人類學雜誌
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94 巻, 3 号
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  • 小杉 弘子, 埴原 和郎, 鈴木 継美, 河辺 俊雄, 姫野 誠一郎, 本郷 哲郎, 森田 昌敏
    1986 年 94 巻 3 号 p. 275-287
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    縄文および弥生時代の遺跡から発掘された99資料の助骨,および3体の人骨の5部位について,19の元素濃度を測定した.洗源乾燥後の資料(助骨)において,遺跡の場所による差がなかった元素はボロン,カルシウム,銅,ニッケル,鉛で,他方大きな変動を示したものはアルミニウム,コバルト,鉄,ストロンチウム,チタン,バナジウムであった.
    縄文と弥生とを比較した時有意差のあった元素はカドミウム,マグネシウム,ニッケル(弥生が高値)と燐(弥生が低値)であった.
    因子分析によって抽出された4因子(第1因子は土壌の因子,第2因子は骨無機成分の因子,第3因子は銅とバナジウムに関連する因子,第4因子はナトリウムとマグネシウムに関連する因子)によって,総変動の約90%が説明され,第1因子のみで約43%,第1,第2両因子により66%が説明された.この結果から,古人骨の元素組成の変動を考える場合,土壌による汚染と骨の本来の成分であるカルシウムと燐の変化の2つに注目すべきことが示唆された.また,洞穴からえられた骨とそれ以外(貝塚,砂丘等)の骨とを比較すると後者は土壌による汚染が大きく,前者は水が骨を洗うことによって生じた変化に注目すべきことが示された.
    なお,骨格を構成する骨の中では手基節骨に土壌による汚染が少なかった.
  • 中橋 孝博, 永井 昌文
    1986 年 94 巻 3 号 p. 289-305
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    保存不良な人骨に対しても適用可能な性判定法を得るため,頭蓋,四肢,骨盤の比較的遺存しやすい部分を選んで計18項目の計測値,示数を求め(Table 2),それを基にした判別関数法を,現代,中世(吉母浜),弥生(金隈,土井ケ浜)の4集団に適用した(Table 1).
    まず現代人骨において,変数選択方式によって最適な項目の組合せを探ってみると,恥骨枝幅(PAB)を第1ステップとして,乳様突起高(MPL)まで10項目が選出された(Table 3).適中率は98.5/0に上り,ここで採用した諸項目の有用性を確認し得たが,本法の実用的価値を追求する意味で,次に,最低1項目,最大8項目を用いた種々の組合せをつくり,それぞれの判別関数を算出した(Table 4).部分別に見ると,性判定に最も有効なのは骨盤の諸項目で,特に恥骨枝幅(PAB)等では,1項目でも90%近い正判定率が得られた.ただ,遺存しやすい部分を選んでいるとはいえ,骨盤は一般的に保存が悪く,その実用に際しての効力にはやや問題が残る.それに対して,四肢骨の骨体周径はいずれも高い判別率を示し,保存度,計測の容易さ等の点において最も実用的価値が高いと考える.一方,頭蓋の諸項目は,乳様突起高(MPL)以外はさ程の効力を示さないが,2-3項目の組合せによって80%を超える適中率を得るのは可能であり,一般的に頭蓋は遺存度が高いので,四肢骨等と組合せればより正確な判定も可能である.また,こうした頭蓋,四肢,骨盤の各部分間の組合せは判定率を上げると同時に,多様な人骨遺存状況に対応させて判別関数を用いるためにも非常に有効である.ちなみに,恥骨枝幅PAB),四肢骨体周径(HUM. FEM. TBI, TBII),乳様突起高(MPL)といった項目の組合せでは,2-3項目で90%を超える判別率が得られた.
    次に,現代人の計測値から求めた判別関数の古人骨に対する効力をみると,まず,吉母浜中世人に関しては,全体的に現代人での結果と大差ない確率での判定が可能であった.しかし,より古い弥生の2集団に対しては,用いる項目によって判別率のかなりの低下と男女差,つまり計測値の差に因る境界値のずれから,男性ではほぼ100%の適中率なのに,女性では大きく低下するといった片寄りがみられた.これは主に用いた項目の時代差,つまり,一般的に時代を遡る程,計測値が大きくなることによるものと考えられる.
