温室ブドウ経営の適正規模が種々な方法で吟味されてきた. その結果ストックとしての基幹家族労働力が品質に影響をおよぼし, 適正規模決定に重要な役割を果たしていることが明らかになった. 温室ブドウの適正規模は品質を無視しては考えられない.
温室ブドウはきわめて労働集約的な作物であり, そして高度の技術を要するため, 経営者能力のみならずストックとして基幹家族労働力が経営成果に大きな影響をおよぼしている. すなわち小規模の段階では基幹家族労働用役は, 農業経営の他部門のみならず非農業部門にその大部分が振り向けられる. その結果栽培管理技術のまずさから品質を高めることが困難である. しだいに規模を拡大し専門化の方向をたどると, 基幹家族労働用役は温室ブドウ部門にその大部分を振り向けるようになり, 栽培技術も伴って上昇するから品質も高まる.さらに規模を拡大して行くと基幹家族労働用役の不足をもたらし, 栽培管理が不十分になるため, しだいに品質が低下する. かかる要因によって, 生産物曲線は直線的であっても, 価値生産物曲線は収益逓減法則に従うようになる.
現在の一定の技術水準のもとにおいては, 加温栽培と無加温栽培を組み合わせた経営の適正規模は約600坪, 無加温栽培のみの場合は400坪ないし500坪が適正規模であろう. たとえ出発点が零細規模であつても, 最適点を求めて拡大するにしたがつて, 経済的利益が生ずるであろう. この場合水田のみ40aないし50aが組み合わされることが前提となる. このような温室ブドウに専門化した農家は現状では十分自立可能である.
しかし技術革新は徐々にではあるが起こりつつある. たとえばサーモスタットによる自動温度調節, 粒間引の省力化技術, 出荷木箱のダンボール化と大型化, 温室の集団管理や集団加温, 灌水施設の充実など. かかる技術段階に達すれば, 適正規模はさらに拡大されるに違いないし, 現にこのような革新技術を導入して大経営でありながら家族労働のみで高い収益を示している農家もある.
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