人類學雜誌
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95 巻, 1 号
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  • 松村 秋芳, 岡田 守彦
    1987 年 95 巻 1 号 p. 5-18
    発行日: 1987/01/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    骨は外部の力学的条件の変化に対して形態的な適応を示すと考えられている.これまでヒトやサル類大腿骨の骨体横断面の力学的特性値を計測することにより,骨の形態的適応現象と筋収縮や運動時に生ずる筋収縮以外の外力による力学的な負荷,あるいはロコモーションの様式との関係がしらべられてきた.特定の様式の運動負荷が骨の形態に及ぼす影響を詳しくしらべるためには,同一の遺伝的背景をもち,生活環境を一定にコントロールした実験動物を用いることが望ましいと思われる。すでに著者らはラットを用いて強制走行運動負荷が大腿骨中央断面の形態に及ぼす影響について報告した.
    今回は,SD 系雄ラット16匹を非運動群と運動群に分け,強制走行運動負荷が成長期のラット大腿骨骨幹にそった部位ごとの断面特性値に及ぼす影響をしらべた。運動負荷にはストレスが少ないと考えられる新式トレッドミルを用い,1日20分間最高速度約40m/秒の比較的高速の強制走行運動負荷を与えた.動物の飼育は12時間おきの明暗サイクルの下で行ない,運動負荷と摂食の時間帯を一定に設定して,自発運動量や摂食量における個体差が少なくなるように配慮した.最終体重は両群の間で有意差が認められなかった.大腿骨は近位側から最大長の30%~75%の区間を5%おきに10ケ所切断し,拡大写真から断面特性値を計算した.その結果つぎのような事柄が明らかになった.
    1)ラット大腿骨では小転子が30%部位よりもやや近位に,第3転子が30~45%部位に位置する.このような形態的特徴を反映して,ラット大腿骨の骨幹に沿った断面特性値の変化は,下記のように,サル類,ヒトとは異なる特有のパターンを示した.
    a.断面積:55~70%部位で最小値をとり,中央部位より近位部にかけて漸増する。中央部付近から遠位部に向かってもわずかに増加の傾向を示す.
    b.断面2次モーメントおよび断面2次極モーメント:骨幹の近位部と遠位部で大きく,中央付近の50~65%部位で最小となる.左右方向の断面2次モーメント(Iy)に対する前後方向の断面2次モーメント(Ix)の比率からみると,ラットはサル類やヒトとくらべて左右方向の曲げ強度が相対的に大きいと考えられる.
    c.主軸の角度:近半部位で大きく,40~45%部位で最大となる.すなわち,断面2次モーメントの大きい方向は,骨幹中央よりもやや近位部において最も強く外旋し,前後軸方向に近づく.
    d.断面示数:35%部位で最小,55%部位で最大となる.すなわち,近位部では断面の形状が扁平化して断面2次モーメントの大きい方向に細長くなり,他方,中央部よりやや遠位部では断面がもっともまるくなる.
    2)走行運動負荷は大腿骨断面特性値に対して,下記の効果を示した.
    a.骨幹の中央部から近位側において,左右方向の断面2次モーメントおよび断面積を大きくし,主軸を内旋させる.すなわち,骨幹の近位部では左右方向の曲げ強度,骨幹の長軸方向の圧縮強度が増加する.
    b.中央部から第3転子近辺にかけて,断面示数を小さくする.すなわち,骨幹の断面を主軸方向の径が大きくなるように扁平化させる.
    c.小転子近辺において,前後方向の断面2次モーメントおよび,断面2次極モーメントを大きくする.すなわち,前後方向の曲げや=りに対する抵抗が増加する.
    3)これらの結果から,走行運動負荷はラット大腿骨の中央部から近位側の断面形態に強度の増加を想定させるような変化をひきおこすこと,その際の負荷の主因は筋収縮であることが示唆された.
  • 百々 幸雄
    1987 年 95 巻 1 号 p. 19-35
    発行日: 1987/01/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    最初に,眼窩上孔と舌下神経管二分の解剖学的および発育学的性質が再検討された.その結果,研究者間の誤差を少なくするために,眼窩上縁に存在し,しかも眼窩に開通するすべての孔(前頭孔と滑車上孔を含む)を眼窩上孔と記録することが適当であると考えられた.舌下神経管二分の判定に関しては,とくに問題になるような研究者間誤差が入り込む余地がないように思われた.この二形質とも,出現頻度が生後発育とともに増大するので,OSSENBERG(1969)の提唱する骨過形成的変異形質に分類してさしつかえないようであった.しかし,両形質の発現はほとんど独立に生じる,という結果が得られた.
