1.有用魚類の幼稚仔の中期餌料として, 枝角類
Moina dubiaの生活史, 増殖生態などを明らかにする実験を行った。
2.
Moina dubiaの増殖適温は25℃である。餌として鳩糞を用いた場合がもっともよく, 寿命は15日で, その間11回仔虫を産出し, 1回の産出仔虫の最大は25個体, 総産出数は193個体であった。ついでパン酵母, 乾燥クロレラがよく, 寿命は8~13日, その間に隔日または連日仔虫を産み, その総数は112~136個体であった。大量培養の実際においては, 餌料入手の容易なパン酵母, 醤油粕が適当と思う。
3.増殖に対する塩分の影響は大きい。Cl 0.5‰で寿命は12日, その間6回の仔虫産出があり, 総産出個体数は97で, 寿命・増殖能はもっとも大きい。塩分濃度が高くなると寿命は短く, かつ増殖能も抑制される。Cl 4‰以上では増殖せず, 24時間以内に斃死する。
4.耐久卵のふ化に対する塩分の影響は, 塩分濃度が高いほど大きく, 淡水でのふ化率23.9%に対してCl 5‰では1.4%, Cl 7‰以上ではふ化しない。これに対して, Cl 10‰の高塩分濃度に52日間浸漬した耐久卵を淡水に戻した時のふ化率は57.8%である。このことから耐久卵の高塩分濃度に対する耐性は大きいと考える。
5.
Moina dubiaの高塩分への順応の可能性は, 今回の実験ではCl 3.5‰を上限として, それよりも高塩分への順応は期待できなかった。
6.培養液の水質, とくにNH
4-N, NO
2-Nの
Moina dubiaの増殖に対する影響濃度は, TL
m48で表すと, NH
4-N105ppm, NO
2-N5.3ppmとなる。換水しないで50日程度の培養実験では, NH
4-N34ppm, NO
2-N0.03ppmが最大となり, この範囲の水質条件では
Moinaは最大9, 600個体/
l, 培養後半は3, 000個/
l体以上の密度を維持している。したがって, この程度の水質悪化は, 直接増殖に影響するとは考えられない。むしろ溶存酸素量の低下の影響が大きいので, 溶存酸素量については4~5m
l/lの範囲を保つことが肝要と考える。
本研究は1974~1979にわたって実施したものである。研究に際して助言を賜った三重大学名誉教授伊藤隆博士, 並びに研究に協力された当時の学生, 小森徹・福田辰生・山田達夫氏らに対して謝意を表する。
抄録全体を表示