    従って,ある集団に対する判別関数は,時代や地域が同じか,近い関係にある集団に対してはかなり有効かと考えるが,遠い関係にある集団,あるいは所属不明の人骨に適用する場合は,集団差の少ない項目〔ここで調べた集団間でみる限りにおいては,乳様突起高(MPL),上腕骨最小周(HUN),寛骨臼厚(CSB),後頭骨厚(OCT),寛骨幅(ILB),第一仙椎幅(SAT)等〕に限定して用いるべきであろう.
    一方,各集団において,それぞれ判別関数を算出して適用すれば,そうした判定率の片寄りもなく,現代人での結果と同程度か,むしろ上回る結果が得られ,ここで用いた諸項目の古人骨に対する有効性が確認された(Table 5).
    さらに,判別関数法と比較する意味で,男女の平均値の中間点を境界として性判別を行なってみると,例えば,恥骨枝幅(PAB),棘耳状切痕示数(ASI),四肢骨体周径(HUM. FEM. TBI. TBII),乳様突起高(MPL)等では,単独でも80%前後か,あるいはそれ以上の適中率が得られ(Table 2),またこれらを何項目か組合わせれば,十分実用に耐え得る確率での判定も可能である(Table 4).判別関数法に較べれば全体的にその信頼性において劣るとは言え,こうした非常に簡便な方法も,その実用的な意味において十分検討に値するかと考える.
    以上,ここで示した方法は,まだ判別関数を算出するための資料数が古人骨でやや不足している点や,他時代,他地域出土人骨への適用拡大等,いくつか今後の課題を残すものの,比較的遺存しやすい部分のみを計測に用いている点,また,多様な骨の遺存状況に対応して項目を選べるよう.全身各部に多くの項目を用意し,しかもそれらの少数の組合せでかなりの高判定率が得られる点において,保存良好人骨はもとより,通常,多くの保存不良骨を含む古人骨の性判定に効力を発揮するものと考える.
  • 江原 昭善, 木下 実, 松本 真
    1986 年 94 巻 3 号 p. 307-313
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    愛知県西春日井郡清洲町の朝日西遺跡から近世初頭のものと考えられる犬骨が見つかった。個体数は少なくとも18におよび,大型化の傾向が見られるものをはじめ,かなりの個体差が認められる。日本家犬の歴史を考えるうえで貴重な資料と思われるので,個体ごとの計測値を含め報告する。
  • 阿部 すみ子, 平岩 幸一
    1986 年 94 巻 3 号 p. 315-318
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    アクリルアミドゲル等電点電気泳動法により,福島県在住者を対象に Pi, Tf およびα2HS 型の分布調査を行なった結果,次に示す遺伝子頻度が得られた.PiM1=0.7117; PiM2=0.2500, PiM3=0.0365, PiV=0.0018; TfC1=0.7743, TfC2=0.2174, TfB=0.0032,TfD=0.0051; α2HS1=0.7585, α2HS2=0.2415.これらはいずれも既に報告されている日本各地の成績とほぼ一致した.
  • 中立説に関連して
    瀬戸口 烈司
    1986 年 94 巻 3 号 p. 319-324
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
  • 小田 静夫, Charles T. KEALLY
    1986 年 94 巻 3 号 p. 325-361
    発行日: 1986年
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    日本の旧石器時代の研究において,一つの関心事は日本列島に最初に渡来した人類の問題であろう.現在多数の研究者は1万-3万年前頃の旧石器時代人類の存在は認めているが,3万年以前に遡るとされる所謂「前期旧石器時代」になると,その存在に賛否両論があり現在未解決の問題として残されている.日本の前期旧石器時代については,1969年頃から芹沢長介により本格的に研究され始め,全国に遺跡,遺物の発見があった.しかし,ここ数年,岡村道雄•鎌田俊昭らが宮城県内で推進している「新たな前期旧石器時代」の提唱は,芹沢により研究されてきた本来の「前期旧石器問題」を解決させることなく,これこそ真の石器であり,遺跡も完壁なものであると力説する.現在宮城県内で33ヵ所の前期旧石器時代遺跡が発見されており,その中でも座散乱木,馬場壇A,志引,中峯C,北前,山田上ノ台遺跡等が有名である.
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