    次に,眼窩上孔と舌下神経管二分の出現頻度を,モンゴロイド38集団,コーカソイド37集団,ネグロイド4集団,オセアニアン13集団について比較した。その結果,眼窩上孔の出現頻度は明らかにモンゴロイド集団で高く,舌下神経管二分の出現頻度は,コーカソイドと北アメリカのモンゴロイド集団で高いことが明らかになった.二変異形質の出現率を組み合わせて集団の散布図を描くと,オーストラリア原住民,ネグロイド,コーカソイド,アジアのモンゴロイド,北アメリカのモンゴロイドの五つのクラスターが識別され,この二形質がヒト集団の大分類にきわめて有効であると考えられた.
    最後に,近世アイヌと日本の先史•原史時代集団における出現頻度を検討した.両形質の出現頻度をもとに集団の散布図を描くと,土井ケ浜および金隈弥生人,東日本および西日本の古墳人集団の分布は,現代日本人を含むアジアのモンゴロイド集団の分布範囲とほぼ完全に一致するが,北海道アイヌと東日本および西日本の縄文人集団はこれらから大きく離れて,一つのクラスターを形成する傾向にあった.このことから,土井ケ浜型の弥生人,古墳人および現代日本人は,遺伝的に密接に関連していることが推察された。
    縄文人的な形態的特徴を有する西北九州型等の弥生人についてのデータがないので,性急な結論は差控えたいが,眼窩上孔と舌下神経管二分の出現型からみる限り,現代日本人の成立には,弥生時代から古墳時代にかけての大陸からの渡来集団の遺伝的影響が大いに関与しているように思われる.
  • R. K. PATHAK, S. KAUL
    1987 年 95 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 1987/01/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    インド人6集団の下顎骨について7項目の計測と6項目の非計測的形質の出現率調査をおこない,集団間の差を検定した結果,計測値の方が非計測的形質に比して差の検出力にややすぐれていることが明らかになったが,集団間の差のパタンには著しい差は認められなかった。集団研究において最大の情報を引き出すためには,可能なかぎり,計測と非計測的形質の両者を活用すべきであると考えられる.
  • 日本人の四肢長骨計測値の分析
    多賀 谷昭
    1987 年 95 巻 1 号 p. 45-76
    発行日: 1987/01/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    報告された基本統計量から性差の集団間変異の多変量解析を行うための方法を提案し,それをもちいて現代および先史時代の日本人を中心とする集団間で四肢長骨計測値の性差を比較した。性差の集団間変異は一般に単変量では小さいが,多変量では著しく有意で,変異の大部分は shape にみられる。現代日本人と現代インド人との間の性差の人種差は有意でないが,現代日本人の中にも性差に多少の地域差がみられるので,性判定に判別関数を利用する際には注意が必要である。性差による集団間関係は両性に共通の集団間関係と類似しており,縄文早前期人は後晩期人に比べて頑丈性の性差が著しく小さく,土井ケ浜弥生人は性差においても現代朝鮮人に近い。
  • 森本 岩太郎, 吉田 俊爾
    1987 年 95 巻 1 号 p. 77-87
    発行日: 1987/01/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    椎体が前方の低いクサビ形を呈する楔状椎の出現頻度を東京都一橋高校遺跡出士の江戸時代前~中期(17世紀)人骨男37体女12体につき調べ,その成因を考察した。椎体垂直示数が120以上を示す高度の楔状椎は男13体(35%)に見られ,第12胸椎と第1腰椎およびこれと隣接する椎体に1~3個連続して出現する.女では高度の楔状椎は2体(17%)にすぎず,いずれも第12胸椎と第1腰椎に2個連続していた。これらの楔状椎はおそらく当該部の脊柱の後弯を伴ったと推定され,また後弯により楔状化が促進されたと思われる。壮年~熟年期男性の胸腰移行郎に多発したこのような楔状椎は,おそらく習慣性の胡座(あぐら)にその原因が求められよう。
  • 中橋 孝博
    1987 年 95 巻 1 号 p. 89-106
    発行日: 1987/01/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    福岡市の天福寺遺跡から,ほぼ江戸時代後期に所属する人骨,約200体が出土した。その特徴として,かなり顕著な長頭性,大きく高い顔面部,あるいは現代人より強い鼻根部の彎曲や歯槽性突顎,等の傾向が認められた。推定身長は男性159.4cm,女性146.5cmで,中世人や他の近世人とは大差ないが,当地方の弥生や古墳人に較べると明らかに低い。全体的に,桑島や粒江より,これまで都市部で出土した江戸時代人に比較的近い形質を示すが,長頭性という点には当地方の現代人にもつながる地域性が認められる。また,中世以降の時代変化の中で一部の形質に不連続な変化も認められ,そうした特徴の由来についていわゆる「都市化現象」や「貴族化」との関連を検討した。
  • 和田 洋, 池田 次郎, 鈴木 隆雄
    1987 年 95 巻 1 号 p. 107-119
    発行日: 1987/01/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    頭蓋,下顎骨,肩甲骨,上腕骨,肋骨,椎骨,胸骨,仙骨,寛骨,および大腿骨の多くの骨および部位に骨溶解性病変をもつイラク•ハムリソ盆地出土のイスラム期人骨について,それらの病態を記載している.骨溶解性病変を誘起する多くの原因疾患と比較検討した結果,若い死亡年齢,多くの骨の多部位に発症する病変,それらの位置と分布,病変の大きさと形態,わずかの反応性骨増殖等の点において,この骨格は徐々に成長する腫瘍性病変に罹患したものと結論づけられた.
