本稿では、民間組織における業務分析に基づく記録管理からアーカイブズ管理への一貫した流れを構築するための戦略や手法を、渋沢栄一記念財団の具体的な事例を通じて示し、その過程で浮き彫りになった課題や問題点について考察する。業務分析は、組織のコンテクストを理解したうえ、機能とプロセスの分析を通じて行う。記録は、そこから導き出された分類スキームにより制御・管理され、評価選別を経て、アーカイブズとして保存される。この過程では、組織のコンテクストを理解する必要性に加え、分析結果を実践へ応用する手法を紹介し、機能分析や、評価選別及びアクセス提供時に考慮すべき点を明らかにする。最後には、ISO15489を指標とし、この一連の過程を評価したうえ、課題と問題点についてさらに考察を深める。
本稿は、公文書とアカウンタビリティについて、三つの論点を取り上げ、時間軸から考察した。第一に、公文書の作成・保存・公開というサイクルにおいて、特に作成段階での議論が十分でなく、作成者、つまり官僚の目線で議論しなければ、今後、合法的に公文書が多く残されないのではないかとの懸念を示した。第二に、外交文書には将来へのアカウンタビリティだけでなく、国家の構成員以外へのパブリック・ディプロマシーとしての要素があると指摘した。だからこそ、外交史料館には公文書館とは異なる機能があると言える。第三に、昨今東アジアでも採用されている移行期正義では公文書が事実認定上の重要な根拠とされるが、そこではかつての私文書が公文書とされるなど、文書の公私が時間軸で変化する可能性があることを示した。
政府・自治体の情報公開とアカウンタビリティ(説明責任)との関係につき、日本の現状をもとに論じる。まず、この点に関する行政学での議論・位置づけ、特に「広義の情報公開」について、西尾勝の教科書での記述をもとに概観する。その上で、「情報のストックと長期的利用のための機関」としてのアーカイブズ(公文書館)・図書館などが、「広義の情報公開」にどのような役割を果たしうるか、また政府・自治体の情報の電子化・多様化に対してどのような課題があるか、といった点を記述する。最後に、自治体法務といった近年の行政活動の動向にも触れつつ、アカウンタビリティを「遡及的検証の実現」という観点で位置づけ直す必要性を論じる。
行政のアカウンタビリティを支える公文書管理制度とその中におけるアーカイブズ機関の役割とは何か。本稿ではこのアーカイブズ学とアカウンタビリティの問題について、オーストラレーシアの公記録管理制度を基に検討する。1980年代以降に明らかとなった州政府が関与する不正事件と不適切な記録管理の関連性を認識したオーストラリアは、アカウンタビリティ・システムの改善を意図した公記録法の改正を行っている。こうした背景を基に成立したオーストラレーシアの公記録法では、レコードキーパーの役割が、アーカイブズ機関を中心とした複数の機関によって担われるチェックアンドバランスの体制が構築され、またアーカイブズ機関が行政機関の記録作成、管理に関与し、行政のアカウンタビリティを支えるレコードキーピングの主要な役割を担っていることを指摘した。
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