安全医学
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18 巻
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原著
  • 奥津 康祐
    原稿種別: 原著
    2022 年 18 巻 p. 3-11
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2024/06/03
    ジャーナル フリー
    医療安全で近年叫ばれるレジリエンスは日本語で理解し難いが、その教育法は西洋文明流入前が参考になる。戊辰戦争で朝敵とされたうえ、数的・装備的劣勢で善戦した庄内・会津・長岡藩の教育と戦闘を調査・整理・分析・検討した。3藩とも儒学中心に思想・歴史・文芸を併せ人間性を養い褒章制度を整え、庄内・会津藩は実力進級制、庄内・長岡藩は藩政上位者による考査制度をとり、庄内藩は徂徠学的な個性尊重・自主自学・討論修学、会津藩は朱子学的な人格形成徹底、長岡藩は好学風土下の自発的入在学・課外学習が特徴である。戊辰戦争では3藩とも軍紀粛清で、庄内藩は創造的・合理的作戦で異次元的に勝負強く、会津藩は一致団結し精神面から底力を発揮し、長岡藩は河井継之助の陽明学的姿勢に導かれ創造的かつ執拗な作戦で長岡城を奪還した。レジリエンス向上には道徳・倫理教育と精神力強化、創造・応用・実践力に特化した教育、基本徹底が有用である。
  • 浦松 雅史, 小島 多香子, 安藤 裕, 高橋 恵, 石川 孝, 三島 史朗, 藤澤 由和
    原稿種別: 原著
    2022 年 18 巻 p. 12-21
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2024/06/03
    ジャーナル フリー
    患者・家族から医療機関に寄せられる苦情は、患者の生命・身体のみならず、病院組織に対する重大な危険をもたらす場合がある。一方で、医療機関にとってケアの質を向上させるものとしてその利活用の方策が模索されてきたが、2014年に、Readerらがシステマティック・レビューにより、苦情の分類法を確立することで、ようやく今後の利活用への展望が開けた。本研究では、この分類法の日本語版を作成し、わが国での苦情等の患者意見に適用し、利用可能性を検証するとともに、苦情の傾向を検討する。
    結果として、日本語版苦情分類法はわが国の苦情に対しても利用可能であった。また、わが国での苦情の傾向が海外の傾向と異なること、診療領域ごとに多い苦情カテゴリーが存在することが明らかとなった。
    日本語版苦情分類法の確立によりこれを用いた知見の蓄積が可能となり、わが国でも病院ごとの苦情対応から、組織を超えた組織改善への利活用へと展開することが可能となったといえる。
短報
  • 高橋 恵, 浦松 雅史, 大坪 陽子, 犬伏 厚夫, 一宮 里香子, 梶 良恵, 志村 康子, 小堀 文正, 織田 順, 三島 史朗, 三木 ...
