人類學雜誌
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91 巻, 1 号
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  • 瀬戸口 烈司
    1983 年 91 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 1983年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    南米コロンビアで発見された中新世のスタートニア(現生ホエザルの祖先)の臼歯に見られる"原始的"形質と,さらに敷衍させて,南米ザル全体に見られる原始的形質と考えられる諸特徴を考察し,次の6点を南米ザル臼歯の原型的形質と考えた:1.ハイポコーンは存在する;2. entofiexus は深くて長い;3. postprotocrista はメタコーンに達する;4.各咬頭は明瞭で,比較的に高い;5.上顎臼歯の頬舌径は近遠心径よりも大きい;6.第3大臼歯は存在する。リスザルはこれらの原型的形質を保持する唯一の現生南米ザルであり,オマキザルはすでに派生的形質を獲得している。この仮説を前提にして,南米ザル全体の系統樹を作成した。
  • 谷井 克則
    1983 年 91 巻 1 号 p. 11-23
    発行日: 1983年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    急速な腰の伸展動作に先行して,脊柱起立筋に出現する動作前 silent period(動作に先行して出現する筋放電の一時的消失現象で,以下動作前 SP と略す。)の出現率およびその筋放電消失期間が,外的負荷のかけ方とその重さおよび動作開始の音合図の有無別に調べられた。
    動作前 SP の出現率の音合図の有無別による明らかな差はなかった。外的負荷のかけ方が同じであった場合,その出現率は外的負荷の重い方で高った。外的負荷を腰の伸展と同時に両手を介して引きあげる動作の発現前の準備期における脊柱起立筋の負担は外的無負荷でのさいと同じなのに,外的負荷の引きあげのさいの出現率の方が外的無負荷でのさいよりも明らかに高った。音合図に応じさせた場合に得られた動作前 SP よりも筋放電の消失期間の長い動作前 SP が,音合図なしの動作の任意発現条件においてしばしば出現した。このほかに動作発現準備期の持続性放電が,動作に先行して反応動作の音合図の前から断続的に消失することがあった。
    これらの知見から,動作前 SP は上位中枢の動作発現に対する構えと関連深く,その出現に動作のさいの筋の収縮強度の大きさも筋収縮速度とともに関係あると推察された。動作前SP はこれまで四肢筋で観察されていた現象であるけれども,躯幹筋の脊柱起立筋にも出現することが本実験で明らかとなった。
  • セイロン=タミールはドラビダ人か
    安部 国雄
    1983 年 91 巻 1 号 p. 25-37
    発行日: 1983年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    スリランカのシンハリーズ(3地域),タミール(2地域),ベッダ(2地域)とキンナラ族の計測値8項目とその示数4項目を比較して,シンハリーズ•タミール•ベッダの形質の人種的特徴を示すとともに,同一人種内での形質の変異についても検討して次の結果をえた。
    i)高地高湿地帯のシンハリーズ,セイロン=タミール,森林ベッダの3群が最もよく人種的な特徴を示す。
    ii)低地乾燥地帯のシンハリーズとインディアン=タミールは農村ベッダの形質に近似する。
    iii)高地高湿と低地高湿地帯のシンハリーズの形質は互によく類似する。
    iv)スリランカのドラビダ語族(セイロン=タミールとインディアン=タミール)の形質の間には人種的な差異が認あられる。セイロン=タミールの形質は南インドのニルギリスのトーダ族(インド•アフガン人種)に,インディアン=タミールはマドラスのタミール(メラノ•インド人種)の形質に類似する.
  • 伊藤 学而, 塩野 幸一, 犬塚 勝昭, 埴原 和郎
    1983 年 91 巻 1 号 p. 39-47
    発行日: 1983年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    不正咬合の成立要因の1つとして,歯と顎骨の大きさの不調和,すなわちが discrepancy あるが,これは同時に,う蝕や歯周病などに対しても病因性をもつことが指摘されている。その成因は,人類進化の過程における歯と顎骨の縮小の不均衡によると考えられるが,その頻度は歴史時代において著しく増大し,この結果,現代日本人では,discrepancy が認められるものの頻度は60%を越えるに至っている。このようなことから,discrepancy の問題は,歯科医学にとっても,人類学にとっても,きわめて重要な研究課題であると考えられる。そこで,先史時代と歴史時代における discrepancy の変遷とその増大の機構について検討するため,古人骨および現代人について分析を行った。
    古人骨資料として,東京大学総合研究資料館,人類先史部門所蔵の日本人古人頭骨のうち,上下顎骨が揃い,歯の欠損が少なく,生前の咬合状態がほゞ再現できると思われた122体を用いた。また,現代人の資料としては,岩手県衣川村住民290人についての調査結果を用いた。
    Discrepancy の分析には,咬合状態の直接診査によってその有無を判定する定性的な分析と,歯および歯列弓の計測と頭部X線規格写真による補正によってその大きさを算定する定量的な分析とを行った。
    この結果,discrepancy の頻度と大きさは,時代による多少の変動を伴いながらも,後期縄文時代から現代に向ってともに増大し,しかも現代に近づくにつれて増大の速度が増したことが確かめられた。また,この増大がすでに指摘されているように,歯と顎骨との相互に同調しない変化によってもたらされたことも確認された。とくに,歯列弓の大きさの変化が少ないにもかかわらず下顎前歯の前方傾斜の増大が著しいことから,discrepancy の増大には顎骨の縮小がきわめて大きく関与していることが知られた。このことは,また,顎骨の大きさの変動と discrepancy の変動とが0.83という高い相関係数を示すことからも明らかであったが,一方,身長の推移とはとくに有意の相関はないように思われた。
