モルモットの大型気管支分枝は猫, 兎又は針鼠に於けるよりも小型で1列性に並ぶ軟骨小片の内方には気管支腺もリンパ小節も見られないが, 然し輪状気管支筋層の発達は良好, 上皮は厚く無毛性3-4列性円柱上皮から成る. 中型気管支分枝の構成は前者に於けると本質的差異を示さないが, より単純化され, 特に軟骨片の発達は遙かに劣勢, 但し粘膜には背の低い縦走性粘膜ヒダの見られる所が甚だ多い.
小型気管支分枝では筋膜は菲薄, 軟骨片は痕跡的, 但し粘膜ヒダは尚お存在し, 1-2列性円柱上皮で蔽われる. 呼吸性細気管支は1列性の背の低い円柱状上皮と狭い固有膜とから成り, 更に僅少の平滑筋線維で包まれる. 気胞道及び気胞嚢は他動物に於けると略ぼ同様に構成される. 興味深い事にモルモットの肺静脈の中膜はコーモリに於けると同様心筋組織で構成される. 又内臓胸膜の中にも薄い心筋層が発見される.
ムササビの肺はモルモットのものよりも遙かに小さい. 従って気管支壁もより単純に構成される. 大型気管支分枝は1-2列性無毛性円柱上皮で蔽われ, 1列性軟骨小片の内方には気管支腺は見られないが, リンパ小節は稀ならず発見される. 然し筋層は発達甚だ劣勢, 軟骨小片間に僅かに見られるに過ぎない.
中型気管支分枝では軟骨小片は散在性, 之に代って輪走性筋層が良好な発達を示す. 粘膜は1-2列性円柱上皮と狭い固有膜とから成り, 内面には背の低い粘膜ヒダを見る. 小型気管支分枝は前者中型のものより稍々単調, 1列性円柱上皮と甚だ狭い固有膜から成り, その周囲には僅かの平滑筋線維を見る. 反之円柱状或は立方状上皮を有する呼吸性細気管支ではその周囲に筋線維を缺く. この動物でも肺静脈の中膜は心筋組織で構成されるが, 胸膜内には平滑筋も心筋も証明されない.
以上の組織像に従って気管支壁に形成される気管支神経叢はモルモットに於てはムラササビに於けるよりも発達良好, 殊にこの神経叢に附随する神経節に於て然りである. 神経細胞は交感性であるが, その神経突起の甚だ不明なものもある. 特にムササビに於て著しい. モルモットの大型気管支分枝では気管支神経叢に由来する粘膜下膜神経叢の形成も見られるが, ムササビでは甚だ不明になされる. 気管支神経叢は多数の微細植物線維とより少量の有髄性知覚線維とから成る. 前者の多くは気管支筋層内に終網 (Stöhr) として終るが, 1部は血管周囲神経叢に関係し血管壁に見られる終網の形成に与る.
知覚線維には小径線維の外, 大径及び甚だ太いものも含まれる. 後者はムササビでは可成り多いが, モルモットでは僅少に見られるに過ぎない.
血圧下降反射に関すると思われる特殊分岐性知覚終末が発達良好な筋層所有のモルモットの大型及び中型気管支分枝に発見される. 但しその構成は甚だ単調である. 反之発達劣勢な筋層所有のムササビの気管支分枝ではかかる終末は証明されない. モルモットの気管支分枝の粘膜固有膜内には可なり多くの分岐性知覚終末が発見される. 而も可なり複雑な形態を示すものも稀でない. その終末線維は屡々太さの変化と迂曲走行とを示し, その先端は上皮下に尖鋭状に終る. 又屡々更に上皮内に進み上皮内線維に移行する. 細気管支には知覚終末の存在は比較的稀であるが, 肺実質内には知覚線維を含む神経小束の外, 比較的細い幹線維に由来する非分岐性知覚終末も稀ならず発見される.
ムササビでは大型気管支分枝には知覚終末は少いが, 中型気管支分枝では可なり多くの知覚終末が発見され, その多くは非分岐性又は単純性分岐性終未で表わされるが, 大径及び最大径線維にも由来し, 旦つ終末枝には屡々著明な太さの変化と迂曲走行とが見られて興味深い. 然し上皮内線維はこの動物では甚だ少い. 又小型気管支分枝と細気管支には知覚終末は比較的少く, 反之肺実質内には可成り屡々非分岐性終末が発見される. 而もその幹線維は甚だ屡々大径又は最大径線維で表わされる.
ムササビの内臓胸膜内には少量の知覚線維を含む神経小束が所々に見られるが, その知覚終末は明かにされなかつた. 反之モルモットではその中の心筋層内に植物性終網の外に非分岐性及び単純性分岐性知覚終末の形成も明かにされた. その終末線維は胸膜上皮の直下に尖鋭状或は鈍状に終る. モルモットの肺静脈の心筋で構成される中膜内には植物性終網の形成は甚だ著明にされたが, 然し知覚終末の形成は証明されなかった.
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