失語症研究
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20 巻, 4 号
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原著
  • 白浜 育子, 浜田 博文, 飯干 紀代子, 岸本 千鶴, 猪鹿倉 武
    2000 年 20 巻 4 号 p. 274-279
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    失語と共に特異的な反響言語を呈したPick病と思われる1例を経験した。症例は67歳右利き女性。入院時はSchneiderおよびBraunmuhlらのPick病の病期分類の第2期にあたり,約1年後に第3期へと移行し,本症例の言語症状の特徴は以下のとおりであった。 (1) 入院時は中~重度の混合型超皮質性失語を呈し,その後無言症となった。 (2) 本症例の反響言語は,減弱型,部分型,完全型反響言語がみられ,それらは「努力性反響言語 (effortful echolalia) 」 (波多野ら 1994) の範疇に入ると思われた。また語頭音を繰り返す反響言語の存在も示された。 (3) 脳血管障害における反響言語の系列変化は減弱型→完全型→部分型がみられるが,本症例においては3つの型が同時期に混在し,そして部分型の優勢な時期を経て無言症へと移行した。変性疾患において3つの型が同時に混在する場合があることが示された。
  • 三島 佳奈子, 武田 克彦, 野島 啓子, 清水 俊夫
    2000 年 20 巻 4 号 p. 280-286
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    仮名だけに脱字を認めた書字障害の例を報告した。仮性球麻痺で発症した患者で,四肢には運動障害を認めなかったが,発声・発語器官の運動障害は顕著で,重度の運動障害性構音障害と軽度の嚥下障害を認めた。神経心理学的には,書字障害を説明しうる失語症や失行,失認は認めず,知的にも保たれていた。書字の際,仮名文字に限定した脱字が頻繁にみられ,そのために書字での伝達に困難をきたすほどであった。脱字の要因を明らかにするために仮名書字の各過程を分析したところ,音韻抽出力にのみ低下を示した。その誤り方は,指定音が単語中での正位置より常に前方へとずれており,書字症状と共通していた。本例の仮名脱字は,いったんは正しくモーラに分解処理された仮名単語に各文字を当てはめていく過程でモーラ数の枠組みに崩壊が生じたためであると考えられた。
  • 立石 雅子, 大貫 典子, 千野 直一, 鹿島 晴雄
    2000 年 20 巻 4 号 p. 287-294
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    慢性期失語症者 71名とその家族を対象として生活状況や意識に関する調査を実施した。主体的な行為を含む「活動性」を指標として活動性の高い高活動群と活動性の低い低活動群とに二分して検討した。年齢は低活動群で有意に高い,有職者は低活動群に比べ高活動群で有意に多い傾向を示した。失語型の構成は両群で異なり,言語障害の重症度については高活動群に比べ低活動群で中等度および重度の比率が高い傾向を認めた。日常的な行動について家庭内の行動であっても低活動群に比べ高活動群でよく行う比率が高い,家族とともに過ごす時間は高活動群では低活動群に比し短い,家族の「つきあい」の頻度は,高活動群で低活動群に比べ高い,性格傾向の評価結果では,高活動群で循環気質の比率が高いなど,高活動群,低活動群の間で差異が認められた。このような差異に影響を及ぼしている要因について考察した。
  • 水田 秀子
    2000 年 20 巻 4 号 p. 295-302
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    選択的に数唱の低下を呈する2症例と健常対照群を対象として,Baddeley の working memory 理論に即した実験を行った結果を報告した。2症例は先の論文 (水田 1999) で報告した,いわゆる失語症状を伴うことなく選択的に数唱の低下を呈したMOと,従来より報告されている「言語 (音韻) 性短期記憶障害の純粋例」 (Vallarら 1995,Shalliceら 1990) とみなしうる TU である。実験の結果,2例は健常対照群と同様,central executive の機能は保たれていることが示唆された。発語を伴う課題では,保持に有利な課題であっても TU には低下が認められ,対照群および MO とは異なった。音読を課す課題では,MO で対照群に比し音読時間の延長が認められた。2例の発語を伴う課題で認められた差異の検討から,TU を Vallar らが指摘するような phonological short-term store に限局した障害とみなすことはできないことを示した。また,リハーサルの検討から,音韻ループに関して若干の問題点を指摘した。
  • 福井 俊哉, 長谷川 幸祐, 河村 満
    2000 年 20 巻 4 号 p. 303-310
