外科手術で得られたヒトの脾臓を生理食塩水とグルタルアルデヒドで潅流し, 固定後小片として切り出し, タンニン酸オスミウム法で導電性を与えた. 脱水ののち純エタノールまたは酢酸イソアミルに浸した段階で液体チッ素で急速に凍結し, 割断して電界放射型走査電子顕微鏡で観察した.
1. 脾洞の内皮をつくる杆状細胞には, 霊長類では側突起を欠くといわれていたが, ヒトでは他動物と同様に横に張り出す突起が確認される. したがって内皮には卵円形の孔が形成されるわけで, これが脾洞内腔と脾索の常在的な通路となっている.
2. 杆状細胞の側突起の間には細胞間結合線が見られる. 杆状細胞には小胞状, 絨毛状, 糸状の微小突起が出ている.
3. 脾索を形成する細網細胞は星状で表面平滑の細胞である. その網眼に種々の円形細胞が見られるが, もっとも多数を占めるものは好中球であった. 多数の血小板もふくまれ, あるものは大食細胞の表面に花冠をつくる.
4. 大食細胞は脾索の網眼にたくさんみとめられ, 脾洞の内腔へ突出しているものもある. 大食細胞は特有の微小突起に全身をおおわれた細胞で, 独立の細胞型と考えられ, 脾索の細網細胞とのあいだに移行型はみられない.
5. 筆毛動脈の先が脾索内に開放して終ることを示唆する像が得られた. また多くの赤血球があたまを洞内に突き出して亜鈴状に脾洞壁にひっかかっており, 脾索から洞の方向の血流を暗示している. これらの所見からヒトの脾臓では“開放説”が支持された.
6. さや動脈やそのほかの血管の構造についても述べられた.
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