症例は35歳女性のプロダイバー.クラゲの冷菜を食べた20-30分後に嘔気,嘔吐,全身のかゆみ,皮疹を認めた.種々の海洋生物に刺され,皮膚の局所症状だけでなく全身のアレルギー様反応を呈した既往があった.当院来院時の血清中総IgE値は545IU/ml,クラゲからの抽出抗原を用いて抗原特異的IgEを測定したところ健常対照者よりも高値で,好塩基球活性化試験では刺激した抗原の濃度依存性に陽性反応が増強した.SDSPAGEにてクラゲの酸可溶性コラーゲン画分のレーンで250kDa以上の箇所にバンドが確認され,本症例におけるアレルゲンである可能性が示唆された.経口負荷試験は実施しなかったが,上記の結果よりクラゲによる即時型食物アレルギーと診断し,以後のクラゲの経口摂取を禁じた.クラゲによるIgEを介したアナフィラキシーは稀少であり,既報は本邦に限定されている.本症例のアレルゲンはコラーゲンと推察したが,クラゲアレルギーでは個体差や病型により原因アレルゲンが異なることが予想され,症例を集積しアレルゲンの更なる解析・同定が今後望まれる.
症例は14歳男児.クラゲ刺傷の既往はなく,これまで半年に1回の頻度でクラゲを摂取していた.市販のタコクラゲ(約100g)を摂取して5分後に嘔気,喘鳴,紅斑が出現し,当院を受診した.アナフィラキシーと判断して,アドレナリンの筋肉注射,気管支拡張薬の吸入等の処置を行った.後日施行したタコクラゲの経口負荷試験によって,紅斑,喘鳴,嘔気,腹痛が出現し,クラゲによるアナフィラキシーと診断した.クラゲの経口摂取によるアナフィラキシー症例の報告は稀で,アレルゲンもほとんど解析されていない.本症例ではクラゲ刺傷の既往がなく,ポリガンマグルタミン酸(poly-gamma-glutamic acid:PGA)のプリックテストも陰性であった.そのためクラゲアレルギーの発症機序は,クラゲ刺傷によりPGAに感作されて発症する納豆による遅発性アナフィラキシーとは異なると考えられた.また,数種類の食用クラゲを用いたprick to prick testの結果,クラゲの種類によりアレルゲン性が異なることが示唆された.