水産増殖
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62 巻, 1 号
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原著論文
  • 藤川 裕司, 片山 知史, 安木 茂
    2014 年 62 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    宍道湖のワカサギは1994年漁期に激減し,その後不漁が継続している。今後,資源の増大策を検討する必要があるが,そのためには生活史を通した生息場所と回遊パターンを明らかにしておくことが基本的に重要な課題である。耳石のストロンチウム,カルシウム比の分析結果,ます網調査およびひき網調査結果から回遊パターンを調べた。その結果,主たる産卵場である宍道湖流入河川の斐伊川で孵化したワカサギは速やかに流下し,5 ~ 8 月を中心に大部分が中海かあるいは海へ降下し,産卵期の 1 ~ 2 月になると産卵のために宍道湖へ遡上するものと考えられる。その降海前の生息場としては,流入河川が重要であると推測された。以前の豊漁時代に資源の主体であった湖内残留群は,現在は低位水準にあると考えられる。
  • 神原 淳, 北出 正樹, 栗山 功, 土橋 靖史
    2014 年 62 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    マハタ0歳魚および1歳魚を光条件 LD12:12 の屋内水槽で,また,2歳魚を自然光下の屋外の生け簀で自発摂餌により飼育し,摂餌活動の日周期性について光周期や水温とも関連づけて検討した。0歳魚と1歳魚では,摂餌パターンはいずれも薄明時+明期摂餌型で摂餌活動のピークは明期開始直後の照度が急激に上昇する時間帯に見られた。また,明期終了直前の減光期にも比較的高い摂餌活性が認められた。一方,明期中の摂餌活動の割合は0歳魚の方が1歳魚より高く,逆に薄明時の割合は1歳魚の方が高かった。生け簀の2歳魚においても摂餌活動のピークは朝夕の薄明時に一致した。また,屋内の1歳魚および生け簀の2歳魚では水温が25°Cを超えると摂餌活性が低下する傾向があった。以上から,マハタの摂餌活性は薄明時に高まり,成長と共にその傾向は強くなること,また,25°C以上の水温は摂餌に適さない可能性が示唆された。
  • 水野 かおり, 三浦 智恵美, 三浦 猛
    2014 年 62 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    カワハギおよびウマヅラハギの適水温を明らかにするため,異なった水温(15°C,20°C,25°C,30°C)で63日間,飽食給餌下にて飼育し,両種の飼育成績を比較した。カワハギの成長は20°C~25°Cが最もよく,日間摂餌率および飼料効率は,15°Cと25°Cでは高水温ほど増加したが,30°Cでは減少した。ウマヅラハギは30°Cでは全ての個体が死亡した。日間増重率および日間摂餌率は,15°Cと20°Cでは高水温の20°Cの方がより増加したが,25°Cでは減少した。一方,飼料効率は15°Cが最も高く,高水温ほど減少した。これらの結果から,両種の飼育適水温はカワハギ20°C~25°C,ウマヅラハギ15°C~20°Cの範囲内であると推察された。また,海面小割生簀で15ヶ月間の飼育試験を実施した結果,カワハギは60 g から371 g,ウマヅラハギは24 g から267 g に成長し,累積死亡率は,カワハギでは29%と高く,ウマヅラハギでは 3%と低かった。
  • 阪本 憲司, 五十嵐 真由
    2014 年 62 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    ウマヅラハギの尾鰭細胞による高温耐性の評価を試みた。17°Cで馴致飼育していた供試魚を30°Cに高温曝露したときの個体の生存時間と,各個体から得られた尾鰭細胞の高温処理後(43°C,2時間)の生細胞率との関係を調べた結果,両者の間に有意な正の相関(r=0.686,P<0.05)が認められた。本実験結果から,尾鰭細胞を用いることにより,魚体を殺すことなく個体の高温耐性の評価が可能であり,選択育種への効果が期待される。
  • 阿部 信一郎, 新井 肇, 荒木 康男, 榎本 昌宏, 原 徹, 藤本 勝彦, 伊藤 陽人, 井塚 隆, 松崎 賢, 田子 泰彦, 山本 敏 ...
