広島市市街地において,校舎を利用するオヒキコウモリ
Tadarida insignisの集団ねぐら3か所を調査した.これらは,市街地ならびに人工建築物からは唯一のオヒキコウモリのねぐら確認で,これまでの報告すべてが無人の小離島であったのとは異なっている.調査したねぐらのうち,少なくとも1か所においては,ねぐら内のコウモリは壁面を利用し,個体間に一定の間隔を開けて静止していた.また,既知の生息地では最大の個体群を有するねぐらであり,秋には520頭を確認した.さらに,ねぐらの利用個体数には季節的な変動が顕著に認められ,近隣地域に存在する別ねぐらとの間で,個体の相互交流が示唆された.出産保育群を中心としており,春期を中心に成獣雄の存在も確認した.本種は出生後,性成熟までに複数年を要すると考えられ,1産1仔であることを確認した.また本種の交尾期は,多くの温帯産コウモリとは異なる,冬から春であると考えられる.
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