失語症研究
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21 巻, 4 号
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原著
  • 塚田 賢信, 宇野 園子, 神山 政恵, 小林 久子, 田村 洋子, 松田 江美子
    2001 年 21 巻 4 号 p. 236-241
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
        東京都内の地域保健・福祉施設の利用者の実態を知り,今後の地域における STサービスの役割を考えることを目的としてアンケート調査を行った。脳血管障害により発症した364名分の利用者データを分析したところ以下の知見を得た。 (1) 地域福祉・保健施設の STサービス利用者のうち,98%が介護保険制度対象者であり,約7割が失語症者であった。 (2) 発症から地域機関がかかわるまでの期間の中央値は13.2ヵ月。1年以内に地域機関が関与した人の割合は47%で,そのうち3割強が言語訓練を受けていなかった。 (3) 発症から地域機関がかかわるまでのプロセスの中に,病院入院→病院での言語訓練→地域機関での言語訓練というステップを認めた。
        これらの結果を元に,介護保険制度実施下での地域での STサービスの必要性とサービスを提供するにあたっての課題について討論を加えた。
  • 東川 麻里, 飯田 達能, 波多野 和夫
    2001 年 21 巻 4 号 p. 242-249
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    常同的発話を呈した,語新作ジャルゴン失語 (neologistic jargon : Kerteszら 1970) の症例を経験したので報告する。本症例の発話には,呈示刺激や場面が変わっても同一の無関連語 (irrelevant word) が出現し,その無関連語を中心として,音韻的および意味的に関連した「語」が変化しつつ繰り返されるという常同的な特徴がみられた。この音韻的・意味的に類似した「語」への変化・反復のパターンは,語新作ジャルゴン失語における,音韻論的・意味論的解体を示唆するものであり,特に,本症例の常同的発話においては,これらの解体が同時に現象として現れていた。われわれは,この音韻論的および意味論的解体を呈する常同的発話の出現機序について,Dell (1986) およびMartinら (1992) の「相互拡散活性化モデル」 (interactive spreading activation model) を用いて,認知神経言語学的考察を試みた。
  • 佐藤 幸子, 小嶋 知幸, 加藤 正弘
    2001 年 21 巻 4 号 p. 250-260
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    交叉性失語例におけるジャルゴン失書の障害メカニズムについて,横山ら (1981) の free running 仮説に依拠しつつ,さらに音韻処理,上肢の意図的運動制御の2点を加え,3つの視点から明らかにすることを目的とした。症例はOK氏,男性,発症当時56歳。右側頭・頭頂・後頭葉にわたる広範な脳梗塞を機に,ジャルゴン失書を伴う交叉性失語を発症した。発話は流暢で,字性錯語が目立った。理解面の障害は軽度であった。検査の結果, (1) 文字のトレースには問題を認めず,書字運動記憶心像は保存されていると考えられた。 (2) 複数の仮名文字や音韻の操作に著明な障害を認めた。 (3) いったん開始した上肢の意図的運動の抑止が困難であった。以上より,非損傷側である左半球に側性化された書字運動記憶心像が,損傷側である右半球に側性化された音韻処理中枢からの制御を失い,さらに上肢の意図的運動制御困難が加わった結果,書字に特異的なジャルゴンが出現したものと考えた。
  • 阿部 晶子, 遠藤 邦彦, 柳 治雄, 市川 英彦, 井佐原 均
    2001 年 21 巻 4 号 p. 261-271
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,失語症例における語音弁別障害と周波数変化の弁別障害との関連性を検討することを目的とした。対象は,左半球損傷の失語症 9例と,健常成人 11名であった。言語音の弁別検査と非言語的な周波数変化音の弁別検査を行った。言語音の弁別検査では,検査刺激に,速いフォルマント遷移を持つ /ba/と/da/,および遅いフォルマント遷移を持つ /wa/と/ra/ を用いた。非言語音の弁別検査では,検査刺激に,/ba/,/da/ の第2フォルマント (F2) 遷移に対応する速い周波数変化を持つ純音,および /wa/,/ra/ のF2遷移に対応する遅い周波数変化を持つ純音を用いた。その結果,失語症例の言語音の弁別障害は,横側頭回の損傷による周波数変化の知覚障害に起因するとは言えないものの,言語音の中でも速いフォルマント遷移を持つ /ba/,/da/ の弁別に関しては,知覚レベルの障害の影響が大きいことが示された。
  • 田中 春美, 松田 実, 水田 秀子, 藤原 誠
    2001 年 21 巻 4 号 p. 272-279
    発行日: 2001年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    「聴覚的には理解できなかった語を正確に復唱でき,書いて示されるとすぐに理解でき,聴覚的 lexical decision が可能」とされ るFranklin (1989) の word-meaning deafness の定義を十分に満たす,31歳の右手利き女性を報告した。会話中突然に簡単な語でも「えっ」と聞き返すことがあり,理解できなかった語を自分で何回も繰り返し言って理解しようと努めた。その場合に相手が文字を示せばたちどころに理解したし,他の語彙に言い換えてやってもすぐに理解できた。単音の復唱は 97%正答,lexical decision は初期にでも 78/80正答していた。非単語の復唱は 4音節が 4/5系列正答できた。書取における聴覚的理解で頻度効果は認めず,心像性効果のみ認めた。以上から本例は, “音が正確に知覚され—言語音として正しく分析・認知され—その連なりが意味のある単語だと認知されながら—意味と結びつかない” 状態を示す word-meaning deafness であると考えた。
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