森林応用研究
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巻頭言
短報
  • 藍場 将司, 西角 彩貴, 原田 一宏
    原稿種別: 短報
    2023 年 32 巻 1 号 p. 3-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/06
    ジャーナル フリー

    香川県金刀比羅宮の森林管理の現状を,利害関係者の関わりを軸に整理・議論した。江戸時代には,金毘羅大権現(金刀比羅宮)の領地は朱印地とされ,金毘羅大権現が森林の管理・規制を行っていたことが示唆された。明治から昭和にかけて,森林は金刀比羅宮の社有地として維持され,神社の山林係によって定期的に巡回・管理が行われていた。一方で,近年では神社組織の縮小に伴い,森林管理に携わる職員数が減少していた。金刀比羅宮は行政機関による支援を期待していたものの,行政機関は総じて,管理方針を所有者である金刀比羅宮に委ねていた。地域住民の大半が,必要に応じて森林を管理すべきと考えており,神社または行政機関がそれを主導すべきという意見がみられた。反面管理を進めるべき主体を断定しない回答も確認できた。また,観光客へのアンケート調査から,金刀比羅宮そのものへの関心は低くないものの,森林への興味関心には及んでいないことが示唆された。以上より,森林管理において主体となるアクターが不明瞭となったことで,神社の森林が放任されるようになったと結論付けた。放任の解消に向けて,森林やそれに関わる制度の周知が有効であると考察された。

  • 谷内 廉, 東 若菜, 吉岡 鷹彦, 黒田 慶子
    原稿種別: 短報
    2023 年 32 巻 1 号 p. 11-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/06
    ジャーナル フリー

    里山二次林は放置により資源の蓄積は多いものの、利活用による収益が見込めないため持続可能な資源循環に必要な管理が進まない。そこで里山材を流通させるためにNFCタグによる立木管理を提案し、2021年10月~2022年6月にかけて、北海道石狩郡当別町のミズナラが優占する落葉広葉樹林、兵庫県丹波篠山市および神戸市北区のコナラと常緑広葉樹が優占する森林、滋賀県高島市のクリが優占する落葉広葉樹林、長野県大町市平および美麻のミズナラが優占する落葉広葉樹林の6ヶ所において実証実験を行った。立木段階で用材として資源利用が見込める樹木の根元に耐候性のNFCタグを付け、クラウドサーバーに樹種、胸高直径、幹通直部の長さ、立木写真を登録した。これにより、樹種毎の資源量やサイズ分布を森林所有者や木材流通における仲介業者、購入者で共有することが容易となるだけでなく、近隣の森林のタグ付け情報を集約することで少量多樹種でも資源利用が見込める。調査地の林分構造によって資源利用の見込める樹種や資源量は異なっていたことから、里山材の利用可能性においては、各地域において資源利用が見込める樹木の調査や活用事例等の知見を蓄積していく必要がある。

  • 峰尾 恵人
    原稿種別: 短報
    2023 年 32 巻 1 号 p. 21-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/06
    ジャーナル フリー

    戦前期の林業経済学の動向への注目はこれまで乏しく、戦前期には見るべき林業経済学の研究・教育はほとんど存在せず、戦後に勃興した林業経済学が林政学を打破した、という評価が定着している。本稿では、これまで十分に評価を受けてこなかった戦前期林業経済学について、学術文献を発掘し、諸相および断絶の理由を明らかにすることを目的とした。その結果、フィシュバフ著・首藤訳(1879)、ウェーベル著・望月訳(1896)、小出(1910)、川島(1917)など複数の文献が見いだされた。これらの文献には、ドイツ語圏の学術の影響や、私経済論と公経済論の混合といった特徴がある。また、国内外の林学者と経済学者の文献が引用されたものもあり、一定の水準を持つ林業経済学が戦前期に展開していたことが確認された。こうした戦前期林業経済学は、担い手の逝去による人的断絶と制度化が果たされなかったことによって、戦後に継承されなかった。マルクス経済学を主流とする戦後林業経済学は、このような状況の先に成立した。

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