1. 生後1ケ月から86才までの解剖例からとった腎周囲脂肪180例のうち, 褐色脂肪を含むのは134例 (74%) であった.
2. この褐色脂肪は6型の細胞から成る. 第1型: 熱産生のために脂肪を酸化消費し顆粒性細胞質で充満した脂肪消失細胞. 第2型: 脂肪滴の迅速な酸化に適した小滴細胞. 第3, 4型: 脂肪を多量に貯蔵している中・大滴細胞. 第5型: 多房性褐色脂肪細胞から単房性白色脂肪細胞への移行型. 第6型: 第1型とともに出現し, 脂肪滴は減少し, 滴の間の顆粒性細胞質が増加した, 脂肪を酸化消費しつつある細胞.
3. 第1型と第6型が出現することは, 褐色脂肪に熱産生のため脂肪酸化が進行し, 褐色脂肪細胞の一部が脂肪滴を失いつつあることを示す. 180例中65例 (36%) に見られた.
4. 本研究では両細胞の出現を見て褐色脂肪に熱産生があることを推定した。1歳未満の乳児では多数の第1と第6型がしばしば第2型とともに出現することから, 迅速で多量の熱産生が推定され, 乳児では褐色脂肪が体温維持のため熱産生を行うという説が支持された. 同様に小児と10歳児でもかなり高度の熱産生能が想定された. 高年者を含む成人でも第1と第6型は17∼40%に出現し, 時に第2型を伴い熱産生能の存続を暗示する. 人の褐色脂肪は高年者においても体に加わる刺激に対して, 貯蔵脂肪を酸化して反応することが明らかとなった.
5. 焼死, 溺死, 出血死, 薬物中毒死などにおいて第1と第6型がしばしば多数に出現することは, 褐色脂肪に著明な脂肪の酸化が, ノルアドレナリン量の上昇によって, おこることを暗示する.
6. 肝硬変その他の死因の解剖例の腎周囲脂肪に発見された“小型細胞質性細胞”は, おそらく萎縮した脂肪消失細胞 (第1型) である.
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