奈良県御蓋山における木本種の幹肥大成長の季節パターンを単純ロジスチック曲線に当てはめ,種ごとに成長パラメーターを推定した.成長パターンは,生活形(落葉広葉樹,常緑広葉樹,常緑針葉樹)によりカテゴリー分けできた.落葉広葉樹は短期間に速く成長した.これは葉の寿命が短いことと光合成速度が高いことと関係するものと考えられた.これに対し,針葉樹は長期間にわたってゆっくりと成長した.常緑広葉樹は,落葉広葉樹と針葉樹の中間的な傾向を示した.針葉樹と常緑広葉樹は,低い光合成速度を長い成長期間で補い,十分な成長量を維持していると考えられた.針葉樹と常緑広葉樹の中では,高緯度地域まで分布する種ほど春の成長開始時期が早かったが,落葉広葉樹では,関係は見られなかった.一年中葉をつけている常緑樹は,春に環境条件が整うと,ただちに光合成を開始できることが関係しているものと思われる.針葉樹の中では早い時期に成長を開始する種ほど,一方,落葉広葉樹の中では遅い時期まで成長を続ける種ほど,成長期間が長かったが,常緑広葉樹では,関係は見られなかった.落葉樹は春に新葉を生産するためにコストを要するため,十分成長するためには,遅い時期まで成長を続けることが必要だと考えられた.成長パターンが樹種により異なることは,林内での木本種の共存を促進すると考えられた.
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