失語症研究
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11 巻 , 3 号
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教育講演
原著
  • —相貌失認の発現機序に関する再検討—
    佐野 洋子, 加藤 正弘
    1991 年 11 巻 3 号 p. 161-171
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
        18年同左半側視空間への不注意及び熟知相貌の認知障害,未知相貌の学習障害を呈したが,その他の重篤な視覚失認症状は日常生活で認めなかった72歳 (右利き) 男性 (脳梗塞) について,相貌認知を中心とする視覚認知能力全般の検索を行った。
        その結果,熟知相貌の失認,未知相貌の学習障害と共に,視覚認知能力全般の低下を合併していた。すなわち,写真図版を用いた,表情の弁別課題,異なる表情の写真を用いた人物の同定課題,車の形の微細な差異弁別課題などの他に,筆跡の同定,錯綜図・迷路など複雑な図版の認知課題などにいずれも困難を示した。これらの課題は相貌の弁別と同程度の難度の高い視覚認知課題と思われる。従来相貌失認は相貌に限る認知障害と定義されながら,多くの報告例で,相貌以外の視覚対象についての検索が十分ではない。本例のように,日常生活では相貌の弁別に匹敵する程高度の視覚認知能力を要求されることは少なく,相貌の認知障害が症状として浮き立ったと思われる症例の存在をふまえて,いわゆる相貌失認の発現機序を再考し,下位分類を検討する価値があると考える。
  • —シングルケース・スタディによる訓練法の比較—
    小嶋 知幸, 宇野 彰, 加藤 正弘
    1991 年 11 巻 3 号 p. 172-179
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
        漢字の障害が軽度で,仮名に重度の障害を呈した失書症例1例に対して2種類の訓練法を適用し,訓練効果の比較検討を行った。1つは写字だけの訓練,1つは仮名1文字を,同一の音で始まる漢字1文字と対連合学習させる訓練 (キーワード法訓練) である。
        その結果,写字訓練は効果が訓練期間中のみに限定され,定着が困難と思われた。一方,キーワード法訓練は高い効果が認められ,しかも訓練終了後もself generated cueとして定着,実用化する可能性が示唆された。
        この訓練法は,漢字想起の処理過程を利用した仮名の想起方法であると考えられた。
        障害された処理過程への直接的訓練より,比較的良好に保たれた処理過程をバイパスルートとして活用する訓練の方が有効であったことから,本症例の仮名文字の想起障害は,字形のエングラムそのものの障害ではなく,エングラムヘのアクセスの障害と考えられた。
  • 種村 純
    1991 年 11 巻 3 号 p. 180-186
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
    単語の復唱,漢字音読,仮名音読および呼称の名発話モダリティに成績差を示す中等度失語症20例を対象として発話モダリティ間のdeblocking (Weigl) 成績から発話モダリティ相互の関連性を検討した。言語モダリティ別成績に基づいて復唱,漢字音読,仮名音読,呼称の名発話モダリティのうちで良好な発話モダリティでの反応をさせた後で不良な発話モダリティで反応させ,以前の成績に比べた正答の増加を促進効果とした。発話モダリティ成績の組合せから語想起障害,音韻処理障害,文字処理障害およびそれらの複合的障害例が認められた。発話モダリティ間の促進のうち仮名音読→漢字音読・復唱が良好であった。これには仮名から音韻に変換されることによって音形が実現することが関与すると思われた。呼称は仮名音読および漢字音読後に促進された。呼称促進にも音韻的情報が良好に作用するものと思われた。
  • 前田 真治, 長澤 弘, 頼住 孝二, 佐山 節子, 荻野 裕
    1991 年 11 巻 3 号 p. 187-194
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
        道具の強迫的使用をきたした左前大脳動脈領域の梗塞5例と,右前大脳動脈領域の梗塞1例の計6例を観察した。「道具の強迫的使用」の現象として,従来の報告に加え,以下の特徴を追加した。
