失語症研究
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10 巻, 4 号
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カレントスピーチ
原著
  • —94例の麻痺その他の神経学的所見を伴わない症例における検討—
    兼本 浩祐, 神先 美紀, 赤松 智子, 上村 悦子
    1990 年 10 巻 4 号 p. 244-250
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    てんかんを主訴として本院に入院した麻痺等の神経学的所見のない16歳以上の患者の内から,新国際分類に従って,特発性全般てんかん,非特発性全般てんかん,部分てんかんの三群のいずれかに分類しえた94人の患者に対して具体的物品を使用させ,その結果を直接観察して,利き手,利き足,利き目,利き耳の評価を含む右利き度検査を行い,右利き度の定量的測定を試みた。その結果, (1) 特発性全般てんかん群は正常対照群と右利き度に差異がない, (2) 非特発性全般てんかんは有意に右利き度が低く,部位別では利き足において有意差がみられた, (3) 部分てんかん群は全体としては,正常対照群と有意差がないが,脳波上明らかに側性が認められるものに関しては,右焦点群は正常対照群と差異がないが,左焦点群では明らかに正常対照群よりも右利き度が低かった, (4) 部位別の相関関係は,各群を通じて利き手と利き足が最も高かったが,より広い範囲に局在病変が想定されるてんかん類型程,各部位相互の相関は密である傾向があった。
  • 立石 雅子, 鹿島 晴雄, 千野 直一, 加藤 元一郎
    1990 年 10 巻 4 号 p. 251-258
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    発症から3年以上経過した55名の慢性期の失語症者を対象とし,患者個人の要因が適応に及ぼす影響について,SLTA,CADLとの関係を中心に検討した。その結果,言語機能の障害の程度にかかわらず本研究の定義による適応良好例は存在し,適応の良好か否かとSLTA得点, CADL得点の間に一定の関係は認められなかった。SLTA得点とCADL得点との相関はBroca失語で最も高く,次いでWernicke失語,失名詞失語の順であった。また,言語機能の障害が軽度な例では適度な要求水準の高さ,病前性格 (循環気質) などが適応良好の要因として重要であった。一方,言語機能の障害が重度な例では上機嫌,深刻味の欠如といった器質的人格変化が要求水準を適度なものとし,社会的内向に陥らせず,家族の理解とともに適応良好の肯定的要因となっていた。障害の程度により,適応に影響を与える要因が異なることが示唆された。
  • —アイカメラによる写字過程の検討—
    石合 純夫, 横田 隆徳, 古1川 哲雄, 塚越 廣, 杉下 守弘
    1990 年 10 巻 4 号 p. 259-264
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    側頭葉後下部の出血性脳梗塞により,漢字の失書をきたした症例を対象とし,書取り不可能な漢字の視覚認知と書字動作に障害がないかを明らかにするため,写字過程の詳細な分析を行った。書取り可能な漢字と不可能な漢字から,字画数が一致するように選んだ28字の写字過程をアイカメラで記録した。手本の平均注視時間と平均注視回数は,書取り可能な漢字と不可能な漢字の間で差がなかった。また,平均書字時間も差がなく,写字過程における筆順の誤りは,書取り可能・不可能な漢字とも1文字ずつであった。以上より,書取り不可能な漢字であっても,手本を見て書くべき漢字がわかった場合には,ただちに自分の字体で正しく書き下すことができることが明らかとなった。このことは字画数が多いほど,また,習得学年が高いほど漢字の失書が重度となる点とともに,側頭葉後下部損傷による漢字の失書が,漢字の想起障害による可能性を示唆するものと考えられた。
  • —特に作話との関係について—
    元村 直靖, 友田 洋二, 瀬尾 崇, 村田 真二
    1990 年 10 巻 4 号 p. 265-271
