教育心理学年報
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54 巻
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巻頭言
I わが国の最近1年間における教育心理学の研究動向と展望
  • —そこから見えてきたもの—
    桂田 恵美子
    2015 年 54 巻 p. 1-15
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル フリー
     本稿では2013年7月から2014年6月までに『教育心理学研究』『発達心理学研究』『心理学研究』『Japanese Psychological Research』及び,『日本教育心理学会第56回総会発表論文集』に発表された乳幼児・児童に関する研究論文,論文抄録を概観した。内容的に認知発達に関する研究,社会的認知に関する研究,社会性の発達に関する研究,親と子の相互作用に関する研究,親が研究対象となっている研究,教育実践に関する研究,発達障害児に関する研究の7項目に分けられた。それぞれの研究結果や研究手法について筆者の視点からコメントした。最後に,教育現場と研究者との協力体制,認知過程における感情・情動の影響など,本稿で取り上げた研究論文から見えてきたことについて論じた。
  • 日下 菜穂子
    2015 年 54 巻 p. 16-29
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル フリー
     本稿では,2013年7月から2014年6月までの期間に,日本において発表された青年期・成人期・老年期の発達研究を概観したものである。1年間の研究は,認知・知能に関する発達研究,自己・自我の発達に関する研究,社会的行動・関わりの発達研究,進路・キャリア・社会参加の5つのテーマに分類した。この1年に,認知・知的機能に関する領域を中心に,青年から老年までの成人期全般にわたる幅広い年齢を対象とした研究が報告されていた。年齢的変化を検討する研究に加えて,個人の発達の過程を他者の発達と関連づけた研究や,文化や社会との相互作用に注目する生涯発達的視点からの研究も活発に行われていた。1年間の発達研究には,臨床や教育の場における実践的な応用を念頭におく研究が目立ち,臨床実践から研究への示唆を含む研究も見られた。発達研究の概観を通して最後に,発達の基礎研究と臨床実践との間の往還的関係の重要性について論じた。
  • 谷 伊織
    2015 年 54 巻 p. 30-44
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル フリー
     本稿では,この1年間に発表された日本のパーソナリティ心理学領域における研究のレビューを行った。過去1年間の研究動向をみると,以下の動向と問題が明らかとなった。まず,研究について分類・整理を行ったところ,研究される内容には一定の偏りが存在しており,パーソナリティそのものの構造や発達に関する研究が比較的少ないことが課題であると考えられた。一方,ライフステージごとのパーソナリティの機能や,パーソナリティと不適応・適応との関連については盛んに研究が行われていることが示された。ただし,これらは一時点の横断研究が多く,因果関係を明らかにするためには縦断研究や無作為化比較実験が求められよう。パーソナリティの測定については,質問紙法による尺度構成の研究が多く見られたが,既存の尺度と類似したものが多く,それらの分類や整理が必要であると考えられる。一方,Implicit Association Testやバウムテストといった質問紙法以外のアプローチはさらなる展開が期待されるだろう。
  • 大久保 智生
    2015 年 54 巻 p. 45-56
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル フリー
     本稿では,まず,総会発表における教育社会心理学の動向について検討した。その結果,特にこれまでの動向と変化が見られないことが示された。次に,『教育心理学研究』における教育社会心理学の動向についても検討した結果,教育社会心理学に関する研究は減少しており,これは近年の論文数の減少と関連していることが示唆された。『教育心理学研究』の論文数が減少していることからも,これまでよりも概観する学会誌を増やし,最近1年間の教育社会心理学の動向について検討し,「教師・授業」,「適応」,「社会的スキル・社会性」,「対人関係」の4つの中心的トピックについて概観した。以上を踏まえ,教育心理学会における教育社会心理学の重要性という点から今後の展望について論じた。
  • 皆川 直凡
    2015 年 54 巻 p. 57-70
    発行日: 2015/06/30
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル フリー
     本稿では,自ら考え,対話しながら,新たな解を生み出し,学習場面を離れても利用できることを目指す「21世紀の新しい学び」について考察することを目的として,2013年7月からの1年間に刊行された教育心理学とその周辺領域の諸研究,著書,報告書等に見られる教授・学習・認知領域の研究動向,トピックス,成果,今後の課題等について概観し,考察した。そのため,関連する研究を,自律的な学びに関する研究,協同的な学びに関する研究,思考力・表現力を育てる学びに関する研究,創造的な学びに関する研究に分けて検討した。新しい学びに直接言及していない研究にもその萌芽を見いだし,その視点から検討することを試みた。これらを総合し,学習者の内発的動機づけや学習のプロセスを重視し,自分とは異なる意見にも耳を傾けることを促し,他の場面への学習の転移や発展にも目配りするといった,自律,協同,創造を統合した教育研究に加え,教育現場と研究機関による協働的な取り組みを拡大することが新しい学びの形成につながるのではないかという結論に至った。
  • —Cronbachのα係数とは何なのか,何でないのか—
    岡田 謙介
    2015 年 54 巻 p. 71-83
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル フリー