    原稿種別: 短報
    2022 年 18 巻 p. 22-29
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2024/06/03
    ジャーナル フリー
    【目的】予期せぬ死亡を「異状死」として警察に届け出た事例を経験したので、医療事故調査制度運用下の「異状死」と警察届出の意義について再考した。【症例】60代、男性。状態が安定していた入院35日目に突然気管切開チューブ内から出血し、同日死亡した。主治医が、死因不明の「異状死」として警察に届け出たところ、警察から刑事捜査を受け、死因・身元調査法に基づく解剖(新法解剖)が行われた。警察に嘆願して得られた解剖結果は、「死因は心不全・気管に明らかな出血なし」であり、気管切開チューブ内から出血した理由は不明であった。「異状死ガイドライン」に基づく「異状死」として警察に届け出る意義を、死因究明等の複数の視点から再考してみた。【結論】今回の事例を通じて、医療側で適切に調査・分析できる医療事故調査制度運用下で、「異状死ガイドライン」に基づく「異状死」を警察に届け出ることに、医療の問題点の解明やその改善という観点からは、有用性は見出せなかった。
  • 唐澤 沙織, 山本 宗孝, 高橋 潤平, 松本 雅弘, 田村 典子, 養田 絢子, 川﨑 志保理, 小林 弘幸
    原稿種別: 短報
    2022 年 18 巻 p. 30-35
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2024/06/03
    ジャーナル フリー
    2018年度より順天堂大学医学部附属順天堂医院では新たに手術患者の術後リスクを共有するため、病院情報システム上のテンプレート「術後ケアプラン」を診療録に記載することを義務づけた。また、病院全体で取り組む事項「安全重点項目」の一つとして設定し、量および質の双方向からその作成状況を監視していく方針とした。医療安全管理室では記載率向上を目指し、2018年度と2019年度の2年間を通じて、院内職員への周知に向けた活動を精力的に実施した結果、量的および質的評価ともに記載率の向上が確認できた。
    ルールの浸透、つまり量的評価記載率に関しては、院内の各委員会やメール配信など一般的な周知の広報活動で向上したと考えられた。しかし、ルールにのっとった適切な行動、つまり質的評価の記載率に関しては、周知だけでなく、現場が主体的に取り組む仕組みを構築することが向上に影響を及ぼしたと考えられた。
解説
オピニオン
特集 COVID-19感染拡大状況における各科・部門での医療安全
  • 松吉 健夫, 清水 敬樹, 本田 仁
    原稿種別: 総説
    2022 年 18 巻 p. 51-54
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2024/06/03
    ジャーナル フリー
    COVID-19流行期において、救命救急センターは従来の診療機能を維持しつつ、COVID-19重症患者を受け入れるためのシステムを構築しなければならない。そのうえで、もっとも優先されるべきは院内感染を防ぐことであり、次に万が一入院患者に感染者が生じた場合にも、影響を最小限にする対策を行う必要がある。
    東京都立多摩総合医療センターでは、初期診療をすべてfull personal protective equipmentで行うことで医療者への偶発的な曝露を最小限とし、また入院に際してはSARS-CoV-2 PCR検査結果のみに頼らず、症状や疫学リスクなどを正確に評価し、患者のCOVID-19感染リスクを層別化することとした。併せて、病棟の改築を段階的に進め、陰圧病床や半個室対応可能な病床を増やすことで、上記の目標を達成し得た。
  • 橋本 重厚
    原稿種別: 解説
    2022 年 18 巻 p. 55-62
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2024/06/03
    ジャーナル フリー
    外来診療は医療機関の窓口にあたり、受診患者数も多いため、感染伝播の経路になるリスクがあり、その点で感染防御の重要な柱の一つである。新型コロナウイルス(以下、SARS-CoV-2)の感染症である新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)は、通常の感染経路に加えエアロゾルを介すること、患者が発症数日前からウイルスを拡散させること、ウイルスが環境で生存する時間が長いことが特徴で、通常の感染対策に加え、これらの点に留意して対策を立てる必要がある。本稿では標準的な外来診療における感染時予防策に加え、高血圧や糖尿病診療において、近年急速に発達したインターネットを介する通信媒体を駆使し、医療機関を受診することなく外来診療を継続するオンライン診療による感染対策も述べる。
  • 原 厚子, 林田 眞和, 川﨑 志保理
    原稿種別: レポート
    2022 年 18 巻 p. 63-69
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2024/06/03
    ジャーナル フリー