    2014 年 62 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    河川規模の比較的大きな13河川で,内水面漁業者への聞き取り調査および遊漁者数調査を基に選定したアユの漁獲が良好な場所および周辺に比べ以前よりアユが漁獲できなくなった場所(不振区)のアユ生息密度と友釣りによる単位努力量当たりの漁獲量(CPUE)および32項目の河川環境要因を調査した。その結果,不振区は,アユの生息密度が低いため友釣りによる CPUE が低いことが分かった。また,不振区の河川環境は,河床勾配が緩やかで河床に露出した長径25 cm 以上の巨石の割合が小さく,かつ,石が埋まった平滑な河床により特徴付けられることが分かった。ロジスティック回帰分析の結果,巨石の比率が27%を下回った場合に漁獲不振の危険性が増大すると推定された。
  • Roslianah Asdari , Amal Biswas , 山本 慎一, 荒木 秀雄, 川島 健, Roshada Hashim , ...
    2014 年 62 巻 1 号 p. 45-54
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    カゼインを含む半精製飼料に魚油(FO, PO および 8PO:2MCT 混合油を10%ずつ配合し, 等脂質, 窒素およびエネルギー含量の FO, PO および MCT 飼料を調製した。100 l 容円型黒色水槽に平均体重7.3 g の稚魚を20尾ずつ収容して各試験区を設け, 所定の飼料 を 1 日 2 回飽食給与して8週間飼育した。なお, 試験区は各飼料につき3反復区を設けた。終了時の体重に有意な区間差はなかったが, 摂餌量とともに PO 飼料区が僅かに重く, MCT は飼育成績やタンパク質蓄積率に影響を及ぼさなかった。終了時における各飼料区の筋肉および肝臓脂肪酸組成は飼料のそれらを反映し, PO および MCT 飼料区でも C22:6n-3(DHA)が多少認められ, 魚粉の僅かな DHA が選択的に蓄積されるか, 他の脂肪酸による補足効果が考えられた。また, PO および MCT 飼料区では C18:2n-6 から C20:4n-6 への鎖長延長と不飽和化反応の促進していることが示唆された。
  • 片町 太輔, 池田 実, 佐藤 尚史, 鈴木 重則, 菊池 潔, 小島 大輔
    2014 年 62 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    トラフグの遺伝的変異性や集団構造を詳細に明らかにすることを目的として,迅速かつ低コストでマイクロサテライト DNA16 ローカスのジェノタイピングが可能な4つのマルチプレックス PCR システムを開発した。開発過程ではスタッタリング,アリルドロップアウト,ヌルアリルが検出されたローカスを除外し,本システムの精度の向上を図った。日本沿岸の3地点から採集された113個体を用いた評価から,16ローカスは高い変異性を有しており,本システムは今後,本種の集団遺伝学的分析に有効であると考えられた。
  • 市川 卓, 村上 直人, 森岡 泰三, 村上 恵祐, 浜崎 活幸
    2014 年 62 巻 1 号 p. 65-73
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    ケガニの種苗生産において,幼生が沈降した後に大量死することが問題になっている。幼生の沈降を回避する飼育技術を開発する基礎として,水槽内の光環境が幼生の沈降と発育に及ぼす影響を透明ポリカーボネート製と黒色ポリエチレン製の水槽を用いて調べた。また,攪拌機による飼育水の攪拌効果も予備的に検討した。昼間の光環境は水槽種類で大きく異なり,光量子束密度は黒色水槽では水深に比例して減少したが,透明水槽では中層と下層で大きい値を示した。水槽内の下層に分布したケガニ幼生の割合(沈降率)は日齢とともに大きくなった。昼間の水槽内分布は飼育水の機械的攪拌から影響を受けなかったが,沈降率は透明水槽を使用した場合に高かった。また,幼生の発育は透明水槽で遅延した。さらには,沈降率は昼間より夜間の値が低く,水槽間の差が縮小した。以上のように,水槽内の光環境が幼生の水槽内分布と発育に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。
  • 和田 敏裕, 島村 信也, 根本 芳春
    2014 年 62 巻 1 号 p. 75-88