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    全身性エリテマトーデス (SLE) と抗リン脂質抗体症候群 (APS) により,背側視覚系の障害を中核とした局所認知障害を呈し,痴呆に至った50歳女性例を報告した。1993年,SLE・APS と確定診断され,1996年にかけて Balint症候群,Gerstmann症候群,着衣・構成障害,観念運動性・観念性失行,喚語困難,左側無視,実行機能障害,le signe de la main etrangere”,性格変化が順次出現した。MRI上,進行性脳萎縮と白質病変を認めたが,局所皮質病変はなかった。SPECT上,進行性びまん性取り込み低下を認め,初期には後方分水嶺,進行期には前後方分水嶺にて高度であった。免疫学的異常を基盤にして慢性進行性の微小血管障害と微小梗塞が生じ,それらが背側視覚系を含む両側頭頂後頭葉にてもっとも顕著であったと推測された。さらに,背側視覚系には解剖学的に3大脳動脈間に形成される後方分水嶺,中でも皮質枝と深部穿通枝の間に形成される血行力学的終末領域を通過する神経線維が関与する可能性を指摘した。
  • 佐野 洋子, 小嶋 知幸, 加藤 正弘
    2000 年 20 巻 4 号 p. 311-318
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    失語症状の長期経過を検討する研究の一環として,失語症状の経時的推移を病巣群別および発症年齢別に検討した。対象は右利きでかつ左大脳半球一側に限局病巣を持つ失語症者 132名。病巣は CT または MRI で確認し,失語症状の推移は標準失語症検査 (SLTA) の評価点 (10点満点) を指標にして比較検討した。その結果,次のような知見が得られた。中心溝より前方に病巣が限局する症例や基底核限局病巣例,また視床限局病巣の失語症状は発症後早期に急速に回復する。また後方限局病巣や,中大脳動脈支配領域ほぼ全域損傷の広範病巣例,基底核伸展型病巣例では,到達レベルに差異はあるが,3年以上の長期にわたり回復を示す症例が少なくない。失語症状は長期間回復する可能性があり,正しい予後予測のもとに,粘り強い訓練の継続が必要である。また多くの要因が予後にかかわるため,発症からの日数などで訓練効果の有無を断じることは避けなければならない。
  • 山下 主子, 大角 幸雄, 山下 光, 山鳥 重
    2000 年 20 巻 4 号 p. 319-326
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    動詞の想起障害と助詞の誤りが顕著な失語症の1例を報告した。症例は60歳の右利き女性で,頭部交通外傷により非流暢性失語症と右不全片麻痺を生じた。頭部MRIでは,左大脳半球の皮質領域に高信号域を示す散在性病変が認められ,右半球の前頭葉内側部にも一部及んでいた。日常会話や物品の使用法の説明課題において,名詞の想起が比較的保たれていたのに対して,動詞の想起障害と助詞の誤りが顕著だった。そこで,動作絵の説明課題を経時的に実施することによって本例の動詞と助詞の回復過程を検討し,動詞の想起障害と文法能力との関係を考察した。6ヵ月後,動詞の想起と助詞の使用はそれぞれ改善した。助詞の選択は動詞の正答,誤答にかかわらず同じように改善したことから両者はある程度独立した能力であると考えられた。本例の多発性病変からは解剖学的考察はできないが,動詞の想起と助詞の選択は異なった神経基盤の上に成り立っている可能性が示唆された。
  • 谷 哲夫, 清水 倫子, 赤根 良, 天田 稔, 中川 勝豊
    2000 年 20 巻 4 号 p. 327-336
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    49歳の右利き女性。脳出血後,超皮質性運動失語を呈した。MRI にて左前頭葉内側面,前部帯状回の一部および脳梁体部の損傷が認められた。本研究の目的は speech dysfluency を分析することであった。本例の speech dysfluencyはstuttering と診断され,脳病変による neurogenic stuttering と精神的ストレスによる psychogenic stuttering の両面の特徴を有すると考えられた。本例の neurogenic stuttering の発現メカニズムについては,脳梁体部の損傷による左右大脳半球の disconnection に加え,前頭前野と前補足運動野の損傷により,基底核の神経機構が破綻した結果と考えられ,大脳皮質—基底核—視床—大脳皮質の運動系ループの関与が示唆された。
  • 長谷川 しのぶ, 遠藤 邦彦, 中村 淳, 浜野 ユミ, 重野 幸次, 長谷川 恒雄
    2000 年 20 巻 4 号 p. 337-345
    発行日: 2000年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
        左半球の脳梗塞後に,視覚失語,触覚失語,そして味覚失語を呈した症例を報告した。MRI では2つの高信号域が認められた。1つは,左角回皮質下にあり,脳梁膨大部からの脳梁放線を含んでいた。もう1つは,左前頭葉皮質下に位置していた。視覚失語,触覚失語のメカニズムは,視覚および触覚の認知系と言語系との離断として説明可能であった。味覚失語もまた,味覚認知系と言語系との離断で説明可能であった。
        本例に 10カテゴリーの視覚呼称課題を行った。その結果,他のカテゴリーの対象物よりも身体部位と衣類のカテゴリーの成績が有意に良好であった。身体部位の呼称は,他のカテゴリーとは異なる経路,すなわち,身体図式と言語系とを結ぶ経路によって行われていると考えられた。本例はこの経路が保たれていたために身体部位の呼称が可能であったと考えられた。
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