1) 最近し尿処理場 (消化槽) の建設にあたって, これに近接した水域の汚染とその漁業上への影響が懸念されているので, その廃水の魚貝類に対する影響を実験した。
2) し尿消化槽脱離液の魚に対する致死濃度は希釈度で1%前後 (希釈倍数にして100倍) である。 放流水の致死濃度は希釈の程度, 二次的処理の有無によって異なり, 余り充分でない希釈だけで放流している例では希釈度で40%前後 (希釈倍数にして2.5倍) であるのに対し, 希釈と二次的な好気性処理を併せて行なっている例ではほとんど影響はみられない。
3) し尿消化槽廃水を公共水域に排出する場合は, その水域の諸条件例えば河川にあっては廃水量と河川水量の比率を考えるとか, 海面にあっては地形的条件や海流の状態等を考慮した上で, 最終的には魚類に対する致死濃度を基準にすれば100倍以上 (影響濃度ではこれを更に上廻る), 貝類に対する影響濃度を基準にすれば700倍以上にうすまるように脱離液の希釈と二次的処理を行なったのちに放流しなければならない。
4) し尿消化槽廃水中の加害成分としてはアンモニア性窒素として示されるアンモニア及びアンモニウム塩, 沃度消費量として示される硫化物, 更には有機酸等が指摘できるが, このほかにも指摘されないいくつかの物質が含まれているものと考えなければならない。
5) し尿消化槽はいわゆる嫌気性処理であり, その脱離液は還元性物質を多く含んでいるから, 充分に希釈すると共に二次的に好気性処理を行なってこれらの物質を酸化分解することが必要である。 原則的な方法がとられまた過負荷による処理効率の低下その他で突発的な事故が起こらないかぎり, この廃水の影響を受ける懸念はほとんどないといえるが, 逆に原則的な方法が無視されまた管理を怠った場合には汚染源として危険な因子になることもあり得ると考えなければならない。
終りに, 御校閲を賜わった内海区水産研究所利用部長新田忠雄博士, し尿処理廃水に関して種々御教示を賜わった大阪市立衛生研究所本多淳裕氏並びに試料の採取, 実験の援助等で御協力いただいた当場佐囲東和夫, 塩見明義の両氏に対し厚く謝意を表する。
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