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    汽水性の潟湖である松川浦におけるホシガレイ種苗の放流後の食性,成長,および分散過程を調査した。2003年6月に27900尾(3群合計),2004年6~8月に53217尾(4群合計)を松川浦中央部に放流した(全長8.0~10.1 cm)。2mビームトロールを用いた浦内5定点調査により,放流種苗は主に南部に移動して速やかに摂餌を開始し,約1週間で環境に順化すると考えられた。全長15 cm 未満の放流種苗の主な餌生物は豊富に分布するアミ類とヨコエビ類であった。単位努力量当たりの採捕尾数は全ての放流群で速やかに低下したが,魚食性魚類の胃内容物から放流種苗は確認されなかった。放流種苗の成長は天然稚魚を下回ることから,種苗生産過程で適切な成長を経た良質な種苗を放流すべきであると考えられた。1歳魚は,松川浦ではほとんど採捕されないのに対し,放流翌年の6月以降,外海でさし網や底びき網で採捕されたことから,1歳魚の多くは夏までに外海に移動すると考えられた。
  • 間野 静雄, 淀 太我, 石崎 大介, 吉岡 基
    2014 年 62 巻 1 号 p. 89-97
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    長良川ではアユの小型化が問題となっている。天然遡上個体以外に人工種苗,琵琶湖産種苗,海産種苗が放流されている長良川において,まず,各由来の放流用種苗の耳石 Sr/Ca 比と外部形態の特徴を把握し,その結果に基づいて10月下旬に夜網漁によって採捕した72個体の由来判別を行ったところ,86.1%が天然遡上個体,9.7%が人工種苗,4.2%が海産種苗と判別され,琵琶湖産種苗は認められなかった。また,天然遡上個体は放流種苗より有意に小さく,採捕時の体長は孵化日や遡上日との間に相関はない一方で,遡上時の逆算体長や河川生活期における瞬間成長率との間に正の相関がみられた。以上のことから,秋季に長良川でみられる小さなアユは,河川遡上時に相対的に体長が小さく,これにより遡上後も成長の悪かった天然遡上個体と考えられた。
  • 阪倉 良孝, 安藤 嘉英, 冨岡 千里, 余語 滋, 門村 一志, 宮木 廉夫, 萩原 篤志
    2014 年 62 巻 1 号 p. 99-105
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    異なる通気量と塩分勾配がオニオコゼ仔魚飼育に与える影響を調べた。容量 1 kl の円形水槽で2つの飼育実験を孵化仔魚(0日齢)より着底まで実施した。実験1では5つの異なる通気量(0-1200 ml/min)で21日齢までの飼育を行った。その結果,最終日の生残と通気量の間に有意な正の相関が検出され,300 ml/min 以上の通気量で生残が安定した。実験2では飼育水槽に水面から22 ppt の汽水,底面から34 ppt の海水をそれぞれ連続注入することで塩分勾配を形成させ,対照に34 ppt 海水に300 ml/min の通気を施す水槽を設け,23日齢まで飼育した。その結果,塩分勾配水槽で飼育した魚の成長と着底が同調したが,飼育終了時の生残(47.3%)は対照のそれ(68.2%)より低くな った。1 kl 規模でのオニオコゼの仔魚飼育には300 ml/min 以上の強い通気による水流が必要であることが明らかになり,さらに塩分勾配の飼育水槽への導入により種苗生産に新たな可能性を見いだした。
短報
資料
  • 石田 良太郎, 佐藤 敦一, 上田 吉幸
    2014 年 62 巻 1 号 p. 111-119
    発行日: 2014/03/20
    公開日: 2015/04/02
    ジャーナル フリー
    スケトウダラを対象とした海洋生態系研究には,フィールド調査に加えて飼育実験が重要な役割を果たしてきた。しかし供試魚の入手が困難であったことから仔魚期~稚魚期を対象とした飼育実験は,これまでにほとんど行われたことがない。本研究では,飼育実験用の供試魚を得ることを目的に,マダラの種苗生産で用いられている栄養強化ワムシを初期餌料に用い,本種孵化仔魚の飼育を試みた。3つの飼育実験を通して,比較的急速な生残率の低下が,3~8日齢(実験1および3)および2~3週目(実験1および3)および5週目(実験3)に起こることが明らかとなった。実験3で行った胃内容物観察の結果を基に,これら急速な生残率の低下が起こった原因について議論した。実験3では9.8%~16.4%(平均全長27.7~27.9 mm)の個体を稚魚まで育成することが出来た。
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