失語症研究
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17 巻, 4 号
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原著
  • 松田 実, 鈴木 則夫, 生天目 英比古, 中村 和雄, 中谷 嘉文
    1997 年 17 巻 4 号 p. 269-277
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    ジャルゴンを呈した失語の3症例を報告した。症例 TY と KS の発話は音韻的には比較的明瞭で表記可能であったが,ほとんどが新造語で占められるジャルゴンであった。しかし,明らかな文法的機能語が認められず,正常の文構造が崩壊している点で,通常の新造語ジャルゴンとは異なると考えられた。これに対して,症例KHの発話は音節の分離さえ不明瞭な,ほとんど表記不能なジャルゴンであった。未分化ジャルゴンの概念は混乱しているため,TY および KS の発話を音節性ジャルゴン,KH の発話を表記不能型ジャルゴンと呼ぶことを提唱した。また,音節性ジャルゴン,表記不能型ジャルゴン,新造語ジャルゴンの3者について,その責任病巣や成立機序の違いを考察した。
  • 福原 正代, 田川 皓一, 飯野 耕三
    1997 年 17 巻 4 号 p. 278-284
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    右辺縁葉後端部(retrosplenial region)の皮質下出血で,地誌的障害の出現をみた症例を経験した。53歳の男性,右利き。ある日急に道に迷い,地誌的障害を呈した。道順障害が著明で目的とする場所に到達できず,自宅や自室に戻ることもできなかった。また,家の間取りや地図などの口述や図示ができず,地図上の主要な都市名の記入も障害されていた。場所や地図に関する以外の記憶や見当識に障害はなかった。一方,視野障害や左半側空間無視はなく,熟知した家屋や街並の視覚的認知は正常であった。画像診断で右辺縁葉後端部に皮質下出血を確認した。地誌的障害は徐々に改善し,家の間取りや自宅周辺の地図の図示や口述は可能となったが,生まれ育った場所でも1人では外出できない。近年,右辺縁葉後端部の障害で地誌的障害を呈する症例の報告が続いており,本症の責任病巣を論じるとき,右頭頂葉内側面~辺縁葉後端部の障害が重要であると考えられる。
  • 稲木 康一郎, 平林 一, 伊沢 真
    1997 年 17 巻 4 号 p. 285-294
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
        左半側空間無視を呈した10例について,線分二等分,長さ弁別,弁別後の二等分の3つの課題を実施した。長さ弁別は,線分上に垂線を付し,その左右部分ではどちらが長いかを答える課題であり,主観的等価点は,オージィブ曲線から直線補間法を用いて算出した。弁別後二等分は,長さ弁別に引き続き線分を二等分する課題であった。
        症例間で比較すると,右方偏位は,長さ弁別も弁別後二等分もそれぞれ線分二等分より小さくなった。また,症例内では,弁別後二等分は線分二等分と比べて,右方偏位が5/10例で有意に減少した。また,長さ弁別の判定内容と,弁別後二等分の調整の方向は,8/10例において一致していた。
        左半側空間無視があっても,左右の長さ弁別は比較的保たれていること,弁別後に二等分を課すと,弁別に基づいた適切な調整が行われることが明らかとなった。
  • 鐘築 裕子, 小林 祥泰, 安部 和美, 山口 修平, 種田 真砂雄
    1997 年 17 巻 4 号 p. 295-302
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    健常成人における物忘れの自覚と記憶力検査の結果は必ずしも一致しないことが指摘されている。われわれはその不一致の要因として強迫者の認知特性に着目し,脳ドックを受診した健常成人90名 (33~87歳,平均60歳) を対象として記憶自己評価および記憶情動尺度と言語性記憶を主体とする岡部式簡易知的評価尺度,Leyton の強迫症状得点について検討した。さらにこれらに影響を与える可能性のあるうつ状態についても検討した。その結果,記憶自己評価尺度,記憶情動尺度ともに年齢や岡部スコアとは有意な相関を認めなかった。記憶情動尺度は SDS と弱い相関を示したが,記憶自己評価尺度と SDS は相関しなかった。一方,記憶自己評価尺度と記憶情動尺度は強迫症状得点と有意な相関を認めた。以上の結果から,健常成人において健忘の自覚の程度と実際の記憶力減退が一致しない場合,その要因として強迫性の高さが関与していると考えた。
