魚類の成熟・産卵に影響をおよぼす主な外部環境要因として, 一般に取上げられているのは光と温度とであるが, そのほか, 水流, 水位, 底質, 水質などの理化学的要因, および魚類相互の刺戟などの生物学的要因が魚類の排卵および産卵行動と関連して考えられている。また, 親魚の飼餌料の量と質も直接産卵数や卵質などに影響をおよぼし, また魚の成長速度や魚の大きさを左右してそれが生殖腺の成熟に影響を与えるところから, 広義に外因として考えてよいであろう。このような外部環境要因, 特に光・温度と魚類の成熟・産卵との関係については, 天然魚の性周期および産卵習性を外部環境要因との関係において観察したもの, および実験的に光や温度を調節して生殖腺の発達状態や内分泌腺を組織学的に調べたものなど, 種々の研究が多くの魚種について行なわれている。しかし, 種苗生産と関連し, 親魚の育成を目的とした養殖魚の成熟・産卵のコントロールに関する実験研究は決して多いとはいえない。近年わが国においては, 産業上の必要性から, 主としてニジマス, アユについて光, 温度による産卵期 (採卵期) の促進または抑制が実験的に試みられるようになり, この方面の知見もいくらかは集積されてきた。
ここでは, これまでの研究によってえられた成果を各要因ごとに取りまとめて綜述し, あわせて現在わが国で行なわれている養殖魚の外部環境要因による産卵コントロールについて, その現況と問題点を述べる。
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