    先史時代と歴史時代における discrepancy の変動はこの間における咀嚼機能量の変動を反映していると考えられのるで,食生態の推移についても考察を試みたが,これについてはまだ不明の点が多かった。今後の方向としては,discrepancy の増大をもたらしたと考えられる食生態の歴史や,これによる歯科疾患への影響などについての一層の検討が必要であると思われる。
  • 埴原 和郎, 山内 昭雄, 溝口 優司
    1983 年 91 巻 1 号 p. 49-68
    発行日: 1983年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
  • 佐倉 朔, 溝口 優司
    1983 年 91 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 1983年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    おもにマルチン式計測法により,5個の頭骨に対する6人の計測者の2回にわたる計測で得た,直線距離を主とする22項目の頭骨計測値についてその計測誤差を検討した。分散分析により求めた計測者内誤差分散がとくに大きかった項目は,最小前頭幅,眼窩幅,全側面角であった。計測者間誤差分散が計測者内誤差分散よりも有意に大きかったのは,両耳幅をはじめとする8項目であった。主成分分析により,いくつかの計測項目に共通するような誤差要因はないこと,またクラスター分析により,集団の比較に際して計測誤差が結果の解釈にかなり影響し得ることが示唆された。計測の結果はその誤差を確認した上で論ずるべきであることを再認識した。
  • 山田 博之, 酒井 琢朗
    1983 年 91 巻 1 号 p. 79-97
    発行日: 1983年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    アフリカに棲息するコロズスモンキー3種(Colobus polykomos, Colobus badius, Colobus verus)について,歯の大きさを計測し,さらに rect angle および 1ength-breadth index(幅厚指数)を計測絶対値から算出して,各種間の差ならびに性的二型について比較した。資料は京都大学霊長類研究所に所蔵されている晒骨された頭蓋骨をもちい,原則として右側の歯を1/20mm副尺付ノギスによって計測した。計測部位は歯冠近遠心径および頬舌径である。
    歯の大きさについて3種間で比較してみると,一般に C. polykomos が最も大きい歯を示し,次いで C.badius であり, C. verus が最も小さい歯を示していた。さらに rect angle による結果ではこの傾向はより一層明白にあらわれた。しかし,幅厚指数では3種間に明らかな差は認められなかった。また歯冠近遠心径よりも歯冠頬舌径の方が3種間の差はより著明にあらわれた。
    一方性的二型で3種間を比較してみると,歯の大きさでは C. verus が有意な性差を最も多くあらわし,次いで C. polykomos ,C. badius の順に性差が少なくなっていた。有意な性差が特によくあらわれた部位は, CP3complex であり,この部位の性的二型の程度を比較してみると C. verus が最も強く,次いで C. badiusであり, C. polykomos が最も弱い傾向を示した。この傾向は歯を6つのグループに分けて算出したマハラノビス汎距離によっても明確に再現された。以上のことから,今回もちいたコロブスモンキー3種のうちでは大きな歯をもつ種(C. polykomos)ではその性的二型も強くなるという傾向は認められなかった。
  • 九良貿野 進, 湯山 幸寛, 本田 和雄, 井上 直彦
    1983 年 91 巻 1 号 p. 99-109
    発行日: 1983年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    現代においては,歯と顎骨の不調和(discrepancy)の進行はきわあて早く,その速度は今後ますます加速され,不正咬合や多くの歯科疾患に対して直接,間接の影響をもたらすであろうことが指摘されている(井上,1980)。
    この現象は,食生態の変化との関連のもとに,人類の進化にともなって起って来たものと解釈されているが,とくに,この2~3000年ほどの期間に,その変化は急速に進行していると考えられている。
    本研究は,現代人を対象として,10年という比較的短い間隔で,不正咬合とその病因の頻度,Tweed 法による discrepancy の大きさおよびその算定要素の変動などについて調べようとしたものである。調査対象としては,岩手県衣川村の住民の中から,1924~1926年,1934~1936年,1944~1946年,1954~1956年,および1964~1966年の10年毎の各世代に生れた5世代のもの,288人を抽出した。これらのうち,不正咬合とその病因の判定ができたものは,256人であり,さらに discrepancy の大きさの算定が可能であったものは,204人であった。
    調査結果は,各項目とも,世代間の変動が大きかった。不正咬合の頻度では,第2次世界大戦を境として,上顎前突が極端に減少し,逆に,下顎前突および叢生が増加を示した。不正要因では,同じ時期に functional型の要因が減少し discrepancy 型の要因が増加していた。Discrepancy の大きさと頻度との間には,はっきりした平行関係はみられなかった。算定要素については,available arch length と requiredspaceとに,また basal arch length と head plate correction とに類似性がみられた。
    とくに興味深かった点は,discrepancy の増大が,歴史時代においては主として顎骨の縮少によって起ったのに対して,現代においては歯の大きさの増大もまた大きく関与していることが知られた点であり,しかも,歯の大きさと,10才時の平均カロリー摂取量とが0.91という高い相関係数をもっていたことである。
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