【背景・目的】近年,喘鳴が少なく,末梢気道の機能障害に伴う咳や胸部不快感の遷延する成人発症喘息が増加している.今回,成人発症喘息例の末梢気道機能とフルティフォーム®エアゾール(FP/FM-pMDI)の緩徐で深い吸入法の有効性を検討した.
【方法】6カ月間以上の十分な指導による中~高用量ICS/LABA配合剤で咳や胸部不快感が残る成人発症喘息62例(シムビコート®群32例,アドエア®エアゾール群30例)でFP/FM-pMDIに切替え,2~3秒間かける緩徐で深い吸入法を指導・徹底し,症状改善に応じて減量し,切替えの約6カ月後の安定時と前年同時期(前治療)の安定時のACT点数,呼吸機能,呼吸抵抗を比較した.
【結果】切替え後,シムビコート®群の93.7%(30例/32例)とアドエア®エアゾール群の86.6%(26例/30例)で症状と複数の指標が改善,継続し,さらに平均1日用量が前群で5.0→4.3吸入,後群で5.5(125μg製剤換算)→3.7吸入と減量できた.
【結語】末梢気道の機能障害が残る喘息例の多くでFP/FM-pMDIの緩徐で深い吸入が有効である.前治療継続群およびFP/FM-pMDIの従来法での吸入群を対照とした多数例での比較検討が望まれる.
【背景・目的】我々の過去の検討において,中等症持続型喘息患者を対象に吸入ステロイド(ICS)に長時間作用性吸入β2刺激薬(LABA,サルメテロール)またはロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA,モンテルカスト)を追加投与したところ,LABAと比較してLTRAでより大きな気管支拡張効果が得られる患者群が存在し,LABAとLTRAとの薬剤反応性に大きな個体差が認められた.一方,β2受容体遺伝子(ADRB2)におけるGly16Arg多型とLABAとLTRAとの治療効果の差に関連はなかった.本研究ではロイコトリエン受容体遺伝子(CYSLTR1,CYSLTR2)及びプロスタグランジンE2受容体遺伝子(PTGER2,PTGER4)がLABAとLTRAとの治療効果の差に及ぼす遺伝的影響を検討した.
【方法】対象はADRB2 Gly16Arg遺伝子型がArg/ArgまたはGly/Glyの成人喘息患者(76名).ロイコトリエン受容体遺伝子(CYSLTR1,2)及びプロスタグランジンE2 受容体遺伝子(PTGER2,4)において,それぞれrs321029,rs912278,rs1254600,rs4133101の遺伝子型を決定.ICSにLABAまたはLTRAを16週間追加投与したことによるピークフロー(PF)の改善の差とこれらの遺伝子型との関連を検討した.さらに各ロイコトリエン関連遺伝子とADRB2 Gly16Argとの交互作用についても検討した.
【結果】PTGER4遺伝子はLABAとLTRAとによるPFの改善の差に有意に関連した(p=0.0032,rs4133101).さらに,PTGER4遺伝子とADRB2遺伝子との間に有意な交互作用が認められた(p=0.010).
【結語】PTGER4遺伝子は喘息患者において,ICSに追加投与したLABAとLTRAとの治療効果の差やADRB2 Arg16Gly多型の遺伝的効果に影響を与えている可能性がある.
【背景】本邦初のスギ花粉舌下免疫療法(SLIT)薬の発売後2年が経過した.
【目的】2016年(中等度飛散年)にスギ花粉SLITの治療2年目の臨床効果を検討する.
【方法】2016年のスギ花粉飛散ピーク時にSLIT2年目133例,皮下免疫療法(SCIT)46例(治療1年目3例),初期療法351例,飛散後治療221例,未治療337例で,各症状スコアおよび症状薬物スコア,visual analog scale,日本アレルギー性鼻炎QOL調査票での評価を行った.
【結果】2年間のドロップアウトは計14例(8.6%)であった. 全ての評価法でSCITとSLIT に有意差はなく,共に良好であった.ほぼ全ての評価項目で,SCITとSLITは他の薬物療法より有意に良好であった.併用薬の無い,鼻眼症状スコアが1点以下の例はSLITの26.3%であった.
【結語】SLITはSCITと同程度に良好な臨床効果があり,初期療法などの薬物治療より有意に良好であった.
症例は8歳男児.4歳から春と秋の花粉症を認めた.6歳時から給食後に鼻汁,鼻閉,目のかゆみ,呼吸困難を2カ月に1回程度認めたため,精査目的に8歳時に当院を受診した.病歴からリンゴアレルギーが疑われ,9歳時に入院食物経口負荷試験(OFC)を行った.リンゴ1個を摂取し,90分で咳嗽,鼻汁,眼瞼浮腫,結膜充血を認めた.14歳時に再度入院OFCを行い,リンゴ1個を摂取し55分で咳嗽,呼吸困難,喘鳴を認めた.8,9,11,12,13,14歳でのリンゴ特異的IgE(Ua/ml)は0.35未満,0.35未満,0.36,0.54,0.47,0.66,ハンノキ特異的IgE(Ua/ml)は0.35未満,0.49,1.31,2.14,2.73,3.11,Mal d 1特異的IgE(Ua/ml)は0.10未満,0.13,0.25,0.45,0.88,1.1,Bet v 1特異的IgE(Ua/ml)は0.10未満,0.40,1.0,1.4,2.4,2.8といずれも上昇を認めた.Mal d 3特異的IgEは陰性のままであった.本症例は,全身症状を呈するリンゴアレルギーの感作状況を陰性時から経時的に追うことができ,なおかつ長期経過をOFCで確認できた世界初の報告である.全身症状を呈する果物アレルギーの自然歴の把握のために,同様の症例の蓄積が期待される.