教育心理学年報
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56 巻
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巻頭言
特別論文
I わが国の教育心理学の研究動向と展望
  • —— 他者とのかかわりという視点から ——
    瀬野 由衣
    専門分野: 発  達(児童期まで)
    2017 年 56 巻 p. 8-23
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本稿では,2015年7月から2016年6月までの1年間に発表された,日本における乳幼児期と児童期を対象とした研究を概観した。対象とした主な研究は,『教育心理学研究』『発達心理学研究』『心理学研究』『Japanese Psychological Research』『日本教育心理学会第58回総会論文集』に掲載されたものである。日本教育心理学会第58回総会においては,乳幼児期,児童期ともに昨年度と同様,「他者とのかかわり」を研究テーマに含む研究発表が多い傾向がみられた。本稿では,論文の著者が「どのような他者とのかかわりを想定しているのか」を筆者なりに推測し,幼児期と児童期の研究を分類した。最後に,幼児期と児童期の研究の共通性と相違点について考察し,今後の展望について述べた。
  • 佐藤 有耕
    2017 年 56 巻 p. 24-45
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本稿は,国内で発表されたこの1年間の青年期を中心とした発達的研究を概観し,青年期以降の発達的研究の動向を報告し,今後の展望を試みることを目的とするものである。目的に従い,第1に日本教育心理学会第58回総会発表論文集(2016年・香川大学)を総覧し,第2に2015年7月から2016年6月までに発表された国内学会誌6誌を概観した。青年期以降を対象とした発達研究は,複数の年齢層を対象とした研究,特定の年齢層を対象とした研究,展望・理論論文に分けて報告した。また,学会誌論文については領域についての分類も行い,A. 自己に関わる対自的側面の領域,B. 自己以外の他との関係である対他的側面の領域,C. 社会への移行である就職活動も含めた時間的展望の側面の領域,そしてD. 学校・学習と職場に関連する領域,E. 健康・適応に関連する領域とした。各領域において,発達的特徴,発達的変化,発達的な過程に関する研究知見が得られていた。また,過去の展望論文で指摘されていた課題や今後の方向性は現在の研究動向にも通じるものであり,今後の発達的な研究にも求められる方向性であることが確認された。
  • 山本 博樹
    2017 年 56 巻 p. 46-62
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は,2015年7月から2016年6月末までの1年間を中心に,教授・学習研究の動向を概観し,今後の展望を考察することである。授業の中ではたくさんの教師が説明実践に本質的な問題を抱えていることに加えて,説明実践にかかわる問題が教授・学習領域に要請された重要な研究課題となっている。それ故,説明実践に焦点をあてて,説明実践の支えになると考えられる教授・学習領域の1年間の動向を概観する。概観にあたっては,説明実践を支援モデルの観点から捉えて,次の5つの節に分けて検討したい。それらは,1) 授業での説明の役割,2) 授業中の理解不振・学習不適応,3) 説明方略・理解方略,4) 教科に即した説明実践,5) 説明力の育成,である。これらの概観を過去30年にわたる研究動向の中に意味づけた上で,今後の展望を示す。最後に,説明の原点に立ち返り,説明実践が抱える難題を示し,この解決に資する研究推進上の原則を示したい。本稿を通して,教授・学習研究が説明実践の支えになるという可能性を提示する。
  • 村井 潤一郎
    2017 年 56 巻 p. 63-78
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本稿の目的は, 主として2015年7月から2016年6月までの期間について, 教育心理学領域における社会心理学的研究の概観をした上で, そこで用いられている研究法・統計法について考察することである。本稿前半では, 2016年に開催された日本教育心理学会第58回総会における社会心理学的研究のテーマと研究法について概観した。その結果, テーマ, 発表件数についてはほぼ例年通りの傾向であり, 大多数の研究で質問紙調査法が用いられていた。また, あわせて, 上記期間における「教育心理学研究」の社会心理学的研究についても概観した。以上を受け, 本稿後半では, 尺度作成, ウェブ調査, 重回帰分析, 事前事後テストデザインの4点から研究法・統計法について論じ, 今後の研究の改善のためにいくつかの考えを述べた。
  • 中間 玲子
    2017 年 56 巻 p. 79-97
