失語症研究
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8 巻, 3 号
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カレントスピーチ
原著
  • 岩田 まな, 佃 一郎, 山内 俊雄
    1988 年 8 巻 3 号 p. 194-200
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
        1年以上言語訓練を継続した失語症患者20例について,SLTA下位項目の推移を検討し,以下の知見を得た.
        (1) 理解は表出に比べ,発症初期から高得点を示した.
        (2) 表出は長期間かけてゆっくり改善したが,なかでも語想起と書字は比較的順調な改善がみられた.
        (3) 仮名障害も順調に改善するようにみえるが,課題の数や性質を考慮しないと安易に結論を出せないと思われた.
        (4) 文の復唱は改善がみられず,記銘力障害の残存が予想されたが,やはり課題の性質を考慮する必要があると思われた.
        (5) 長期間言語訓練を継続させるための条件について触れた.
  • 藤井 俊勝, 深津 玲子, 木村 格, 笹生 俊一
    1988 年 8 巻 3 号 p. 201-205
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    一側性空間無視がどの機能水準の障害であるのかを明らかにするため視覚弁別課題を用いて検討し,あわせて視覚弁別過程での刺激提示空間の影響についても検討した.対象は一側性空間無視を示す右大脳半球病巣をもつ5名の右利き男性である.被験者の課題は左・右・正中それぞれの空間に上下に同時に提示された2つの図形の組が同じか異なるかを判断し,口頭言語にて答えることである.今回の課題では,すべての被験者が刺激提示空間にかかわらず一側性空間無視を示し,刺激提示空間による影響は明らかでなかった.以上の結果から,一側性空間無視は視知覚あるいはそれに続く処理の過程での障害により生じる症候であり,反応という出力過程に発現機序を求めるのは不適切であることが示唆された.また,刺激提示空間にかかわらず一側性空間無視が現れるという性質は明らかとなったが,無視の量の変化という問題はさらに検討が必要であると考えられた.
  • 鶴岡 はつ, 新井 弘之, 小川 宏, 桑名 昭治, 鹿島 晴雄, 加藤 元一郎, 佐久間 啓, 古川 博子, 田中 隆一, 植木 幸明
    1988 年 8 巻 3 号 p. 206-216
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
        41歳, 右利き, 男性. 5才時発病, 右片麻痺, 知能障害と粗暴な行動が著明なため, 9歳11ヵ月時左大脳半球を摘除した症例の 31年に及ぶ神経心理学的機能の推移を追跡し検策した.
        言語は手術直後より, 誤りなく発しており, 発症より手術に至る 5年間の右脳機能の代償と考えられたが, その後も日常会話の域を脱し得ず, 思考力を要する複雑な課題の理解は困難であった. また構成機能などの障害も著明で知能障害の影響が主要因であった.
        25歳時, 3ヵ月間の集中訓練により IQの上昇, 書字, 計算の習得力にはみるべきものがあったが, 41歳現在では訓練前の状態にまで低下している.
        家人の協力の下, 清掃業者として自活の道を歩んでいる自験例に, 若し術後直ちに計画的・継続的な訓練を行えたなら, 書字・計算等現在まで残り活用されるものがあったのではないだろうかと考えるものである.
  • 今村 陽子, 植村 研一, 龍 浩志, 小島 義次, 金子 満雄
    1988 年 8 巻 3 号 p. 217-223
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    6つの下位テストから構成した高次脳機能スケール(higher brain function scale 以下 HBF スケールと略す) を用いて, 脳障害患者の経時的評価を行った.又長谷川式痴呆診査スケール (以下 HDR スケールと略す) や WAIS との比較も検討した.痴呆例や意識障害をもつ例では数唱問題以外はほとんど 0点となるパターンであった.痴呆例は, 経時的な検査でもこのパターンに変化はなかったが, 意識障害が回復していく例では, 記銘・記憶障害がまず回復し, 5単語の5分後の再生, 7シリーズなどの得点が上昇した.しかしより高次の脳機能を必要としていると推測される語の列挙, 類似問題, 仮名ひろいテストに成績不良を認める症例が多かった.局所病巣例の慢性期では, 前頭葉病巣例では仮名ひろいテストが特に低下する傾向を持ち, 側頭葉病巣例では5分後再生が障害されていた.これらの所見は病巣の局在と関係することが示唆された.
