実生年月日のわかっているニホンザルについて,乳歯の萌出年令を検討した例はほとんどない。本研究では,実生年月日のわかっているニホンザル76頭より得た,延べ384頭分の歯牙萌出状態の観察例にもとづき,乳歯の萌出年令の検討を行った。萌出年令の個体差が大きく,それにくらべて地域差,性差が目立たないこと,また例数が限られていることから,地域差,性差は無視して,統計を行った。歯の萌出順序を,萌出が始まっているか否かで検討すると,全体的傾向としては,前方の歯から後方の歯の方へ向かって萌出が進行し,また,下顎歯の方が,対応する上顎歯よりも先に萌出することがわかる。平均的な萌出年令は,乳切歯の萌出が生後約1週間で始まり,生後1.5~2.0箇月で生え終ったあと,生後約2.5箇月で乳犬歯と第1乳臼歯が生え始め,前者は約1箇月後,後者は約2箇月後に生え終る。第2乳臼歯は生後5.5~6.0箇月で生え始め,生後約7.5箇月で乳歯列が完成する。このような結果を従来のアカゲザルとカニクイザルについての報告と対比すると,3者間で特別に大きな食い違いはないが,比較的にニホンザルでは乳切歯の萌出が早く,アカゲザルでs第2乳臼歯の萌出が早いことが注目される。
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