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     2015年7月から2016年6月までの1年間の間に発表されたパーソナリティに関する研究の概観を通して, わが国におけるパーソナリティに関する研究の動向をとらえ, 今後の研究の在り方の展望を論じた。諸研究は特定の行動との関連における個人差についての研究, 適応に関する研究, パーソナリティの構成要素や概念の再評価に関する研究, パーソナリティの形成や発達に関する研究, の4つの枠組みから整理され, それぞれの動向について, その特徴と課題が論じられた。パーソナリティ研究全体の動向としては, 一対の両極とされがちな事象を対極ではなく独立した次元においてとらえる研究が少なからず見られたこと, 尺度作成が多いこと, 一方で, 尺度の精選や自記式以外の測定法の探究なども見られたということ, 個人の生活世界の要因を組み込んだ形で検討する研究が多くなっているということ, の3点が挙げられた。今後の研究の在り方として, 研究の問題設定におけるレベルの多様化, 文化的要因を組み込んだ研究のさらなる発展, プロジェクト型の研究の増加, の3点が展望された。
  • 高橋 美保
    2017 年 56 巻 p. 98-112
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本論は2015年7月から2016年6月末までの1年間の教育心理学における臨床心理学領域の研究動向と課題を論じるものである。前半は日本教育心理学会第58回総会の発表について, 研究の動向と課題を論じている。後半は, 臨床心理学に関する3つの学術雑誌から56の論文を抽出し, 臨床心理学的問題, アセスメント, 臨床心理学的援助, 専門職教育の視点から研究動向を整理し, 最後に, 今後の課題を述べた。
  • —— 学習障害のある子どもにおけるICT活用の現状に焦点をあてて ——
    平林 ルミ
    2017 年 56 巻 p. 113-121
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     2014年1月,日本は国連の「障害者の権利に関する条約(通称, 障害者権利条約)」を批准した。その中にある合理的配慮(reasonable accommodation)とは,「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」と定義されている。本稿では,学習障害(LD)のある子どもへの合理的配慮としてのICT活用に焦点をあてる。まず目に見えない障害と言われるLDのある子どもへの合理的配慮とプライバシーに関する最新の知見を展望する。次に合理的配慮の対象を判断するための評価研究の動向についてRTI研究及び学業スキルの流暢性評価に焦点をあてる。さらに,LDのある子どもへのICT導入の次の段階としての指導法研究を紹介し,LDのある子どもへの合理的配慮としてのICT活用の動向を整理する。
  • —— チーム学校への貢献の可能性 ——
    家近 早苗
    2017 年 56 巻 p. 122-136
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本稿は, 2015年7月から2016年6月までに日本で発表された論文や著書等における学校心理学に関する研究を中心にその動向を概観した。その結果, 今年度の学校心理学分野の研究は, 学校生活で困難さを持つ子どもへの支援である二次的・三次的援助サービス(いじめ・不登校・学校適応)に関する研究が多く見られたが, その他にも一次的援助サービスである「授業づくり・心理教育」, 「援助サービスの担い手の連携」, 「教師の成長」などが研究されていることが理解できた。そして, これらの研究は, 「チーム学校」の3つの提案を支え, 促進する可能性があることが見出された。一次的援助サービス「授業づくり・心理教育」の研究は, アクティブ・ラーニングなどの概念の明確化や指導方法, それを支える子どものコミュニケーション力などに貢献し, 二次的・三次的援助サービス(いじめ・不登校・学校適応)の研究は困難さを持つ子どもの学校生活への適応に貢献する。「援助サービスの担い手の連携」の研究は, 教師と専門スタッフの連携・役割を示すことで体制づくりに貢献する。さらに「教師の成長」の研究は, 「チーム学校」における人材育成に貢献する可能性がある。
  • —— 本邦における測定・評価研究の動向 ——
    川端 一光
    2017 年 56 巻 p. 137-157
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本稿では, 本邦の測定・評価領域において, 2015年7月から2016年6月までの1年間で報告された主要な研究を, 「因子分析による尺度構成」「項目反応理論による尺度構成」「教育評価」「関連する統計理論」の4つに分類し, それぞれ概観した。また, テスト理論の観点から各研究領域の課題について論じた。「因子分析による尺度構成」領域の課題として, 一部の研究において, (a) 尺度構成研究における妥当性検証が不十分, (b) 内容的妥当性の確保に関する記述が薄い, (c) 確認的因子分析が活用されていない, ということが指摘された。また「項目反応理論による尺度構成」領域の課題として, (a) モデル適合や尺度得点の精度に関する研究, (b) 安定的な等化を実現するための研究, (c) CTTやIRTの指標に関する研究, のそれぞれについて報告が少ないことが挙げられた。「教育評価」領域では, 教育測定・心理統計学の専門家が不足していること, 「関連する統計理論」では, 近年注目されているベイズモデリングの研究への生かし方に関する議論の必要性について, それぞれ論じられた。
II 展望
  • 関田 一彦
    2017 年 56 巻 p. 158-164