  • 遠藤 邦彦, 牧下 英夫, 谷崎 義生, 杉下 守弘, 柳沢 信夫
    1988 年 8 巻 3 号 p. 224-236
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
        構音失行の純粋例3例, 麻痺性構音障害例4例, 健常者8名の構音器官の非言語的くり返し運動を比較した.どの症例にも口腔顔面失行はなかった.
        単純な非言語的くり返し運動の検査は, 構音器官の一つの部分の動き, すなわち, (1) 舌を前後に動かす, (2) 舌を左右に動かす, (3) 舌を上下に動かす, (4) 舌打ち, (5) 口唇を左右に引く, (6) 口唇を破裂させる, (7) 噛む, であった.複雑な非言語的くり返し運動の検査は, 構音器官一つ一つの部位の動きを組み合わせたもの, すなわち, (8) 口唇を破裂させてから舌打ち, (9) 口唇を破裂させてから噛む, (10) 舌打ちしてから噛む, であった.以上を5秒間で何回できるか検査した.
        単純なくり返し運動の検査では3群間に差はなかった.複雑なくり返し運動の検査では構音失行例は統計的に有意に速度が遅かった.
        構音失行例では構音器官の離れた部位の間 (例, 口唇と舌) の動きのタイミングを合わせる機能が障害されており, この非言語的段階の障害が非流暢な構音の一因になっているのではないかと考えられた.
  • 須山 信夫, 小林 祥泰, 山口 修平, 岡田 和悟, 恒松 徳五郎
    1988 年 8 巻 3 号 p. 237-242
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    症例は 65歳, 右利き, 男性, 左視床出血にて発症後 14日目に入院.このときは超皮質性感覚失語を呈し発症 2ヵ月後には軽度の健忘性失語と失語とは独立に存在するGerst-mann症候群を認めた.頭部MRIにて病巣は視床に限局性に認め, IMP-SPECT にて角回領域を含めて左大脳半球に広範な血流の低下が認められた.左視床出血により Gerstmann の 4徴を認めた症例はいままでに 2例しか報告がない.本例は非言語性に証明された左視床出血による Gerstmann 症候群として興味ある症例と考えられる.
  • 福沢 一吉, 辰巳 格, 笹沼 澄子
    1988 年 8 巻 3 号 p. 243-250
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    軽度~中等度痴呆患者 (アルツハイマー病および老年性 52名,多発梗塞性 41名,その他 7名) を対象に音・意味カテゴリーの2条件下で語想起を行なった.その結果 (1) 痴呆群の再生語数は健常群のそれに比して有意に低下しており,重症度が増すにつれて低下がより顕著であった. (2) 健常群では音条件に比べて意味カテゴリー条件の再生語数が有意に多かったのに対して,痴呆群では両者の関係が逆であった. (3) 一方,両群にみられる再生語の出現頻度パターンとその種類は類似していた. (1) (2) の結果はいずれも痴呆群における意味記憶の構造的・機能的変化を示唆するものであり,一方 (3) の結果はこうした障害を有する痴呆患者においても健常群と同様に,特定カテゴリーにおける中心的な語は周辺的な語に比べて回収され易いことを示唆するものと考えられた.
  • 波多野 和夫, 国立 淳子, 大橋 博司, 浜中 淑彦, 大塚 晃, 山上 達人
    1988 年 8 巻 3 号 p. 251-259
    発行日: 1988年
    公開日: 2006/07/28
    ジャーナル フリー
    超皮資性失語の一例に観察された種々の強迫的行動について考察した.即ち具体的には, 強迫的な物品の操作・探索・確認,質問の強迫的復唱と文字・数字の強迫的音読 (聴覚的・視覚的反響言語) ,常同的な反復行為・「決まり文句」, 等である.この異常行動群を理解するためには, これらを個別に取り上げて, その神経回路と障害発生機序を別々に考察する「神経学的」方法よりも,個々の行動異常の背景により一般的な器質性の「強迫傾向」とも言うべき精神病理学的病態を想定する「精神医学的」な考え方の方がより正鵠を得ているのではないかと考えた.神経心理学に於ける精神医学的視点の欠くべからざる所以を論じ,これを結論として述べた.
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