失語症研究
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22 巻, 3 号
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カレントトピックス
  • 板倉 徹, 中 大輔, 前島 伸一郎
    2002 年 22 巻 3 号 p. 175-182
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    著者らは本稿において近年の脳神経外科手術の発展について述べた。手術用顕微鏡の導入,CT や MRI などの画像診断の進歩,頭蓋底外科の進歩などが,脳神経外科手術の進歩を担った主要なものであるが,手術ナビゲーションと覚醒下手術の発展は術中言語野や運動野の正確な同定を可能とし,脳神経外科手術の成績向上に貢献した。手術ナビゲーションで病変部への正確な到達が可能となり,不必要な術後神経脱落症状は減少した。さらに覚醒下手術の実施は術中言語野と運動野の正確な同定を可能とし,術後の失語症や片麻痺などの後遺症を激減させている。本稿では functional MRI による感覚運動野と言語野の同定について述べ,その後,言語野近傍病変に対する覚醒下手術の著者らの経験について論じた。
シンポジウム
  • 岩田 誠
    2002 年 22 巻 3 号 p. 183-184
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
  • 三村 將
    2002 年 22 巻 3 号 p. 185-193
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    高次脳機能障害 (higher brain dysfunction) いう語は用法に少なからぬ混乱がみられるのが現状である。しかし,少なくともこの概念は脳損傷に伴う認知行動障害を表す包括的な呼称であり,特定の病因 (例 : 頭部外傷) や特定の症状 (例 : 遂行機能障害) をさすものではない。したがって,同じく高次脳機能障害といっても,その様態はむしろ非常に広範囲にわたることを念頭に置くべきであろう。精神科を受診してくる高次脳機能障害の患者を,「主観的障害」を呈する場合,「第三者の障害」を呈する場合,身体障害が受けられず精神障害の認定を目的とする場合の三様に分けて概説した。いずれの場合も,精神科的にも障害を的確にとらえることが難しく,一方,各科の医師や他職種が学際的に協調して,患者に適した障害評価や医療サービスの場を提供していくことが重要であると考えられた。今後,このような職種を超えた連携や情報交換において,失語症学会や関連専門学会の果たす役割は大きいと思われる。
  • 大橋 正洋
    2002 年 22 巻 3 号 p. 194-199
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    この数年,高次脳機能障害は,メディアや行政の用語として用いられるようになった。しかしながら,医学領域ではこの語の定義について見解は統一されていない。リハビリテーション医学の分野では,20年以上も以前から,診断や治療についての試みが行われてきた対象である。しかし,主な関心は脳血管障害による失語・失行・失認といった神経学的症候に絞られていた。この数年,救急医療の進歩によって,脳外傷などによるびまん性脳損傷の後,救命された人々がリハビリテーションの現場に来るようになった。これらの人々は,認知,情緒,心理社会的障害などを持つ傾向があり,これらの障害は評価や対応が困難である。高次脳機能障害を持つ人々を支援するためのシステムは,量的にも質的にも十分ではない。1998年,当事者組織が設立され,広報活動を行った結果,この用語が急速に注目をあびるようになった。
  • 本田 哲三
    2002 年 22 巻 3 号 p. 200-205
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    東京都では高次脳機能障害者の実態調査を実施した。対象は成人の高次脳機能障害者 (痴呆を除く) で都内の 372施設に調査票を送付し報告を求めた。報告障害者数は 1,234名で,原疾患は脳血管障害が 983名 (79.7%) ,ついで頭部外傷 10.1%であった。もっとも多い障害は失語症で 56.9%,以下注意障害 29.8%,記憶障害 26.2%などであった。都内の高次脳機能障害者総数は 4,177人と推定された。このうちの 300名に生活実態調査を実施した。日常生活では,基本的な日常生活活動に比較して社会的な活動である道具的日常生活活動の障害が著しかった。普段の生活では社会との接点の少ない暮しぶりが明らかで,原職復帰していたのは 3.9%にすぎなかった。
  • 長岡 正範
    2002 年 22 巻 3 号 p. 206-214