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     アクティブラーニングは今, 学習指導要領の改訂にともない, あらゆる校種で注目されている。ただし, アクティブラーニングと一口に言っても, 教師中心と学習者中心に分けることも, 知識定着型と能力育成型に分けることも可能であり, 分けて考えることは, 研究の意義を高める上で有益である。アクティブラーニングは能動的な学習を促す授業の総称であり, 様々な教育方法やアプローチを内包する傘概念である。したがって, アクティブラーニングそれ自体を研究するのは簡単ではない。実際, 特定の手法やデザインの方法や効果についての研究が主流である。中でも協調学習と協同学習は, アクティブラーニングに期待される, 主体的な学び, 対話的な学び, 深い学びを具現化する上で有力である。協調学習は対話的な学び, 深い学びを研究する舞台である。協同学習は主体的な学び, 対話的な学びの成果を探るための機会を提供してくれる。研究者には, 同音異義語の混用を避ける意味でも, 自らの研究的関心によって, 協同学習と協調学習を使い分けることが望まれる。
III 教育心理学と実践活動
  • —— 留学生相談の実践を踏まえた検討と今後の展望 ——
    大西 晶子
    2017 年 56 巻 p. 165-185
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
    学生層の多様化が進む日本の大学において,多文化に対応したキャンパス空間の実現に向けた学生支援の現状と課題を,留学生支援の視点から概観した。まず米国の多文化カウセリングの概念枠組みにおいて議論されている,文化的に適切な心理援助実践について紹介しながら,日本の留学生相談の課題を検討した。また留学生が異文化環境に適応していくことが出来るように働きかけを行うと同時に,大学の組織としての対応や,ホスト学生側の異文化との交流に対する態度,多様性に開かれたキャンパス風土づくりなど,大学コミュニティの諸次元に働きかける必要性を指摘した。さらに多様化する学生層を支えるキャンパスの実現に向け,教育心理学研究の貢献可能性について検討し,実践研究を通じて日本の大学の状況を踏まえた研究枠組みを構築することや,キャンパスのニーズを可視化したり,取り組みを評価したりすることが出来る測定尺度の開発が期待されることを示した。
  • —— 援助要請研究の視座から ——
    木村 真人
    2017 年 56 巻 p. 186-201
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
    高等教育がユニバーサル化段階に入り,在籍する学生の多様化とともに,学生支援に対するニーズも多様化している。それとともに,教育の一環という理念に基づき,学生相談は高等教育機関において果たす役割や期待が高まっている。その一方で,学生相談活動において,悩みを抱えていながらも相談に来ない学生への対応が多くの大学における必要性の高い課題となっている。そこで,本稿では学生相談活動実践における必要性の高い課題である悩みを抱えていながら相談に来ない学生の対応について,援助要請研究の視座から検討した。まず先行研究を概観し,援助要請に関連する知見の不一致および実践活動に向けては,援助要請行動のプロセスおよび計画的行動理論を援用することの有用性を示した。次に,悩みを抱えていながら相談に来ない学生への対応に向けて,学校心理学の枠組みに基づく,学生支援モデルを提案した。最後に,援助要請研究の視座から見た,大学における学生相談・学生支援の研究および実践における課題と展望を示した。
IV 討論
  • 西林 克彦, 宮崎 清孝, 工藤 与志文
    2017 年 56 巻 p. 202-213
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2017/09/29
    ジャーナル フリー
     本論文は2011年から2014年に実施した教育心理学会の研究委員会企画シンポジウムである「教科教育に心理学はどこまで迫れるか」の企画者による教育心理学研究の現状に対する問題提起である。現在の心理学的な教科教育研究では「どう教えるか」という方法のみが焦点化され, 「何を教えるのか」, つまり扱われる知識とその質の問題は教科教育学の扱うべきもので心理学的研究とは無関係とされる。しかし扱われる知識の質を抜きにした心理学的研究は, 実践的な有効性を欠くのみならず, 理論的にも不十分なものになるだろう。扱う知識内容と教える方法は相互作用をするため内容別に方法を考えなければならない, というだけのことではない。授業に臨む個々の教師が, 個々の教材についてその時々に持っている知識の質のあり方を, 教授学習過程の研究に取り込んでいかなければならない。このためには, 特定の授業者が特定の知識内容についておこなう特定の教授学習過程から出発する「ボトムアップ的実践研究」が必要になるだろう。ボトムアップ的アプローチでも科学としての普遍性を求める研究は可能であり, それは教授学習過程について新しい知見を生み出していく可能性を持っている。
V 日本教育心理学会第58回総会
準備委員会企画 招待講演
準備委員会企画シンポジウム
準備委員会企画チュートリアルセミナー
日本認知・行動療法学会と準備委員会との合同企画シンポジウム
日本教育大学協会教育心理部門と準備委員会との合同企画シンポジウム
研究委員会企画シンポジウム
研究委員会企画チュートリアルセミナー
VI ハラスメント防止委員会企画シンポジウム
VII 日本教育心理学会 公開シンポジウム
VIII 第51回(2015年度)城戸奨励賞
IX 第14回(2015年度)優秀論文賞
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