
Klebsiella pneumoniae18株などであった。
S. aureus78株中OxacillinのMICが4μg/ml以上の株 (Methicillin-resistant
S. aureus: MRSA) は57.7%を占めた。MRSAに対してVancomycinとArbekacinは強い抗菌力を示し, 1998年に認められたABK耐性株 (MIC: 64μg/ml) やVCM感受性株の減少は認められなかった。
S. pneumoniaeのなかで, ペニシリンに低感受性を示す株 (Penicillin-intermediate
S. pneumoniae: PISP+Penicillin-resistant
S. pneumoniae: PRSP) の分離頻度は1998年の46.0%から34.7%に減少し, PRSPは1991年以降で最も少なく3.0%であった。また,
S. pneumoniaeに対してはカルバペネム系薬剤の抗菌力が強く, 特にPanipenemは0.063μg/mlで全101株の発育を阻止した。
H. influenzaeに対しては全般的に抗菌力は強く, いずれの薬剤もMIC80は4μg/ml以下であった。1998年にはOfloxacinのMIC分布は0.063~4μg/mlであったが, 1999年は全株のMICが0.125μg/ml以下であり,
H. influenzaeに対して最も強い抗菌力を示した。
P. aeruginosaに対してはTobramycinとCiprofloxacinの抗菌力が強く, MIC80は1μg/mlであった。ムコイド産生株の分離株数は11株と少なかったが, 非産生株に比べ各薬剤に対する感受性は良好であった。
K. pneumoniaeはAmpicillinを除く各薬剤に対して良好な感受性を示し, 1998年に比べ低感受性株も少なかった。
M.(B.) catarrhaliSに対しても全般的に抗菌力は強く, いずれの薬剤もMIC80は2μg/ml以下であった。最も強かったのはImipenemであり, 0.063μg/mlで全41株の発育を阻止した。
患者背景については, 年齢別分布では増加傾向にあった80歳以上の症例が1999年は減少したものの, 70歳以上の高齢者は47.0%と前年に続きほぼ半数を占めた。疾患別の頻度では細菌性肺炎と慢性気管支炎が多く, それぞれ37.9, 30.5%であった。1999年は例年に比べ気管支喘息が多く, 気管支拡張症とほぼ同じで約10%みられた。これら感染症からの抗菌薬投与前後における分離菌株数をみると, 細菌性肺炎では前年と同様に投与前後でほぼ同数であったが, 慢性気管支炎では前年は投与後において半数以下に著しく減少したが, 1999年は3分の2に減少したに留まった。抗菌薬の投与の有無, 投与日数ごとの分離菌については, 投与前に多く分離された菌は
H. influenzae 28.4%,
S. pneumoniae 25.7%,
M.(B.) catarrhalis 12.0%,
S. aureus 10.6%などであった。
S. aureusは投与15日以上では投与前の分離頻度とほぼ同じであったが,
P. aeruginosaは36.8%と投与前に比べ多く分離された。
S. pneumoniaeは投与により減少し, 投与終了後では全く分離されなかったが,
H. influenzaeは3日以内では7.1%まで減少するものの, 終了後では21.4%と多く分離された。
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