    この報告はイラクにおけるその病変についての最初の古病理学的記載であるだけでなく,世界的にみても報告例の少ない,貴重な資料である。
  • 三橋 公平, 徳留 三俊, 木村 邦彦, 曽根 潮児, 永井 昌文, 寺門 之隆, 内藤 芳篤, 磯野 日出夫, 小西 正良
    1987 年 95 巻 1 号 p. 121-135
    発行日: 1987/01/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    1952年,文部省科学研究費助成金を基に,小池敬事(千葉大)を班長に指紋班が組織された.班員は二井一馬(岩手医大),古畑種基(東京医科歯科大),須田昭義(東京大),中山英司(南山大),原 淳(岐阜大).島五郎(大阪市大),金関丈夫(九州大),伊藤光三(鳥取大),松倉豊治(大阪大),安中正哉(長崎大),忽那将愛(熊本大)を合せた12名である.1952年から1955年にかけ,各班員は,研究室をあげて,日本の各分担諸地域約190箇所の住民男女約450,000名の指掌紋を採集した.研究成果の一部,男性の指紋 (KOIKE,1960) についてはすでに報告されている.しかし各班員の退官とともに資料はその後継者の手許に残され,永く埋れてきた.さらにその一部は後継者を失い,すでに行方不明となっている.著者らはこれを憂い,まず,さきの男性の報告 (KOIKE,1960) に倣って,女性の指紋について報告することを計画した.三橋,徳留,曽根,永井,寺門,内藤と磯野の手許に残された資料を元に三橋,木村と小西が整理した.
    本報告では,日本各府県(北海道,東京,沖縄を除く)の169箇所で採集された日本人女性213,138名の資料を元に,10指を合計した,小池(1949)によるB,S,ODS と OW の4分類型の各頻度と, CuMMINsand MIDLo (1943)の pattern intensity によって,日本人の指紋の地方差と地理的傾斜が検討された.各資料は必ずしも平均に分布していない.九州,山陰,東山(西部)地方に多く集り,近畿地方に少なく,東海地方など皆無に近い.日本人女性の各紋型の頻度は,平均,B型3.1%,S型54.6%,ODS型5.3%0,OW 型37.0%である.男性(それぞれ2.1,50.3,5.5,42.2%)に比べて,B,S 型はより高く,ODS,OW 型はより低い一般的傾向を示す.一定方向の地理的傾斜は必ずしも明らかではないが,日本人は2つの地理的グループに分類できる.すなわち東北,裏日本(北陸,東山,山陰)群と,九州,瀬戸内(山陽,四国),近畿群である.前者は後者に比べてBとODS型の頻度が高く,OW型の頻度が低い特徴を示す.アイヌ(木村,1962)は地理的に近い東北地方に最も類似する.この結果は指紋班の男性についての報告(KOIKE,1960),さらに生体計測班の資料などに基づく小浜(1968,1966)の報告によく一致している.
  • 阿部 すみ子, 平岩 幸一, Ismail M. SEBETAN
    1987 年 95 巻 1 号 p. 137-139
    発行日: 1987/01/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    エジプト人95名について,ポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動法と免疫固定法により血清中の α2HS-g1ycoprotein 型(α2HS型)を調査したところ,1型,2-1型および2型が観察され,変異型はみられなかった. α2HS1型は70例(74%),2型は23例(24%),2型は2例(2%)で,遺伝子頻度は α2HS1=0.86, α2HS2=0.14であった.エジプト人 α2HS1の頻度は白人(α2HS1=0.65),日本人(α2HS1=0.73),ネパール人(α2HS1=0.76)に比較して高値を示した.
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