脊椎動物の心働と血管現象の形態学的一環研究として, 血管系に検出される銀黒線維を著者らの銀染第4法で追究中の筆者らは, すでに心筋の銀黒線維微細構築の所見を第3報 (1962) で詳述したので, 今回は心筋に分布する銀黒線維の粒子構成, 線維形成ならびに終末装置の超微細構造を電顕的に調べた結果を報告する.
1. 心筋がまだ形成されず, また, 膠原原線維や網質線維が現われない胎生初期の心臓では, その組織の空隙部に, 電子密度の低い粒子の線維状連鎖が見られ, これは蛋白性微粒子の連鎖像らしく, そして筋フィラメントや膠原原線維のような周期構造は示さない.
2. 心筋構成初期には, 銀黒法を用いない限り, このような粒子結合の線維様物質の検出は出来ない.
3. 銀黒法を施した心筋の超薄切片では, 本線維は電子密度の高い銀粒子の沈着像と電子密度の低い粒子構造から成り, 銀粒子の連鎖は, 特に主幹線維に強く, 線維の終末遠位では散在性もしくは点状性の連鎖になる.
4. 心筋線維の筋鞘の表面では, 本線維の終末枝の分枝と細網形成 (遠位では0.01-0.025μの網目) により超微細の終末装置がつくられる.
5. 超薄切片で見ると, 主幹線維の形像は断続的に現われるが, 終末装置の観察は容易である.
6. 本線維内の銀沈着の電顕像は膠原原線維のものに似るが, よく見ると, 本線維の粒子はおもに長軸の方向に排列する. またそれが周期構造を示さないこと, その粒子の間隙が比較的狭いこと, 構造が単調であることなどからみると, この線維は膠原原線維, 網質線維, 膠原線維と本質的に相異することが明らかである.
7. 銀粒子が吸着するところは, 蛋白性と見られる微粒子の連鎖の間隙であることが明確で, その吸着模様は膠原原線維の場合と同様である。
以上のように, 本線維の銀黒化したものでは電子顕微鏡内で電子密度の高い銀粒子像とその低い線維粒子の連鎖との組合わせとして現われ, その線維の末梢には超微細終末網が構成されている.
かくて, 本線維は光学顕微鏡的所見 (既報) から推測されていたように, 膠原原線維, 網質線維, 膠原線維と本質的に異なる線維系であることが確められた.
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