人類學雜誌
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97 巻, 4 号
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  • 和田 洋
    1989 年 97 巻 4 号 p. 433-455
    発行日: 1989/10/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    この報告はイラク•ハムリソ盆地から出土した顔面頭蓋の水平輪郭を記載している.顔面頭蓋およびその前部の水平輪郭が前後径および幅径の22項目で分析された.顔面頭蓋は眼窩上縁および外耳孔の4点を結ぶ平面より前下方の部と,また顔面頭蓋前部は frontomalare orbitale および zygomaxillare anterius の4点を結ぶ平面より前方の部と定められた.資料は長頭(地中海人種)および短頭集団(アルプス人種)に所属する95例であり,方法は単変量および主成分分析を用いた.目的は集団間および性間の形態変異を推定し,その集団間変異に基づいて集団分類を確立することであり,また集団特徴を明らかにし,その集団特徴に基づいてハムリソ両集団の世界の中における人種的位置を確立することである.
    主成分分析では,男性の長頭および短頭集団間が顔面頭蓋上顎部の水平輪郭により,また女性のそれが顔面頭蓋前部の上顎部水平輪郭により特徴づけられた.一方,両集団の性間変異は主に顔面頭蓋全体と顔面頭蓋前部の前頭部との大きさにより特徴づけられた.顔面頭蓋の集団間変異に基づく観察により,82例の頭蓋が所属する集団型を再吟味した.その結果,前回(和田,1986)の集団分類法は88%で正しく,一方今回のそれは 83%の正当率であった.前回および今回の集団問変異に基づいて,10例の集団型が変更された.単変量解析では,男性の集団間変異が顔面頭蓋後方底部すなわち頭蓋底の幅径の差異により,また女性のそれが顔面頭蓋前部の上顎部長径と頭蓋底の幅径との両者の差異により生じていた.主成分分析を用いてハムリン両集団の人種的位置を確認すると,長頭および短頭集団はいずれもコーカソイドの一員であることが示唆された.
  • 高部 啓子, 松山 容子, 近藤 四郎, 柳澤 澄子
    1989 年 97 巻 4 号 p. 457-474
    発行日: 1989/10/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    1978-'79年に計測された7歳から20歳に至る健康な日本人,男子8,679例,女子8,889例の身体14部位の横断資料を用いて,12年前の資料及び U.S.A. 資料との比較から,現代日本人男女の成長特性を明かにすることを試みた.主な結果は以下のようである.
    1.成熟過程を20歳値に対する各年齢の百分率でみると,男女ともに,長高径項目では,足長が上前腸骨棘高に先行し,上前腸骨棘高が袖丈に先行する.周径項目では,頭囲が胸囲と腰囲に先行する.また男子では,腰囲が胸囲に先行し,大腿最大囲が上腕最大囲に先行して成人値に達する.すなわち,身体の下方の部位が上方の部位に先行して成長する,頭部が体幹に先行して成長するという成長勾配が認められる.これらの関係は1966-'67年資料においても同様である.
    2.年間成長量が最大となる年齢は,長高径4項目(身長•上前腸骨棘高•袖丈•背肩幅)では男子12~13歳,女子10~11歳である.男女ともに,足長ではその約1年前であり,周径5項目(胸囲•胴囲•腰囲•上腕最大囲•大腿最大囲)•体重では約1年後である.皮下脂肪厚の成長については,長高径4項目の成長速度が最大となる時期に成長速度が停滞する傾向を示す.
    成人値に達するのは,長高径4項目では男子16,17歳頃,女子14,15歳頃であり,足長ではその約1年前,周径5項目•体重では約1年後,頭囲では約2,3年後である.ほぼ成人のからだつきに到達するのは,男子19歳,女子18歳である.
    これらの各年齢は,男女ともに1966-'67年資料より若くなっている.このことは,女子の平均初潮年齢が12歳11ヵ月から12歳6ヵ月に,すなわち5ヵ月の早発化を示していることからも裏付けられる.
    3.12年を隔てた1966-'67年資料との比較によると,この約10年間に,男女ともに,長高径項目及び胴囲では,全年齢にわたり身体の大型化が進行した.しかし,胸囲では減少傾向を示した.腰囲•体重•皮下脂肪厚は男子では増大傾向を,女子では減少または停滞傾向を示す.
    4.身長•体重•皮下脂肪厚について U.S.A. 資料と比較すると,日本人は,3項目いずれも全年齢にわたりアメリカ人より劣る.年間成長量の最大値は,3項目で両国間に大きな差異はみられないが,思春期前の成長量や成長が停止するまでの期間には若干の差異があると思われる.
    アメリカ人では高身長化と思春期成長の早発化は日本人ほど明瞭ではない.
  • 山本 美代子
    1989 年 97 巻 4 号 p. 475-482
    発行日: 1989/10/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    乳歯のエナメル質減形成は,母体の疾患,出産時の異常,および生後1年以内における栄養欠乏や全身性疾患などの障害によって引き起こされるもので,個体の健康•栄養状態や所属集団のストレスを示す指標として有用と思われる.
    江戸時代前~中期(17世紀)に属する東京都一橋高校遺跡出土未成人頭蓋62個の乳歯について,エナメル質減形成の出現頻度の観察およびその発生時期の推定を行った.その結果,エナメル質減形成の出現頻度には歯種差が認められ,上顎乳中切歯に最も高頻度に出現していた.また BLAKEY and ARMELAGOS(1985)の基準に従った個体別の出現頻度,42個体中7個体(16.7%)であった.発生時期としては出生後が多く,出生前や周産期の発生は少なかった.これらのエナメル質減形成の原因としては,当時の栄養欠乏,非衛生的な住居と水,人口過密,および流行病などが考えられる.一橋集団におけるエナメル質減形成の存在から,江戸時代の人びとを取り巻く生活環境がかなり過酷であったことが示唆された.なおエナメル質減形成と cribra orbitalia の関係を検討したところ,両者はストレス要因に対して異なった感受性を持っていることが推測された.