         (1) 手と顔や口の間の協調運動現象の有無は症例により異なる。
         (2) 視覚や触覚のみならず頭の中で想像するだけでも誘発された。
         (3) 通常はみられなくても誘発肢位により道具の強迫的使用が誘発される。
         (4) 症状は一過性のものだけでなく長期に症状が残存する例もあった。長期残存例の共通所見として,病的把握現象,重度運動麻痺が残存し,脳梁膝部を含む広い病巣をもっていた。
         (5) 患側手に意志に無関係で無目的な pill-rolling 様の動きを認めたが,動きには Parkinson 病にみられるような一定の傾向はなかった。
         (6) 右前頭葉損傷により左手に道具の強迫的使用現象のある例を認め,病的把握現象が出現していた。
  • —聴覚障害例との比較—
    木村 さち子, 宇野 彰, 五十嵐 浩子, 加藤 正弘
    1991 年 11 巻 3 号 p. 195-199
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
        重度失語症例の今日の日常生活面でのハンディキャップが身体障害者福祉法において妥当に評価されているか否かを検討した。対象は身体障害者福祉法において障害程度等級が言語機能障害としては最重度の3級と認定された失語症例18例,対照群は聴覚障害としては最重度の2級と認定された末梢性の聴覚障害例11例である。
        その結果,聴覚障害例に比べより等級の軽い失語症例の方が短縮版CADLのコミュニケーションレベル,補助手段を使用した場合の短縮版CADLのコミュニケーションレベル,言語情報把握の正確性の3点いずれにおいても成績が有意に低かった。さらに現在の言語情報量は身体障害者福祉法が制定された1949年当時に比べ増大していることから全言語モダリティの障害を示す失語症例は聴覚障害例に比べハンディキャップを増大させている可能性があった。以上の実態が身体障害者福祉法に適切に反映されることが望ましいと考えた。
  • 永渕 正昭
    1991 年 11 巻 3 号 p. 200-207
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
    左半側空間失認をともなった交叉性失語4例を報告し,若干の考察を試みた。症例A (女,45歳) は右前頭葉損傷 (神経膠腫の手術例) で構音失行それに錯書が特徴的で,病巣は右側脳室前角周辺を含んで,前頭葉から側頭葉の一部に及んでいた。症例B (女,60歳) は右側頭葉から後頭葉の広範な損傷であるが,聴覚理解は当初から正常で,喚語困難と錯書 (ジャルゴン失書) が顕著であった。症例C (女,59歳) は右側頭葉から頭頂葉の損傷 (血腫除去手術例) で重度の全失語となり,発声はできても発語はほとんど不可能であり,書字も全くできなかった。症例D (男,71歳) は右側脳室前角周辺の限局した損傷であるが,失文法と失書が主症状で,聴覚理解と文字理解は良好であった。そしてすべての症例に左半側空間失認がみられた。
  • 仲村 禎夫, 浅井 昌弘, 保崎 秀夫, 柳井 清
    1991 年 11 巻 3 号 p. 208-212
    発行日: 1991年
    公開日: 2006/07/05
    ジャーナル フリー
    変性型の痴呆疾患にあっては疾患過程の進行に伴って知的機能のみならず言語機能も解体してくる。しかし臨床的にアルツハイマー病などの変性性痴呆の言語症状は,血管性痴呆とは異なっており,重要な鑑別診断の指標になると考えられる。ここに報告するアルツハイマー病と思われる症例は,52才頃より物忘れをもって発症し,次第に異常行動,作話,妊娠妄想などを認めるようになった。痴呆は進行性の経過をとり,それと平行して言語学的に興味ある所見が認められた。すなわち痴呆が高度となり,もはやコミュニケーションが成り立たなくなるに従って語彙が減り,情動言語に限られてきた。それと共に,言語学的には,独語の形で反復言語,反響言語,語間代,韻を踏んだ特異な反復言語形式,一定のパターンとリズムを持つ音韻の羅列へと変化していった。このような言語症状の形式上の変遷は,アルツハイマー病などの変性型痴呆の一般的な経過ではないとしても,言語機能の崩壊のひとつの過程を示すものと考えられた。
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