ウサギ85頭の皮下および静脈内に鶏卵白(蛋白量10g/dl)1ml/kgを週2回の頻度で1ヵ月感作し, 沈降抗体の産生程度からこれらを高反応群(H群;58頭), 中間反応群(M群;20頭) および低反応群(L群;7頭)の3群に分けた.さらにこれらの3群のウサギの皮下に卵白感作を続けると, H・M両群では皮下に種種の大きさの無菌的膿瘍(原病巣)を形成した.各膿瘍を無菌的に除去し, これを膿瘍中心部の壊死層(N)と周囲の肉芽層(W)に分け, それぞれ生食水でホモジネートを作り, 最終蛋白含有量を6.0g/dlに調製し, これらを病巣抗原(N, W)とした.次に, H・M両群の各17例に自己または同種の病巣抗原1ml/kgを筋肉内に週1回の頻度で6-8ヵ月感作し, 大要次の結果を得た.1)病巣抗原には卵白成分, ウサギ血清成分, その他変性した組織蛋白などが含有し, とくに感作80日以降になると, Ouchterlony 法で変性した組織蛋白に対する抗体を認める例が出現した.2)卵白単独の感作実験では慢性糸球体腎炎やアミロイド腎症の発生は低率で, 糸球体の硝子化を伴わないが, 病巣抗原感作では抗原の自己, 同種に有意の差なく高率に糸球体の硝子化を伴う腎病変が発生し, これを組織学的に次の5型に分類した.a)アミロイド腎症(11例), b)アミロイド加味巣状腎炎(10例), c)アミロイド加味びまん性腎炎(5例), d)アミロイドのない糸球体腎炎(6例), e)変化のない例(2例), a)型はH群に多く(9例).c), d)型はM群にのみ認め, b)型は両群に認められた.3)脾・リンパ節の形質細胞の増殖はM群よりもH群で著明で, とくにアミロイド腎症例で顕著であつた.以上の結果より原病巣の形成にはウサギの免疫学的個体差が影響し, immune complex や変性した組織蛋白を含んだ病巣抗原による遷延感作がアミロイド症や慢性糸球体腎炎の病因に重要な役割を演じていることが示唆された.
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