安佐動物公園飼育記録集
Online ISSN : 2759-6567
41 巻
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 市川 彩代子, 野田 亜矢子, 屋野丸 勢津子, 畑瀬 淳
    2018 年 41 巻 p. 1-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2025/01/17
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    動物園の活用法を紹介し,授業での動物園活用例を増やすことを目的として,安佐動物公園で理科教員を対象としたセミナーを2回開催し,セミナーが参加者に与えた影響を調べるためにアンケートを実施した.2回のセミナーはいずれも中学2年理科「動物の体のつくりとはたらき」の単元に焦点を当てた.第1回セミナーでは,動物の採食や頭骨の観察を行ない,同時に採食している動物の動画教材を作製した.アンケートからは,教材作製が授業での活用に結びつきやすいことが示唆された.第2回セミナーでは,解剖による消化管の観察や糞分析,さらに人工消化液による食物の消化実験によって,食べ物が糞になるまでの過程を参加者に体感してもらった.実験に使用した試料が入手しづらいことから,授業への活用に関しては一部否定的な意見が見られた.しかし,セミナーのわかりやすさや次回の参加意欲については,2回とも肯定的な評価を得ており,参加者にとって動物園がより深い知識の習得の場となったことが示唆された.このように,セミナーの内容によっては,当初の目的であった動物園の活用法を周知し,実際に授業で実践してもらうことができた.動物園を活用した授業を広めるためには,セミナーの継続により動物園が授業の質を高める役割を担えることを周知するとともに,より授業での活用につながりやすいプログラムの開発に取り組む必要がある.
  • 林 臨太郎, 野田 亜矢子
    2018 年 41 巻 p. 7-12
    発行日: 2018年
    公開日: 2025/01/17
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    2016年に産卵したシロフクロウの雌が抱卵途中に死亡した.その卵を人工孵卵し 2羽の雛が孵化した.孵化した雛は人工育雛により順調に成育した.この人工繁殖によって,人工孵卵条件や人工育雛の手法を検討することができた. 2羽の雛は性別が異なり,それぞれ体重と体色の変化の様子に違いがみられた.また,15日齢の雛が 31.5℃,40日齢の雛が28℃程度で開口呼吸をし,高温条件に弱いことが示唆された.
  • 梅田 拓也
    2018 年 41 巻 p. 13-16
    発行日: 2018年
    公開日: 2025/01/17
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    広島市安佐動物公園では1974年からケープハイラックスを飼育しており,継続して繁殖にも成功している.2014年12月に,2頭の雌個体が同一の子へ授乳している姿を確認した.家畜では,出産してすぐに母親と子の間に母子の絆が形成されるが,この事例では,母子の絆が形成される前に,母親が子を取り違えてしまったのではないかと仮説を立てた.母親間の取り違えの原因と,母子の絆の形成に影響を及ぼす要因について調査することを目的に,授乳関係の調査,出産日の比較,出産時の母親の行動観察を行なった.その結果,出産した母親は全て授乳対象と認めた個体にのみ授乳していたが,出産日が近い母親間で同一の子に対して授乳していることがあった.また,観察結果から,新生子の胎水を舐める行動が,母子の絆を形成する際に重要な要因になっていることが示唆された.野生下のケープハイラックスは,コピエ内の暗くて狭い空間で出産し,母子の絆を形成すると思われるが,飼育下の場合,飼育密度が高くなるため,母子の絆を形成する前に子の取り違えが起こっているのではないかと考えられる.
  • 奥山 秀輝
    2018 年 41 巻 p. 18-25
    発行日: 2018年
    公開日: 2025/01/17
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    2000年7月からパンサーカメレオンを飼育し,2007年11月以降5回の繁殖に成功している.これまでの飼育・繁殖方法を整理したうえで,マダガスカル島北部のノシベ島に生息する,野生由来のノシベ型の雄を2015年3月に,雌を同年11月に導入し,繁殖を試みたところ2016年2月5日に産卵,2016年12月16日に1頭が孵化した.さらに,2月11日に3頭,3月10日に10頭の計14頭が孵化し,2018年1月現在で7頭が成育中である.
