水産増殖
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68 巻, 4 号
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原著論文
  • 浦 和寛, 後藤 孝弘, 北野 雄大, 西宮 攻, 都木 靖彰
    2020 年 68 巻 4 号 p. 309-315
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー
    ウニの主要卵黄タンパク質(MYP)は,卵内の卵黄顆粒に蓄積していると共に雌雄生殖巣の栄養細胞および体腔液中に存在するトランスフェリンスーパーファミリーに属するタンパク質である。本研究では,エゾバフンウニの卵型 MYP(EGMYP)および体腔液型 MYP(CFMYP)を精製し生化学的性状解析を行った。ゲル濾過による推定分子量は,EGMYP で595 kDa,CFMYP が700 kDa であった。また,EGMYP および CFMYP は糖・脂質結合タンパク質であることが示された。EGMYP および CFMYP は葉酸を結合しており,胚発生の栄養源として卵母細胞に葉酸を輸送している機能を有していることが示唆された。
  • 本領 智記, 塚田 ほなみ, 岡田 貴彦, 阿川 泰夫, 倉田 道雄, 澤田 好史
    2020 年 68 巻 4 号 p. 317-326
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー
    太平洋クロマグロ種苗生産の更なる効率化の為には,種苗の健全性を維持することが重要であり,採血による血液検査は健康状態把握に有効である。そこで,クロマグロ稚魚における適切な採血方法を検討することを目的とし,採血結果に影響をおよぼす要因となりえる麻酔,運動,および給餌前後における血液性状・血液成分の変化を分析し比較した。本研究の結果,採血時の麻酔剤使用による鎮静化はアシドーシスを引き起こし赤血球の膨潤を伴うので適切ではないと言える。強制運動や給餌は血液 pH や血中酸素・二酸化炭素分圧に影響しないものの,赤血球数が有意に低下し,平均赤血球容積や電解質濃度(Na+,Clおよび Ca2+)は有意に増加した。従って,本種から採血を行う際は麻酔剤による鎮静化を行わず,給餌直後は避けるべきだと思われる。強制運動すなわち暴れる個体から採血をする際は赤血球の膨潤と電解質濃度の解釈に注意が必要であることが明らかとなった。
  • 増田 賢嗣, 宮本 幸太
    2020 年 68 巻 4 号 p. 327-335
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー
    ワカサギ Hypomesus nipponensis は内水面では重要な漁獲・遊漁の対象種である。しかしその増殖は発眼卵放流もしくはふ化仔魚放流がほとんどである。ワカサギ仔魚飼育においては,ふ化直後に植物プランクトンの添加が有効とされるなど,複数の餌料生物を適切な時期に用意する必要性のために仔魚期の飼育技術が難しいものとなっている。そこで本研究においては,40 l 規模の水槽を用い,餌料として小型のタイ産ワムシと配合飼料のみを用いて飼育を試みた。その結果,良好な飼育事例においてはふ化後72日で生残率67.8%(9.3尾/l),平均全長29.9 mm が得られた。本研究により,餌料としてワムシおよび配合飼料のみを用いてワカサギをふ化から稚魚まで飼育することが可能であることが明らかとなった。
  • 鷲尾 洋平, 大濱 光希, 鈴木 晴, 金津 亮介, 金 東仁, 木下 政人, 家戸 敬太郎
    2020 年 68 巻 4 号 p. 337-350
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー
    遺伝子組換え等によって高度に育種が進んだ魚種の精子や卵については,その自然界への逃亡を防止する必要がある。本研究ではマダイ(Pagrus major)を陸上水槽に収容した場合に想定される配偶子の流出防止を目的とし,その不活性化を試みた。精子に対する紫外線照射の不活性化効果を確かめた所,100倍以上希釈かつ紫外線積算照度150 mJ/cm2 の条件で精子は授精能を失った。また親魚飼育水槽の排水路に設置した紫外線照射装置(紫外線積算照度370 mJ/cm2)の有効性を確かめた所,処理後排水に授精能を有した精子は存在しないものと考えられた。淡水浸漬処理により尾芽胚卵の不活性化を試みた。13時間未満の常温の淡水処理では少数の胚が生残したが,40℃以上の淡水では5分間の浸漬で完全に卵は不活性化した。以上の実験結果を受け,マダイの精子や卵の自然界への逃亡防止設備と取り扱い方法の例を本論文の最後に示した。
  • 藤岡 康弘, 亀甲 武志, 根本 守仁
    2020 年 68 巻 4 号 p. 351-356
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー
    ホンモロコ卵の孵化タイミングを明らかにするため,市販飲料水のペットボトルを利用した卵の孵化装置を考案した。これを用いて卵の孵化時刻を調査したところ,自然日長下では日没直後の2時間以内に大半の卵が孵化した。卵の孵化予定日に蛍光灯により750 lx の照明を当てると孵化が抑制される一方で,日没時刻より4時間早く光を遮断するとその2時間後から孵化数が急増した。これらの結果は,日没による明から暗への変化が孵化の合図になって一斉孵化が起こっており,逆に照明により一時的に孵化を抑制できることを示している。孵化日の近い卵の輸送には,照度の変化に特に注意を払う必要がある。
  • 岡本 一利
    2020 年 68 巻 4 号 p. 357-366
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー
    過去の飼育研究で生残率が極端に低いタカアシガニのメガロパ期と稚ガニ1齢期の初期発育ステージにおいて,抗生物質と海洋深層水の影響について主に検討した。ストレプトマイシン硫酸塩を50 ppm,クロラムフェニコールを25 ppm の濃度に混合調整した飼育水の利用により,メガロパ期と稚ガニ1齢期の生残率は安定して高まった。ゾエア1期からメガロパ期終了まで,水深687 m から取水した海洋深層水の利用によって生残率が向上することが確認された。メガロパ期と稚ガニ1齢期の通算生残率はこれまでの0~5.9%に対して,本研究によって見いだした飼育条件では15.5~50.0%と大幅に向上した。
短報
資料
  • 東 健作, 堀岡 喜久雄, 大木 正行, 伊与田 猛, 松岡 功, 伊与田 邦明
    2020 年 68 巻 4 号 p. 375-382
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー
    四万十川下流域において,2015年から2019年にかけて,目視観察(3-5月の間に各年延べ9-10回)と水中ビデオ撮影(2-5月の間に各年延べ25-30回)によって遡上アユを観察・計数した。アユは,水温が10℃以上に上昇する2月上旬から3月中旬に遡上を開始し,その後水温が概ね12℃前後から18℃前後に達する3月上旬から4月中旬の間に遡上盛期を迎えた。遡上数の計数値やその変動幅は,目視観察の方がビデオ観察に比べて大きかった。しかし,平均遡上数の相対的な年変動は一致しており,いずれの方法においても2015年と2017-2018年に遡上数が多く,2016年と2019年の遡上数は少なかった。さらに,本調査における5年間の遡上数の増減と同期間における四万十川流域のアユ入荷量は有意な相関がみられた。以上のように,本調査で用いた簡便な遡上アユの計数方法は,四万十川における天然アユの動態を評価する上で有効と言える。
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