1. 生後1カ月から86才までの解剖例からとった腎周囲脂肪125例のうち, 褐色脂肪細胞を含む例は72% (90: 125) であつた.
2. 乳児では全例が最も多量の褐色脂肪細胞を含み, 腎周囲脂肪は ほとんど褐色脂肪細胞のみから成るが, 小児と10才代に減少が始まり, 40才代以後には著明に減少し, 腎周囲脂肪の持つ褐色脂肪の量は一般に少ない.
3. この褐色脂肪組織量の変化には個体差がある. ある例においては早期に腎周囲脂肪から褐色脂肪組織が消失するが, ある例においては非常に高年にいたるまで残存した. 86才の1例において腎周囲脂肪に褐色脂肪細胞が証明された.
4. 多房性褐色脂肪細胞は次の諸型に分類された. 第1型 脂肪消失細胞, 第2型 小滴細胞, 第3型 中滴細胞, 第4型 大滴細胞, 第5型 厚い細胞質縁をもつ単房性褐色脂肪細胞と偽単房性褐色脂肪細胞, 第6型 多房性細胞質豊富細胞. 乳児では すべての細胞型が同定された. 小滴細胞は乳児期に続くすべての年令期に一般に少ない. 40才をすぎた成人に見られる普通の細胞は中滴と大滴細胞であった. 脂肪消失細胞は特殊な細胞で 通例多房性細胞質豊富細胞を伴う.
5. 腎周囲脂肪の小葉は 中央部を占める褐色脂肪細胞野と, 白色脂肪細胞から成る周辺層とから形成される. 後者は乳児においては薄いが, 年令とともに厚さを増し, 小葉の内部にひろがる.
6. 本研究の所見は褐色脂肪細胞が年令とともに継続的に白色脂肪細胞によって置きかえられることを暗示する. 厚い細胞質縁をもつ単房性褐色脂肪細胞と偽単房性褐色脂肪細胞は, おそらく多房性褐色脂肪細胞と単房性白色脂肪細胞との間の移行型である. これらの細胞型は各年令期を通じて見出され, 褐色脂肪細胞の白色脂肪細胞への転化が継続的に行われることを示唆する.
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