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    アルコールコルサコフ症候群の臨床症状および123 I - IMP SPECT 所見について検討を加えた。6例のアルコールコルサコフ症候群において作話は全例にみられ,空想作話 (2例) および当惑作話 (4例) に分類することが可能であった。また,健忘,見当識障害も全例に認められたがその程度は様々であり,作話の程度とも関係がないように思われた。 CT または MRI 上では全例軽度の萎縮病変を認めるのみであったが, 123 I - IMP SPECT ではさまざまなパターンがあるものの,6例に共通して IMP の集積の悪い領域は前頭葉の内側部であった。さらに,作話の消退とともに SPECT において前頭葉における IMP の集積が相対的に増加していた症例が観察されたことより,前頭葉内側部の機能障害がコルサコフ症候群における作話の病態生理になんらかの関係がある可能性が示唆された。
  • 種村 純
    1990 年 10 巻 4 号 p. 272-280
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    単語の漢字・仮名の書称および書き取りの成績間に差を示す中度~軽度の失語症23例を対象として,単語の書字成績パターンと,遮断除去法に基づく言語モダリティ間促進から書字モダリティ間の関連性を検討した。各書字モダリティ成績の組合せから,対象例では書き取りが書称に比べて良好,漢字書字が仮名書字に比べて良好,仮名書字が漢字書字に比べて良好および全書字モダリティ不良の4型が認められた。促進は目標となる言語モダリティがある程度保たれており,前刺激モダリティと目標モダリティとが共通性が高い場合に認められた。その共通性は入カモダリティ,すなわち聴覚・視覚,よりも出力モダリティ,すなわちポインティング・発話・書字,の共通性によって,より大きな促進が得られた。さらに,処理する文字も前刺激・目標モダリティとも漢字同士,仮名同士の方がそうでない場合よりも良好であった。
  • 佐藤 睦子, 松本 俊介, 後藤 恒夫, 渡辺 一夫
    1990 年 10 巻 4 号 p. 281-286
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    左前部帯状回—脳梁 (膝—幹) の梗塞性病変により,右手が患側となるintermanual conflictを呈した症例を報告した。症例は,77歳,右利きの女性。右上下肢不全片麻痺で発症し, CT scan及びMRIで上記の病巣が確認された。運動麻痺の改善と共に,右手の本能性把握反応が明らかになった。更に,左手が行おうとする行為を右手が強迫的に妨害するというintermanual conflictが認められた。患者自身は,右手が自分の意志に従わないことを自覚していたが,右手の妨害行為を抑止することはできなかった。「道具の強迫的使用」は認められなかった。 従来, intermanual conflictの際は左手が患側になるとされるが,本例は従来の見解とは異なり,右手を患側とする症例が存在することを示すものである。本例のintermanual conflict は,右手の運動調整機能障害によるものと考えられ,この症状の出現には,上記の病変が関与すると考えられた。
  • —自発書字の規定要因と自発書字速度の分析—
    金子 真人, 宇野 彰, 種村 純
    1990 年 10 巻 4 号 p. 287-296
    発行日: 1990年
    公開日: 2006/07/06
    ジャーナル フリー
    ブローカ失語の文の自発書字を規定する要因と自発書字の改善過程を1分間あたりの書字量である自発書字速度を指標として検討した。因子分析は SLTA の書字によるまんが説明の成績から自発書字を規定する基本的な要因について分析した。また,自発書字速度の改善過程を第2時点,第3時点の継時的な変化より検討し,仮名音読,漢字音読,呼称の発話モダリティ間の発話持続時間の変動性の差から音韻水準の影響を考察した。因子分析の結果,因子1は書字量,因子2は音韻的な誤り,因子3は統語の各因子が解釈された。さらに,ブローカ失語の自発書字の改善過程には書字速度が漸次改善していく例と一定している例の二つの型が認められた。これらは音素列の変換過程の障害によって仮名の読み書きが影響を受けたためと考えられ,音韻水準からの monitoring の機能を考察した。
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