  • —話し手と聞き手の役割の理解,および文脈 (context) によるノンバーバル (nonverbal) な行動パターンの違いについて—
    三田地 (堀) 真実
    1997 年 17 巻 4 号 p. 303-312
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    本研究では失語症者の語用能力のうち,話し手と聞き手の役割の理解が保たれているかどうか,文脈 (context) が異なると発話行動および nonverbal な行動パターンが異なるかについて検討した。対象は重度失語症者4名,中等度・軽度失語症者4名,および年齢・性別・教育歴をマッチさせた健常者4名であった。方法は,著者との自由会話場面・課題場面をビデオ録画し,両者の発話行動,および視線方向,身ぶり,表情といった nonverbal な行動の項目を1秒間のインターバル記録法にて各場面から5分間を評価した。その結果,失語症者は話し手と聞き手の役割は健常者と同じパターンで遂行可能だが,行動量は健常者よりも少ないこと,自由会話場面と課題場面では,発話行動や視線方向,身ぶり,表情の変化の様相がかなり異なることが明らかとなった。また,ビデオを用いた行動観察法が重度の患者の評価に有用であることが示唆された。
  • 中嶋 敏子
    1997 年 17 巻 4 号 p. 313-318
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    脳梗塞による病変が,頭部CTスキャン上では,左中心溝周辺に限局しているにもかかわらず,長期にわたる語音産生障害がみられた80歳の純粋語唖症例を経験した。発症当初,自発的な発声発語は[ə]のみであった。音声模倣,口形模倣ともに困難であり,口部顔面失行がみられた。しかし,音声言語の聴覚的理解および文字言語の能力の保存は良好であった。自動言語はみられず,自動的反射的発話と意図的発話との差はなかった。言語治療は,構音訓練と書字指導とを17ヵ月間行った。口部顔面失行が経過中に消失していたにもかかわらず構音訓練の成果は上がりにくく,産生可能になった音は限られていたため,発語は実用のレベルには達せず,最終的に主な発信手段は書字と身ぶり動作であった。先行報告をみても,通常純粋語唖症例の語音産生障害は短期間で改善しており,劣位半球の対称領域あるいはBroca領の周辺領域に代償機能が存在することを示唆する論文がある。本症例の場合は,優位半球のみの病巣局在であり,また,Broca領周辺は保たれていたにもかかわらず回復が悪かった。
  • 待井 典子, 宇野 彰
    1997 年 17 巻 4 号 p. 319-324
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,1 Wernicke 症例における錯読の経時的変化を質的側面から検討することにある。訓練時の漢字単語の音読の誤りを,発症後約6ヵ月時,約12ヵ月時,約20ヵ月時の3時点から70語ずつ選択し比較した。その結果,本症例は,1年3ヵ月にわたり,SLTA 上,漢字単語の音読成績に変化が認められなかったが,訓練時の漢字単語の音読では,発症からの経過が長くなるにつれ,新造語的錯読と語性錯読の誤反応中に占める割合が徐々に減少し,字性錯読および字性錯読とも語性錯読とも解釈できる誤りが増加した。語性錯読では,意味的関連のない語の占める割合が徐々に減少し,意味的関連のある語の占める割合が増加した。SLTA 上,音読成績に量的変化は示さない場合でも,誤反応パターンの経時的変化を分析することにより,質的な改善傾向を把握することができると思われた。また,量的変化とともに質的な変化を把握することの重要性が示唆された。
  • 春原 則子, 宇野 彰, 高木 誠
    1997 年 17 巻 4 号 p. 325-329
    発行日: 1997年
    公開日: 2006/05/12
    ジャーナル フリー
    1失語症例の仮名音読と仮名の書取について,50音表活用における情報処理過程という観点から検討した。本症例は仮名音読に障害を認めたが,実際に表を見ずに50音を唱えていき,目標とする文字に該当する位置で止めることによって正しく音読できた。一方,仮名1文字の書取においては同様の方法が活用できなかった。本例における検討から,50音の音と文字の系列はそれぞれ別々に保存されうる可能性のあること,50音系列を介しての仮名1文字の音読と書字は入・出力経路によって独立に障害される可能性のあることが示唆された。
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