     測定の信頼性は,実証的研究のおよそすべてに関わる問題である。本稿ではまず,信頼性の観点から直近1年間の教育心理学研究を概観する。近年のわが国における心理学諸分野のレビューからも確認されたように,研究場面において最もよく利用される信頼性の指標としてCronbachのα係数がある。しかし,α係数とはどのような指標なのかについては,心理学者の間で必ずしも理解がされていなかったり,誤解がされていることも少なくない。そこで本稿では,α係数がどのように解釈できる指標なのか,またどのように解釈してはいけない指標なのかを論じる。具体的には,前者についてはα係数が (1) 可能なすべての折半法による信頼性の平均であること,(2) 信頼性の下界の一つであること,(3) 本質的タウ等価の条件のもとで信頼性と一致することを述べる。後者については,α係数が (1) 大きいことが一次元性(等質性)の根拠とはならないこと,(2) 内的一貫性の指標とされることが多いが近年批判も高まっていること,(3) 項目数など様々な要因に依存すること,(4) 信頼性の「下限」ではないことを述べる。最後に,α係数に代わる信頼性の推定法と今後の展望,そして信頼性を高めるような測定の重要性を述べる。
  • —実証的な研究をめざして—
    石川 健介
    2015 年 54 巻 p. 84-101
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル フリー
     本稿では,2013年7月から2014年6月までの1年間に,わが国で発表された「臨床心理学」に関する研究の動向を展望した。はじめに日本教育心理学会第56回総会の「臨床」部門に発表された論文を概観し,年齢区分ごとに特徴的なキーワードを挙げた。次に,6つの学術雑誌に掲載された「臨床心理学」に関する研究を概観した。この結果,心理的不適応/精神症状では,「抑うつ」に関連する研究が最も多く,「反すう」や「ストレス」,「バーンアウト」を扱った研究も同様に多かった。尺度開発を扱った研究は少なかった。介入プログラムや心理療法では,認知行動療法・行動分析・アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)が多く取り上げられていた。
  • 小林 真
    2015 年 54 巻 p. 102-111
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル フリー
     発達障害のある青年に,様々な精神疾患や行動障害などの2次障害が発症することが知られている。この展望ではまず,ASD者やADHD者に2次障害が発症するメカニズムを解明する必要性があることを訴えた。次に,青年に対する高等学校や高等教育機関での支援の実態を紹介した。高等学校では学校間に支援体制の差があり,高等教育機関では事例や小集団での支援の実践研究が始まったばかりであることを紹介した。最後に今後の研究課題として,本人の自己理解につながるアセスメントツールの開発,仲間による発達障害の理解を促す心理教育プログラムの開発,保護者支援の必要性を提唱した。
  • —こどもとこどもを取り巻く環境への支援の方向性を探る—
    米澤 好史
    2015 年 54 巻 p. 112-125
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル フリー
     本稿は,2013年~2014年にかけての学校心理学領域に関する研究動向を,今日,学校現場で求められるニーズと課題に照らし合わせて,分析,概観し,こどもとこどもを取り巻く環境への支援の方向性の課題を提唱する形でまとめたものである。日常的に学校現場での支援に携わる心理専門家の視点から,(1) こどもの実態を心理的アセスメントとして浮き彫りにする視点,(2) こどもへの支援としての心理教育等のかかわりの実践とその効用についての検証の視点,(3) 教師・保護者等のこどもを取り巻く環境へのアプローチの視点,の3つの側面が学校心理学における実践研究の方向性として重要であることが指摘されること,そして,それらの相互作用的関係の中でこそ,その支援は効果を持つであろうことを指摘・提言するものである。
II 教育心理学と実践活動
  • —免疫力を高めるソーシャル・スキル・トレーニングとソーシャル・エモーショナル・ラーニング—
    渡辺 弥生
    2015 年 54 巻 p. 126-141
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/25
    ジャーナル フリー
     ソーシャル・スキル・トレーニングやソーシャル・エモーショナル・ラーニングは,もはや,子ども達の社会性や感情の側面のみの成長を視野にいれ,子ども達だけに働きかける単なるアプローチではなくなりつつある。むしろ,学校における問題や想定されるあらゆる危機を予防するユニヴァーサルな支援である。子ども達や学校に関わるすべての人たちの支援だけでなく,安心し楽しく伸びやかに過ごせる学校風土を創成することがめざされているからである。したがって,このユニヴァーサルなアプローチは,比喩的に言えば,学校危機が生じても予防できる回復力や免疫力を持てるように導入されつつある。近年,こうした背景を受けて,向社会性をめざした「より良い(prosocial)」や道徳教育に焦点を当てた「より善く(moral)」だけでなく,学校スタッフすべての至福(Well-being)を掲げる「より健康に(healthy)」をめざすようになっている。学校予防教育は,今後ますます健全な学校風土に必要不可欠である学習環境を確立し保持していくために,包括的な教育実践に発展していくであろう。
III 日本教育心理学会第56回総会
準備委員会企画基調講演
準備委員会企画シンポジウム
準備委員会企画チュートリアルセミナー
準備委員会企画パネルディスカッション
研究委員会企画シンポジウム
研究委員会企画チュートリアルセミナー
IV ハラスメント防止委員会企画講演
V 日本教育心理学会公開シンポジウム
VI 第49回(2013年度)城戸奨励賞
VII 第12回(2013年度)優秀論文賞
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