今回我々は, fosfomycin (FOM) の術後感染予防薬としての可能性を探る目的で, FOMならびに術後感染予防に汎用されている各種β-ラクタム系抗菌薬 (cefazolin (CEZ), cefotiam (CTM), cefmetazole (CMZ), およびpiperacillin (PIPC)) との間での抗菌スペクトル, β-ラクタマーゼ産生株および薬剤排出ポンプ変異株に対する抗菌活性について比較検討した。さらに, AmpC型β-ラクタマーゼ誘導能についても検討した。
標準菌株のうち, 好気性菌に対するFOMの抗菌力は, glucose-6-phosphate (G6P) をMueller-Hinton agar (MHA) 培地に添加することでMHAに比べ22菌種36株中10菌種15株で2-128倍増強され, また, G6Pをnutrient agar (NA) 培地に添加することでNAに比べ18菌種28株中8菌種14株で2-256倍増強された。嫌気性菌に対するFOMの抗菌活性はG6Pの影響を受けなかった。一方, G6P存在下でβ-ラクタム系抗菌薬に対する感受性が2倍以上変化した好気性菌ならびに嫌気性菌は認められなかった。G6P添加Mueller-Hinton brothで生育した
Escherichia coli, Pseudomonas aeruginosaに対し, FOMは濃度依存的な殺菌作用を示し, 4MIC作用2時間後の
P.aeraginosaの透過型電子顕微鏡像では細胞質分離が観察された。また,
Staphylococcus aureusに対しては薬剤作用時に比べ, 生菌数が約1/100に減少した。
P. aeruginosa PAO1株ならびに
Enterobacter cloacae ATCC13047株に対し, セフェム系薬は濃度依存的にAmpC型β-ラクタマーゼを誘導したが, FOMによる誘導量はセフェム系薬の1/25-1/65であった。また, β-ラクタマーゼ産生遺伝子導入実験株に対しβ-ラクタム系抗菌薬ではMICの上昇が認められたが, FOMは各クラスのβ-ラクタマーゼの影響を受けず親株と同等のMICを示し, 各種β-ラクタマーゼ産生臨床分離株に対しても他剤に比べ概して低いMICを示した
。P. aenuginosaの代表的な薬剤排出ポンプであるMexAB-OprM, MexCD-OprJ, MexXY/OprMならびにMexEF-OprNの過剰発現株あるいは欠損変異株を用いた感受性試験の結果, FOMはいずれの排出ポンプの基質にはならないことが示されたが, β-ラクタム系抗菌薬はMexAB-OprMの基質となり, MexCD-OprJからも排出されることが示唆された。
以上の結果より, FOMは術後感染予防薬に求められているグラム陽性およびグラム陰性好気性菌に対する広範な抗菌スペクトルを有し, AmpC産生株の選択圧が低く, また, 緑膿菌の薬剤排出ポンプの基質にはならないことが示唆された。
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