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    わが国の障害者福祉制度では,障害者手帳によって種々のサービスが提供されている。一方,近年,前頭葉障害を中心とするいわゆる高次脳機能障害について問題が提起されている。その理由の 1つは,身体障害,精神障害という障害の種類別の福祉サービス体系では高次脳機能障害者の複合的な問題に十分対応できないことである。この問題に対する行政的施策化に向けて,平成 13年度から 3年計画で高次脳機能障害支援モデル事業が開始された。その概要と現状について報告した。
セミナー
  • 大東 祥孝
    2002 年 22 巻 3 号 p. 215-220
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    神経心理学の歴史的な経緯そのものではなく,今日的意義の高いと思われる3つのトピックスに焦点を当てて,そこにおける「方法」ないし「考え方」について論じた。第1に,「失語論争」 (1908),第2に,Geschwind の提起した「離断症候群」,第3に,最近とみに大きなウエイトを占めるようになってきた認知神経心理学の立場から提起されている新たな「同時失認」の概念に論及し,それぞれについて,今日的意義や臨床神経心理学観点から検討を行い,同時失認に関しては,これを「意味型」,「知覚型」,「注意型」に亜型分類することを提起した。
  • 本村 暁
    2002 年 22 巻 3 号 p. 221-224
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
       ベッドサイドにおける,失語の定性的な観察・記載法について述べた。まえおきとして,脳卒中 (脳梗塞) 診療での失語の症候学的意義について概観した。
       失語は,病変の側 (side),脳梗塞の病型 (ラクナ,アテローム血栓,心原性塞栓),病変部位について有力な情報となる。とくに Wernicke失語と心原性脳塞栓の関連について触れた。ベッドサイドの失語のみかたの要点は,話す (自発語,命名,復唱) ・聞く (聴覚的理解) ・書く・読む (書字理解) という言語の 4様式における障害とその質,失語症全体の重症度をつかむことである。
  • 鎌倉 矩子
    2002 年 22 巻 3 号 p. 225-231
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    20世紀の初頭に Liepmann が失行の概念を提唱して以来,臨床家たちは多くのジレンマに直面してきた。種々の修正提案にもかかわらず,Liepmann の考えは基本的には無修正のままである。現在,臨床の場面で用いられている失行の検査法はほぼ共通している。観念運動失行の検出のためには社会慣例的な動作やパントマイムなど物品を使わない動作を用い,観念失行の検出のためには実在の物品の使用を課すのが一般的である。このほかに描画や物品構成や更衣が加えられる。しかし患者が示すエラーの質は,物品を用いる課題と用いない課題とで変わらないという指摘がある。観念運動失行,観念失行のいずれについても,これが heterogenous だという主張がある。新たな視点で動作と行為の誤り特性を分類することは,行為の高次障害の新たな理解を生む可能性がある。これについて著者らは質的研究による新たな試案を作成中である。また残る問題として行為喚起の文脈という問題がある。この視点を加えることが,より発展した行為障害の定義のために必要だと思う。
  • 岩田 誠
    2002 年 22 巻 3 号 p. 232-236
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    視覚失認を理解するにあたっては,視覚情報処理と認知のメカニズムに関するモデルが必要である。しかし,Lissauer が提唱した視覚失認に対する古典的な二分法理論は,視覚認知の神経機構における今日的な知見からみて,必ずしも適切とはいえない。すなわち,視覚認知の神経機構においては,モジュール構造による並列処理が営まれているとする考えが一般的であり,統覚と連合という 2つの過程の直列的なモデルは実際とは異なっている。視覚失認の臨床的な観察においては,このような点をよく理解し,視覚認知機構の障害に対するモジュール的な分析がなされる必要があると考えられる。
  • 山鳥 重
    2002 年 22 巻 3 号 p. 237-240
    発行日: 2002年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    ヒトの記憶はその使われ方の違いによって大きく 5つのタイプに区別できる。すなわち,作業記憶,出来事記憶,予定記憶,意味記憶,および手続き記憶である。このうち出来事記憶,意味記憶および,手続き記憶はその人の生活史および行動パターンの基盤を形成する。作業記憶は意識と密接に関係し,心理的現在を可能にする。予定記憶は現在を未来へつなぐことを可能にする。この 5種の記憶の神経心理学的特徴,および解剖学的基盤について著者らの考え方を述べた。
失語症全国実態調査報告
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