本論文の目的は, ネパールにおける水稲生産の効率性を分析することにある. その際, 効率的な水稲生産を展開する上での大きな阻害要因である, 零細分散錯圃の問題を中心に考察を進めていく. ネパールでは習慣的に均分相続が実施されており, 相続の際に農地が何ヵ所にも分割される場合が多い. これが零細分散錯圃を加速する大きな要因となっており, 大規模経営になるほど圃場は分散する傾向にある.
ネパール東部のスンサリ地区を事例として農家87戸への経営実態調査を行い, 得られたデータに生産関数分析や回帰分析を施した結果, まず, 調査地域では水稲生産の規模の経済性が十分に働いていないことが明らかになった. この背後には零細分散錯圃の問題があり, 農家の経営する圃場の分散度は, 水稲の収量に対して有意な負の影響を与えていることが明らかになった. また, 農家の圃場区画が小さくなるほど, 労働投入量や経営費が増加する傾向にあることも示された.
加えて, 零細分散錯圃は農業用水管理に対しても非効率性をもたらし, 圃場分散度の大きな大規模経営ほど「水路の見回りが大変である」,「水掛りが悪い圃場がある」といった問題を抱えていることが明らかになった.
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