失語症研究
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21 巻, 2 号
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特別講演
  • 小野 武年, 西条 寿夫
    2001 年 21 巻 2 号 p. 87-100
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    大脳辺縁系 (辺縁系) は,脳の内側部に位置し,認知,情動発現,および記憶形成のすべての過程に関与している。特に側頭葉内側部に存在する扁桃体および海馬体は,すべての大脳皮質感覚連合野からの情報が収束している領域であり,大脳皮質由来の高次処理情報 (認知情報) に基づいて情動発現ならびに記憶形成に重要な役割を果たしている。すなわち,扁桃体および海馬体は,それぞれ情動および記憶システムの key structure としてヒトの高次精神機能に重要な役割を果たしている。本稿では,解剖学,臨床神経心理学,行動神経科学的研究に基づき, (1) 辺縁系の扁桃体と海馬体を中心とする神経回路, (2) 情動と記憶のメカニズム,および (3) 情動と記憶の相互干渉作用について紹介したい。
シンポジウム
  • 山鳥 重, 河村 満
    2001 年 21 巻 2 号 p. 101-102
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
  • 吉川 左紀子
    2001 年 21 巻 2 号 p. 103-112
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    最近,Haxby ら (2000) は顔知覚の分散神経機構モデルを提案し,その中で顔の恒常的な情報の処理機構と可変な情報の処理機構を区別した。顔の恒常的な情報は人物同定に必要な情報であり,視線や表情のような可変情報はコミュニケーションを促進する情報である。本稿は可変情報に焦点を当て,表情と視線方向の相互作用を検討する心理学研究を報告した。実験によって (1) 視線手がかりによる自動的な注意シフトは情動を表出した表情によって影響を受ける, (2) 情動を表出した表情の知覚は視線方向によって影響を受け,特に視線が観察者の方向に向いているときに知覚精度が高い,ということが明らかになった。これらの事実は,われわれの神経機構が他者からの社会的メッセージをきわめて効果的に検出するしくみを有していることを示唆している。また,これらの研究から,神経機構に関する知見と心理学の行動実験を関連づけることはきわめて有効なアプローチとなることが示された。
  • 山根 茂, 菅生(宮本) 康子
    2001 年 21 巻 2 号 p. 119-127
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    顔に特有な処理を行っている顔ニューロンが少数ながらサルの下部側頭葉に存在する。顔にしかない目と口の間や,目の間の距離を脳が測っているのは顔固有の処理と考えられる。であるから,ヒトの脳でも顔固有の処理を行う場所が存在する可能性は大きいと示唆される。複合したさまざまな情報を持つ顔の時間的処理は,サル・人・図形というおおまかな情報をまず表し,それより遅れて表情・個体という詳細情報を表していることが情報量解析で明らかになった。
  • 河村 満
    2001 年 21 巻 2 号 p. 128-132
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
        脳の臓器としての役割には少なくとも2つがあり,1つは環境の中に自己を適切に置く役割,もう1つは言語などのコミュニケーションの役割である。
        本稿では,街並失認および相貌失認という2つの環境刺激 (街並などの風景と人の顔) の障害の病態について述べた。街並失認と相貌失認の責任病巣はそれぞれ右海馬傍回,右紡錘状回・舌状回であった。また街並失認・相貌失認の発現機序はいずれも右後頭側頭葉-海馬系システムの障害と考えられた。さらに,表情失認について述べ,人の顔の表情認知障害は大脳基底核や扁桃体の障害で生ずることを示した。
        顔を同定するときと,その顔の表情を理解するときとはまったく異なった脳内機構が使われるのである。
指定討論
  • 永井 知代子
    2001 年 21 巻 2 号 p. 133-141
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    相貌認知の特殊性について,相貌失認と Williams症候群研究の立場から言及した。まず相貌失認に関しては,モーフィングによる合成顔画像を用いた新しい相貌認知検査の結果から,相貌失認では相貌弁別精度が著しく低いが,一方でより類似した顔を似ていると判断する傾向は健常者同様であることを示した。これはカテゴリー知覚を反映しており,相貌失認の障害レベルが専門性で規定される可能性を示唆する。近年の fMRI研究ではこの可能性を支持する所見も得られており,従来の相貌認知特殊説に疑問を投げかけている。また,Williams症候群は障害が顕著な視空間認知に比して相貌認知が良好であることから顔モジュール説を支持する疾患とされてきたが,全体情報ではなく部分情報から認知しているとの報告もあり,認知の方法自体が正常とは異なる可能性が指摘されている。このように,相貌認知は特殊である,と断言するにはまだ克服すべき問題が残されている。
原著
  • 古本 英晴
    2001 年 21 巻 2 号 p. 142-151
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    Wernicke領域を中心とする腫瘍により突然発症した漢字の純粋失書例を報告する。漢字・仮名の読字,仮名の書字は正常であった。周辺浮腫の影響からいわゆる左側頭葉後下部病変による漢字の失書との関連性が考えられたが,突然発症という点で特異であると思われた。仮名・漢字の書字とは素朴には一連の筋肉運動の系列を行い,一定の形態を生み出すことであり,また読字という行為も音読という運動を行わせなければ測定できないものである点から,書字も読字も能動的な行為として共通する面があると考えた。また漢字はその読みと形態が多対多対応であり,仮名は一部の例外を除いて一対一対応であると考えられる。漢字・仮名とも書字に際しては意味・音韻・形態の3つの要素が脳後方領域から前頭葉の運動領域に対して制御をかける必要があり,仮名・漢字書字の差異はこの3者の重みの差によるものと考えた。いわゆる「文字の視覚心像」が角回に存在するという従来の考え方を批判し,「制御」という観点を強調した新たな書字・読字のモデルの提案を試みたので報告する。
  • 本多 留実, 松浦 晴美, 高月 容子, 綿森 淑子, 鎌倉 矩子
    2001 年 21 巻 2 号 p. 152-161
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病 (AD) 患者の談話から聞き手が受ける異質な印象を明らかにするために,軽度AD患者の談話の特徴を,高齢健常者,失語症患者との比較で検討した。軽度AD患者,高齢健常者,失語症患者 15名ずつに,情景画の叙述課題および手順の説明課題を実施し,得られた談話を,課題の「理解」,課題への「取り組み」,「主題の表出」,「推測」による情報の付加,課題からの話の「逸脱」,手順に必要な「ステップの表出」,順序立てた説明の「構成」などの項目を含む,新たに作成した評定法を用いて分析した。その結果,ほぼすべての項目について,軽度AD患者の談話と高齢健常者の談話との相違がみられた。また,「理解」,「取り組み」,「逸脱」などの項目については,AD患者の談話と失語症患者の談話との相違が明らかになった。
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