  • 棚田 晃成, 野田 亜矢子, 野々上 範之, 渡邉 舞菜弥, 久保 盛恵, 南 心司
    2018 年 41 巻 p. 26-29
    発行日: 2018年
    公開日: 2025/01/17
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    飼育下の野生動物における先天性疾患についての報告は少ない.今回,広島市安佐動物公園で出生したマレーバクにおいて,麻酔下のX線検査により,横隔膜ヘルニアが強く疑われた.ヘルニア孔整復のため,開腹手術を行ったが,横隔膜の大部分が欠損していた.また,心嚢膜も認められなかった.これらの開腹所見から,先天性の横隔膜欠損であることが強く疑われた.
  • 安西 航, 屋野丸 勢津子
    2018 年 41 巻 p. 30-35
    発行日: 2018年
    公開日: 2025/01/17
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    大鳥舎で飼育しているツクシガモが,18年ぶりに自然繁殖に成功した.飼育していたツクシガモはいずれも断翼された個体であり,地上に巣箱を設置していたが,長らく繁殖行動がみられなかった.そこでツクシガモの野外での繁殖生態学的な知見に基づき,アナウサギの巣穴を模した地中型の巣箱を新規に設置した.設置後にはツクシガモが地中型巣箱を覗いたり巣箱内に潜ったりする姿が頻繁に見られ,2017年5月には巣箱での産卵も確認された.6月には3羽の雛が孵化し,育雛の様子が観察できた.断翼された飛べない個体であっても,本手法を用いることでツクシガモ類の自然繁殖成功を促せることが示された.なお,ツクシガモのみせる強い縄張り性に考慮した各種個体の再配置も有効だったと考えられる.
  • 髙野 真太朗, 林 臨太郎
    2018 年 41 巻 p. 37-41
    発行日: 2018年
    公開日: 2025/01/17
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    安佐動物公園では,県内2か所の保護水田において,ナゴヤダルマガエルの個体数の調査と幼生の放流を継続して実施している.放流数と調査時における捕獲数を比較することによって,放流数が生息個体数に及ぼす影響について調査した.2か所の放流地区の内,世羅町小谷の保護水田では,近年も継続して繁殖しており,個体数は安定していると考えられる.福山市西深津町の保護水田では,世羅町と比較すると調査時の捕獲数が少なく,不安定な状態である.個体数の維持のためには,天敵となる外来種の根絶などの抜本的な対策が必要と思われる.
  • 畑瀬 淳
    2018 年 41 巻 p. 42-55
    発行日: 2018年
    公開日: 2025/01/17
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    安佐動物公園において「動物相談」は,直接利用者と接点を持つことができる場面のひとつである.市民が動物について疑問を持たれた時に,動物園を利用する方法の一例ともいえる.そして,市民の目線からの飼育係や獣医師は「動物のプロ」であることは疑う余地もなく,ふとした疑問に「何でも答えてくれる」存在でありたいと思う. 飼育方法などに関する動物相談は,そもそもが特定の種に限られた内容となることから,電話での受け答えのみで終わることが多い.一方で,動物の種類を問う事例においては,問い合わせをいただいた時点で,絶対的な情報不足であることが少なくない.それを埋めるのが,飼育係・獣医師の力量でもある.正体不明動物の同定について,「何でも知っている飼育係」になるためのスキルを身につけるべく,実例を挙げながら考えてみたい.画像などの追加データを送ってもらったり,安佐動物公園の代表メールに画像つきで問い合わせがあったりした事例の一部を,「問い合わせ内容」,「判断基準と回答内容」の順に紹介する.なお,問い合わせと回答の内容に関しては,通信内容のうち最小限の項目のみを記した.
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