    新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の国内感染拡大により、順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下、当院)でも手術や麻酔に大きな影響をもたらした。患者および職員の安全のため、COVID-19関連手術マニュアルを作成し、状況変化に応じて適宜、改訂を行った。COVID-19感染者の手術は、それなりの数が実施されたが、幸い手術室において感染が広がる状況は発生せず、円滑に手術を実施してきた。手術室の安全な運営には、医療安全機能管理室・感染対策室やCOVIDチームなど、病院の多くの関連部署との連携が必須である。今後も情報収集と共有を継続し関連部署と連携を通して注意深い診療を継続し、職員の手術室内外での感染を防止する生活態度を継続していく必要がある。当院麻酔科/手術室でのCOVID-19感染に対する取り組みについて報告する。
  • 髙橋 弘充
    原稿種別: レポート
    2022 年 18 巻 p. 70-74
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2024/06/03
    ジャーナル フリー
    第1波から始まったCOVID-19感染は刻々と変化する状況下で、それぞれの病院が求められる責務に即した医療を実施し、一般診療とコロナ診療を続けてきた。その対応は部署ごとに、またウイルス変異による感染状況の変化、提供される医薬品・ワクチンなど時間軸とともに修正、追加を続けいまに至っている。現在も第1波から周期的に増大した感染状況とそれに合わせた大幅な病床・外来診療体制の変更を繰り返しながら現状に即した医療提供体制を提供し続けている。この状況を安全に乗り越えるために大学・病院が一体となり、職種・診療科の壁を越えた多職種でのチーム医療が生まれ、それを支える迅速で適切な情報共有システムとして、早期から病院・大学が一体となった「コロナ対策会議」が毎朝8時からのZoomで行われた。薬剤部においては一部病棟閉鎖により病棟薬剤師の仕事が減る一方、コロナ対策室等新たな組織への参加、コロナ患者専用病棟業務、感染制御部の増員等により各自の業務量については変わりない状況が続いている。ここでは第1波から第5波までの間で薬剤部がかかわるCOVID-19感染に関連した医薬品情報、医薬品管理、院外処方箋、病棟薬剤師業務、薬学生教育について紹介し、東京医科歯科大学病院における現状の問題と将来に向けての改善点も含めて紹介する。
  • 真田 建史, 坂内 めぐみ, 越後 森生, 灰谷 紗織
    原稿種別: 総説
    2022 年 18 巻 p. 75-82
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2024/06/03
    ジャーナル フリー
    2019年12月中華人民共和国武漢市で初めて検出されたと報告されている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年1月わが国でも初めての感染者が報告された。その後、感染が拡大していくなか、昭和大学附属烏山病院(以下、当院)では同年4月7日以降新型コロナウイルス感染対策会議を連日行い、日々試行錯誤を重ねてきた。本稿では、大学附属の精神科病院である当院における、コロナ禍でのメンタルヘルスに対する取り組みを紹介する。患者に対しては、閉鎖空間におけるストレス軽減に向けた運動等の取り組みを行い、職員に対しては、医療者支援プロジェクトへの積極的な働きかけを行い、さらには自己記入式の評価尺度を用いたメンタルヘルスチェックを行った。結果として、患者への取り組みは一定の成果を上げたように思うが、職員への取り組みは遅れ、いまだ不十分である。早急に職員に対するメンタルヘルス対策を強化する必要があると考える。
  • 渡邊 両治
    原稿種別: レポート
    2022 年 18 巻 p. 83-87
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2024/06/03
    ジャーナル フリー
    コロナ禍で、最前線に立つ医師や看護師は多くの称賛を浴びたが、病院にはその陰となって支える職員が大勢いる。感染症対策で大活躍した感染管理部は、院内の対応方針から感染防御ガウンなどの物品の選定を行った。地域連携室は、行政との調整役を担ったほか、入院患者支援のためのPFM(patient flow management)を強化し、コロナ禍での患者の受け入れに奔走した。さまざまな社会背景をもつ患者には医療ソーシャルワーカー(medical social worker;MSW)が対応し、また、治療や療養上の心配事、受診相談、医療費などのさまざまな相談には専従の職員が対応した。初診・再診などの受付や会計業務、診療報酬など、病院経営の根幹となる医事課は、新型コロナウイルス感染症による政策の変化にも柔軟に対応した。医療安全部門は、職員に対する研修を含めた安全教育、インシデント・アクシデントの再発防止や個人情報保護対策を行った。こうした表に出ない事務部門も医療を支える大きな役割を果たしている。
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