血管内皮の障害, 剥離に続く止血反応, すなわち壁在血栓形成過程を 走査電子顕微鏡を用いて検討した. カイウサギの頸動脈に 表面を粗くした皮下針を刺して 内皮障害を与え, 直後から2時間までの時間経過後, 同部を灌流または浸潤固定した. 内皮はほとんど完全に剥離し, 内皮下組織として 網状に配列する細線維層と基底膜が露出していた.
血小板粘着は まず血小板が円板形のまま付着し, 続いて 辺縁部より偽足を形成し, それらをのばして 細線維をとらえながら はりつくように起こった. 出血の場合 (服部ら, 1975b) と異なり, 血小板の球状化や膨隆形成は ほとんどみられず, やがて粘着血小板の上に やはり変形の少ない血小板がゆるく凝集した. しかし 凝集の多くは その後 解離して, 1∼2時間後には一部にだけ血栓が残った. フィブリン糸は まず細く短いものが血小板の表面に出現し, やがて太く長く成長することがわかった. すなわち 血流に抗してフィブリン糸が出現することに, 血小板は重要な役割を演じていた. 血栓への白血球 (主として顆粒球) の関与は 30分後より始まった.
剥離10∼30分後より 赤血球が内皮下組織や活性化血小板, または 長いフィブリン糸にひっかかって 涙滴状, 亜鈴状となり, あるものは萎縮し, さらに内容を失ないゴーストとなった. すなわち HELLEM らの提唱した微小溶血が壁在血栓形成の中期に起こることがわかった.
頸動脈を軽くしごくことで, 容易に内皮の障害と それに続く上述の止血反応が起こった. 止血反応の日常性が示唆された.
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