失語症研究
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15 巻, 3 号
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ワークショップ
  • 座 長 記
    鳥居 方策
    1995 年 15 巻 3 号 p. 223-224
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
  • 潜在認知・潜在記憶
    川口 潤
    1995 年 15 巻 3 号 p. 225-229
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    本論文では,最近の認知心理学におけるプライミング研究について概観した。プライミング効果とは,先行刺激を処理することによって後続刺激の処理が促進されることを指すが,一般にプライミング効果と呼ばれている現象には,意味的プライミング効果と反復プライミング効果がある。意味的プライミング効果は,意味的関連のある先行刺激によってターゲット情報の処理が促進される現象であり,2刺激の時間間隔は数 10 msec から数秒以内である。一方,反復プライミング効果は,ターゲット情報と同一の先行情報によって処理が促進される現象であり,2刺激間の間隔は比較的長期間である。それぞれ,被験者が先行情報を意識的認知している場合といない場合との比較が関心を集めている。ただ,このような意識を伴わない処理 (潜在認知・潜在記憶) の測定には十分な注意が必要である。今後,認知心理学的研究と神経科学的・神経心理学的研究との連携が期待される。
  • 元村 直靖, 赤木 弘之, 友田 洋二, 瀬尾 崇
    1995 年 15 巻 3 号 p. 230-234
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    熟知度を考慮した3音節ひらかなの直接プライミング課題を作成し,プライマー提示後30分後と1週間後において,健常群 (C群) ,アルコール群 (A群) およびアルコールコルサコフ症候群 (K群) にこの課題を施行した。いずれの群においてもプライミング効果が認められたが,プライミング量はC群とA群では低熟知度語のほうが高熟知度語より大きかった。また,高熟知度語においては,C群,A群およびK群の間に,プライミング効果に有意な差は認められなかった。 これに対して,低熟知度語では,C群やA群と比較するとK群ではプライミング効果は有意に弱かった。どの群でも,高熟知度語では,1週間後ではプライミング量が減少したが,低熟知度語ではほとんど変化がみられなかった。さらに,プライミングに正答した語でも意味理解を伴っていないものがあり,プライミングの背景に語の意味以外の要因が関与していると考えられた。
  • 池田 学, 田辺 敬貴, 橋本 衛, 森 悦朗
    1995 年 15 巻 3 号 p. 235-241
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    語義失語を呈する Pick 病では,あらかじめ刺激を提示し無意識裡にそれを取り出すというプライミングの手法を用いても,単語完成ならびに諺完成課題におけるプライミングが障害されていて,意味を担う一単位としての音のならび (lexicon) が諺であれ語であれ無意識的にさえ取り出せないことを示した。一方, Alzheimer 病や非語義失語 Pick 病群では言葉や諺の意味は答えられないにもかかわらず(semantic systemの障害) ,プライミングは保存されていた(lexiconの保存) 。このことは,語義失語を呈するPick病例では, lexicon,たとえば e・n・pi・tsu といった語音のならびそのものが崩壊していて,この点が進行期のAlzheimer病や非語義失語 Pick 病例の呈する意味記憶障害とは異なるものと考えられた。
  • 小山 善子, 鳥居 方策, 山口 成良
    1995 年 15 巻 3 号 p. 242-248
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    熟知された人物の顔に対する視覚認知の障害である相貌失認には,近年その非均質性が指摘されていて, De Renzi ら(1991)や Benton (1993)は相貌失認を統覚型 apperceptive form と連合型 associative form の2型に分け論じている。この連合型と思われる症例の中に, Bruyerら(1983)が最初に報告したような overtly に認知できない有名人の顔写真から,意識にのぼらないレベルで familiarity を感じていたり,顔に関する何らかの視覚情報を得ていると考えられる covert 認知の存在が示唆される者がみられることがある。両側後頭葉損傷で相貌失認と大脳性色覚喪失を呈したわれわれの症例もこの covert 認知が認められた。本症例は未知相貌の弁別学習障害は比較的軽度で,視知覚の障害は軽微で連合型と考えられた。 covert 認知は熟知相貌と未知相貌の弁別,指示課題,選択肢からの同定,職業推定,学習課題の成績から確証された。covert 認知は相貌失認のメカニズムを考える上で興味ある現象である。
