失語症研究
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19 巻, 4 号
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会長講演
原著
  • 緑川 晶, 河村 満, 溝渕 淳, 高橋 伸佳, 河内 十郎
    1999 年 19 巻 4 号 p. 238-244
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    言語性の短期記憶と長期記憶の障害を呈する左側頭頭頂葉病変と左頭頂葉上部病変の2症例を検討した。両症例に実施した視覚呈示条件と聴覚呈示条件の短期記憶課題では,左側頭頭頂葉病変例では呈示条件間に有意な差は認められなかったが,左頭頂葉上部病変例では視覚呈示条件が聴覚呈示条件に比べて有意に低下していた。この結果を相馬 (1997) が提唱した音韻性ループの脳内モデルをもとに考察した。その結果,モデルを一部改変することにより,左側頭頭頂葉病変例ではリハーサルの過程,左頭頂葉上部病変例ではリハーサルの過程と音韻性符号化から音韻性出力バッファーへ至る過程が障害されていたと考えられた。また両症例で認められた言語性の長期記憶の障害に言語性 (音韻性) の短期記憶の障害が関与していると考えられた。
  • 緑川 晶, 塩田 純一, 河村 満
    1999 年 19 巻 4 号 p. 245-251
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    Damasioら (1985,1989) は前脳基底部性健忘症の特徴として時間的順序の記憶障害を上げている。本研究はこの障害が前脳基底部性健忘に特有のものなのか否か検討するために,前脳基底部性健忘症例を含む各種健忘症例を対象に時間的順序の記憶課題を実施し比較した。結果, (1) 前脳基底部性健忘症例の再認成績は症例によって異なっていた。 (2) コルサコフ症候群症例においても順序判断の成績の低下が認められた。 (3) 再認成績に関係なく,前脳基底部性健忘症例の順序判断の成績は症例によって異なっていた。 (4) 左脳梁膨大後域病変において明らかな順序判断の障害は認められなかった。これらの結果より,時間的順序判断の障害が前脳基底部性健忘症例に特有の障害であるとはいえないと考えられた。また時間的順序判断の障害は眼窩底面への病巣の広がりが関与している可能性が考えられた。
  • 福井 俊哉, Andrew Kertesz, 河村 満
    1999 年 19 巻 4 号 p. 252-260
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    Pick complex[PiC : frontotemporal dementia (FTD) ,primary progressive aphasia (PPA) ,semantic dementia (SD) ]とアルツハイマー病 (AD) における認知機能検査の意義について検討した。FTD11例,PPA17例,SD3例,probable AD24例を対象にして,改訂版Wechsler Adult Intelligence Scale (WAIS-R) ,Mattis Dementia Rating Scale (DRS) ,Western Aphasia Battery (WAB) ,Frontal Behavioral Inventory (FBI) の成績を比較し,それらが臨床診断を予測しえるか否かを判別分析により検討した。さらに,脳MRIから求めた局所脳体積と認知機能検査との相関を検討した。その結果,FBI,DRSと一部の WAIS-R 下位検査成績が PiC と AD の間において,また,WAB の成績が PiC 内の臨床型の間で有意に異なっていた。判別分析では FBI が有意な判別変数であり,69.6% に相当する症例が臨床診断と同様に分類された。FTD と PPA では WAB などの言語性検査の成績が左前頭側頭葉~頭頂葉の体積と相関した。脳体積と認知機能の相関関係が PiC においてのみ認められたことから,その痴呆は脳部位特異的な認知機能障害の集積であるのに対して,AD の痴呆はよりびまん性に分布する認知機能の障害に基づくものと推測された。
  • 毛束 真知子, 岸田 修司, 河村 満
    1999 年 19 巻 4 号 p. 261-267
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    左前頭葉病変で右手一側性の失書を呈した症例を報告した (77歳,右利き女性) 。1994年末,昼ごろ家人に話しかけたとき話しにくく,メモをとるのに字が思うように書けないのに気づいた。発声で右軟口蓋挙上不全が認められるが,右上肢の筋力低下はみられない。発話速度の低下が軽度に認められる。発語失行,肢節運動失行,構成障害はみられない。写字には障害がなく,自発描画,模写は良好である。MRI で左中前頭回後部~中心前回前部に限局性の梗塞性病変がみられた。失書は右手一側性で,自発書字,書き取りいずれにおいてもみられ,漢字,仮名,数字のすべてで認められる。失書症状には,筆が意図する方向にいかず文字形態が崩れる,書き慣れた文字の書き方がわからない,以前に書いていた続け字が書けない,などの特徴がみられる。本症例の失書は,頭頂葉に存する書字運動イメージが前頭葉で手の随意運動に変換される過程での障害と想定できる。
  • 長谷川 千洋, 白川 雅之, 横山 和正
    1999 年 19 巻 4 号 p. 268-274
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    検査場面と実際の日常場面での神経心理症状の解離はよく観察される現象である。本研究は解離現象の一例として単一物品の使用における観念失行を取り上げ,道具使用時における患者を取り巻く状況が,観念失行に及ぼす影響を検討した。検査室で単一物品のみを使用する状況から,日常的環境までさまざまな状況を設定し観察した結果,全症例とも日常的状況と切り離された単一物品のみの使用で失行を示す一方,その物品と意味連想の高い物品が加わり,より日常場面に類似するに従い観念失行が消失し,検査室においても正常な道具操作が可能になった。以上より,観念失行患者の道具使用は状況依存的であり,被験者を取り巻く行為関連情報多寡が行為の実現に強く影響すると示唆された。解離現象に対して,神経系の意図性と自動性の解離という Jackson の古典的理論に加え,認知心理学における状況論の立場も取り入れ,患者の状況的認知という新たな視点で考察した。
  • 渡辺 佳弘, 鈴木 知美, 横井 紀久子, 岡田 久, 奥田 聡, 筧 一彦
    1999 年 19 巻 4 号 p. 275-282
    発行日: 1999年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    伝導失語の1例の経過に基づき,音韻性錯語の誤りパターンが経時的に変化する可能性について検討した。復唱課題を1週間おきに7回行った結果,誤りの出現位置,子音/母音比,類似音の比率が徐々に変化する傾向がみられた。ここから誤りパターンは経時的に変化する場合があることが示唆された。しかし先行症例との比較では一致したパターンはほとんどみられず,変化の規則性については明らかとはならなかった。変化が徐々に進んだことからこれらは障害された音韻の実現機構が改善に向かう間の状態を反映して生じたものであると考えられた。
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