  • 針原 伸二, 斎藤 成也
    1989 年 97 巻 4 号 p. 483-492
    発行日: 1989/10/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    制限酵素を用いたミトコンドリア DNA 多型のデータを文献より収集し,以下の15集団計885名のミトコンドリァ DNA(mtDNA)タイプを分析した:コケィジアン,東洋人(おもに中国人),バンツー,ブッシュマン,アメリンディアン,ユダヤ人,アラブ人,タール人(ネパール),ローマ市住民,サルディニア島住民,日本人,アイヌ人,韓国人,ネグリト(フィリピン),およびヴェッダ(スリランカ).4種類の制限酵素AvaII, BamHI, HpaI, MspI の切断パターンを組み合わせると,全個体は57種類の mtDNA タイプに分類された.これらの mtDNA タイプの系統関係を,最大節約法を用いて無根系統樹として描いたところ, mtDNA タイプは大きくふたつのグループに分かれた.ひとつは,ほとんどがアフリカの2集団(バンツーとブッシュマン)のみに見いだされたタイプによって構成されるグループであり,もうひとつは,主としてアフリカ以外の集団に見いだされたタイプによるグループである.各 mtDNA タイプの集団における出現頻度を考慮して,集団間の遺伝距離を推定し,そこから UPGMA (単純クラスター法)を用いて,15集団の系統樹を作成した.ネグリトを含むアジア•アメリカ大陸の7集団(ヴェッタを除く)は,お互いに遺伝的にきわめて近縁であり,単一のクラスターを形成するが,コーカソイドの5集団は,やや遺伝的に異質であった.一方,アフリカ大陸の2集団は,他集団から大きく離れていた.
  • 松村 博文
    1989 年 97 巻 4 号 p. 493-512
    発行日: 1989/10/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    5地域(北海道,東北,関東,東海,山陽)の中後晩期縄文人の永久歯歯冠近遠心径および歯冠頬舌径の地域変異について分析をおこなった.分析に用いた項目は,小臼歯および大臼歯に関する16項目である.分散分析の結果,16項目中男性では5項目,女性では8項目において5%以下の危険率で有意な地域差を認め,男女とも歯冠頬舌径に地域差を示す傾向が認められた.この結果は,歯冠近遠心径よりも歯冠頬舌径のほうが環境による影響を受けやすいということを示しているのかもしれない.16項目を用いて縄文人5集団間のペンローズの形態距離およびマハラノビスの距離を算出し,それらの距離行列に基づいて多次元尺度法を用いて1次元に展開した結果,男女とも北海道縄文人が本州縄文人と離れ,本州縄文人は比較的まとまる傾向を示した.男性では本州縄文人の中では東北縄文人が北海道縄文人に比較的近くに位置した.さらにこれらの歯冠形態の地域差をもたらす要因を検出するため,16項目に因子分析をほどこしたところ,北海道縄文人および東北縄文人では男女とも歯冠頬舌径が小さいことが示され,男性の北海道縄文人の第1大臼歯の歯冠近遠心径が本州縄文人よりも大きいことが明らかになった.さらに退化示数の算出によって,北海道縄文人は男女とも本州縄文人に比べて第1小臼歯に対する第2小臼歯のサイズ,および第2大臼歯の第1大臼歯に対するサイズが小さいという特徴が示された.近年,道南部の噴火湾を中心とする北海道縄文人の身長および歯の形態が本州の縄文人と多少異なることが指摘されており,また北海道縄文人の食性が本州の縄文人と著しく異なっていたことが明らかにされている.これらの結果から判断すると北海道の縄文人は,本州と異なる環境にやや独自の適応を遂げたという推測が可能である.
    5地域の縄文人集団にアイヌおよび現代関東日本人を含めて分析をおこなったが,男女ともアイヌは縄文人集団に近く,関東日本人は,それらから大きく離れる結果となった.また本州縄文人と北海道縄文人との距離は,本州縄文人と現代関東日本人との距離と比較すると,小さいことが示された.縄文人の歯冠形態は現代関東日本人と比較すると,犬歯,小臼歯および第2大臼歯が著しく小さいことで特徴づけられ,これはアイヌにも共通する特徴として認められた.縄文人とアイヌと大きく異なる点は,アイヌの切歯のサイズが著しく小さいことであり,この傾向は特に男性において顕著であった.歯冠形態の地域差および時代差の要因については,今後さらに詳細な研究によって明らかにしていく必要がある.
  • ニホンザル大腿二頭筋について
    熊倉 博雄
    1989 年 97 巻 4 号 p. 513-527
    発行日: 1989/10/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    複雑な起始-付着関係を持つニホンザル大腿二頭筋の形態の機能的意義を考察するため,13体の右側当該筋の形態計測値をもとにしてテコ比を算出し,筋の各区分別の機能を推定した結果,大腿付着部及びこれに連続する膝関節包付着部の拡張の程度はテコ比の変動にあまり影響せず,その意義は筋束数の増加に伴う筋力の向上にあると考えた。一方下腿付着部では,付着高が遠位に移行することによる股関節に対するテコ比の変動は小さいが,膝関節のテコ比が大きく変動することから,ニホンザルにみられる広い下腿付着部は股関節伸展による推進力の獲得に寄与するよりも,四足ロコモーションにおける下腿の位置調節に関与すると考えられた。
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