原著
  • —名詞と助詞の結びつきを中心に—
    小嶋 知幸, 宇野 彰, 餅田 亜希子, 中野 洋, 加藤 正弘
    1995 年 15 巻 3 号 p. 249-261
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    失語症者の助詞選択のストラテジーについて,主に名詞と助詞の結び付きという観点から検討した。課題は選択式による助詞穴埋め課題である。問題文は「名詞 (助詞) 動詞」の2語文で,あらかじめ名詞の出現度数 (語頻度) と,5つの格助詞が名詞に結合する頻度を調査した。語頻度調査は,正常者の話し言葉の計量言語データ (総語数494, 956語) を用いた。問題文は総数233で,含まれる助詞は「を」 (76) 「から」 (4) 「が」 (67) 「で」 (25) 「に」 (30) である。また,名詞句 (名詞+助詞) の意味役割が動詞にとって必須成分である文197,任意成分である文27である。対象は慢性期失語症者40例(Wernicke 14 例, Broca 9 例,混合3例,伝導4例,健忘10例) 。結果, 1. (a) 名詞と助詞との結合頻度, (b) 動詞からみた名詞句の意味役割の必須/任意性が助詞選択の難易度に影響を与えていた。 2.理解障害の重症度が助詞選択能力に反映されていた。
  • 前田 真治, 長澤 弘, 正木 かつら, 古橋 紀久, 後藤 安恵
    1995 年 15 巻 3 号 p. 262-269
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    近年,前頭葉内側面~脳梁前方損傷に伴う症状として,道具の強迫的使用現象などが報告されている。今回,脳梁前方~両側前頭葉内側面の出血に伴い,左右手と右足の無目的で無意識な動きに加え,右手の道具の強迫的使用現象を認めた症例を経験した。その際,口は右手の動きに協調し,歯ブラシを持っていくと口が開けられた。文献29例の検討では,手が口や頭と協調して動くのは9例,しないのは6例で,一定の傾向がなく,頭部が手と異なった制御様式をもつと推測された。また,右手足は言語命令には従うが随意的に動かず,左手足は随意的に動くことを認めた。このことから,いわゆる意図的行動の制御中枢が右前頭葉にあると考え,損傷部位との対応で半球間・半球内離断が存在すると考えられた。さらに,手足の特異的な動きの他に,唇・舌・頸の無意識で無目的な動きが経過中にみられた。この動きは,手足にみられる alien-sign が唇・舌・頸に出現したとも考えられた。
  • —カテゴリー分類における階層の観点から—
    餅田 亜希子, 宇野 彰, 小嶋 知幸, 上野 弘美, 加藤 正弘, 青井 禮子
    1995 年 15 巻 3 号 p. 270-277
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    標準失語症検査 (SLTA) における単語の呼称は4割可能である一方,家族名の呼称の正答率が約1割というウェルニッケ失語の症例について報告した。本症例は,はじめ,家族名のみの呼称障害が選択的と思われたが,その他の意味カテゴリーを含む呼称検査において,カテゴリーによって段階的に異なる正答率を示した。すなわち,身体部位が 75%以上と最も高く,次いで,乗り物,果物,野菜,動物,楽器が 25~50%の間,貨幣,日本国内の名所,家族,手指,色は,25%以下の低い正答率を示した。本研究では,本症例に固有の「意味カテゴリーの階層構造」を仮定し,以上の検査結果を対応させることにより,本症例の呼称障害のメカニズムを説明することを試みた。そして,本症例の呼称障害は,特定のカテゴリーに限定して生ずるのではなく,階層構造にしたがって段階的な重症度をもって出現するのではないかと考えた。
  • 毛束 真知子, 河村 満, 岸田 修司
    1995 年 15 巻 3 号 p. 278-282
    発行日: 1995年
    公開日: 2006/06/02
    ジャーナル フリー
    右半球病変により著明な失文法症状を呈した症例 (74歳,大卒の男性,右利き) の聴覚的文法理解を検討した。神経学的には左同名性半盲,左半身運動・感覚障害,神経心理学的には失語,左半側空間無視,構成障害が認められた。失文法症状は発話で明らかで,それ以外に復唱,音読,書字にも認められた。 ラジオの聴取に不便はなく聴覚的理解力の検査 (WAB ; トークンテスト) もほぼ満点であったにもかかわらず,われわれの考案した聴覚的文法理解 (主語判断課題) の成績は,同じ構文でも単語の意味的な関係により変動した。聴覚的理解が一見正常にみえるのは,本症例が蓋然性を手がかりにして単語の意味関係を理解することができるためであり,これは右半球病変による失文法症例の特徴である語彙能力が保持されていることと関係していることが推察された。さらに本症例では,一部の助詞 ( “で” など) の聴覚的理解が可能であった。これはこれらの助詞が,動詞の意味理解が可能であれば理解可能な助詞であるためと思われた。
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