本邦において気管支喘息が最も増悪するのは秋, 特に, 8月下旬から10月下旬頃までである.われわれは, 屋内塵エキスで減感作し, 数ヵ月にわたつてほとんど喘息発作のなかつた一学童において, 突然に, きわめて重篤な喘息発作を生じたのに遭遇し, その発作の原因を検討した結果, 喘息発作がイネの開花と一致することから, イネ花粉が喘息発作のアレルゲンの1つとして働いている可能性を推定して研究を進め, 次の成績を得た.1.イネ花粉と推定されるイネ科花粉の空中飛散数は, 8月下旬から9月上旬に増加しており, 50-lOO個/10cm^2に認められた.この飛散数の増加期は, 喘息患児41例中30例の発作の増悪と一致していた.2.掻破反応は, 喘息患児67例中10例(15%)に陽性であつたが, 健康学童164例では全例陰性であつた.皮内反応の陽性率は, 喘息患児61例において, イネ花粉エキス291, PNU/ml, 29.1PNU/ml, 2.91PNU/ml, 0.29PNU/ml, に対して, それぞれ59例(97%), 41例(67%), 16例(26%), 10例(16%)であつたが, 健康学童では, 25例(15%), 4例(2.4%), 1例(O.6%), 0例(0%)であつた.すなわち, 掻破反応と皮内因は, 気管支の〓縮と粘液栓による気道の閉塞すなわち窒息死である.しかし, 反応には, 喘息患児は, 健康学童に比し陽性率が明らかに高かつた.3.皮膚感作抗体は, イネ花粉エキスに対する皮内反応閾値が29.1PNU/ml以上の6例の患児血清について検査した.PK反応, in vivo 特異的中和試験は全例陽性であり, 皮膚固着試験は6日後のPK反応でも陽性であつた.以上の成績から, イネ花粉に対するレアギンの存在することが認かめられた.4.吸入誘発試験は, イネ花粉エキスに対する皮内反応閾値が291PNU/ml以上陽性の喘息患児16例中13例, 皮内反応閾値が29.lPNU/ml以上の者のみにおいて陽性であつた.一方, 健康学童5例では全例が陰性であつた.誘発反応には, 早期反応.晩期反応が認められた.以上の諸成績から, イネ花粉は, イネ花粉の飛散期に一致して増悪する気管支喘息にあつては, 吸入抗原の1つとして必ず検査されるべきアレルゲンであると思われた.
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