人類學雜誌
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98 巻, 1 号
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  • 中務 真人
    1990 年 98 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 1990/03/10
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    大腿骨など長骨の断面形状は直交する二つの径の長さの比によって記載されることが多い.しかしながらこの数値は一定方向への断面の扁平性を示すだけであり,それ以外の微妙な形状に関する情報を表すことはできない.こうした計測値によらず,全体的な形状によって断面形状を記載する方法も可能だが,不規則な形状の変異を統計的に扱う手法が開発されていなかったために,タイポロジーに終わっている.今回おこなった方法では,断面輪郭図形相互の全体的な形状の類似性を数値化し,その値に基づく多次元尺度法により輪郭図形を二次元平面上に配置し,全体の変異がどの様な要素から表されるかを視覚的に示した.この方法により現代日本人と縄文時代人について,大腿骨中央断面での輪郭形状の変異を調査した結果,全体の変異は柱状性と矢状面に対する非対称性,すなわち「断面のねじれ」の二つの要素から説明できることが示された.これらの要素は集団間でも共通して存在し,連続な変化を示した.平均値の比較では集団差,性差は断面の柱状性について認められた.今回の手法では,従来いわれているような現代人の身体形質の多様性,縄文時代人大腿骨の発達した柱状性と大きな性差をはっきりと示す結果が得られた.一方,断面のねじれについては変異性には現代日本人と縄文時代人との間で違いがみられたものの,平均値には集団差が認められなかった.これらの結果は現代日本人の多様な生活環境,縄文時代人の労働における性的分業の顕在性を表していると考えられる.不規則な形状の変異が効率よく少数の基本的な要素に集約され得ることを示した今回の結果は,こうした手法が形態学で果たす可能性を示している.
  • 埴原 恒彦
    1990 年 98 巻 1 号 p. 13-27
    発行日: 1990/03/10
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    後期更新世のスンダランド,ウォーレシア,サフールランドを地理的舞台とする東南アジア,西太平洋地域の人種形成史は日本人の基層集団を解明する上でも避けて通ることの出来ない問題である.
    約3万年から4万年前,スンダランドからサフールランドへと渡っていったプロトオーストラロイドの一部はその後独自の分化を遂げ現在のオーストラリア原住民へと進化し,またスンダランドの熱帯降雨林でこのプロトオーストラロイドから進化してきたプロトマレーはネグリトの直接の祖先とされる(尾本,1986,1987).一方,このスンダランドから北上していった一集団こそプロトモンゴロイド→縄文時代人→アイヌの系統とされている(TURNER,1987).それでは最終永期にスンダランドから適応放散していったプロトマレーあるいはネグリトとプロトモンゴロイドとはどのような関係にあったのだろうか.尾本(1986)はネグリトそのものがある時期なんらかの形でプロトモンゴロイドの形成に関与した可能性を指摘しているが,この問題は日本人の基層集団がどのような形質を持った集団をその祖先とするのか,さらに彼らが東アジアの人種形成の過程でどう位置付けられるのかという問題に発展し得るものであろう.
    本研究では東アジアのモンゴロイド系諸人種との関連が重要視されている太平洋民族を含め各集団の歯冠近遠心径に基づいて分析を行った(Table 1).
    Q モード相関係数に基づく多次元尺度構成法,主成分分析法,正準判別分析法による次元減少法によって各集団間の関係を二次元に展開した結果(Figs.2,4,5,6)縄文人及びその遺伝的寄与が高いと考えられる日本人集団と太平洋民族とが二つのクラスターを作りその間にやや日本人に近くネグリトがプロットされた.すなわち,歯冠の計測的形質においてネグリトが両集団に共通した特徴を持つことが明らかにされた.このことはまた,ネグリトとプロトモンゴロイドとの関係をある程度示唆するものと思われる.
    しかしこのことから直ちにネグリトのような形質を持った集団が日本人の基層集団,あるいは太平洋民族の共通の祖先であると即断することはできない。東アジア,太平洋地域における人種分化の解明にあたっては,今回得られた結果を一つの作業仮説とし,今後更に非計測的歯冠形質の分析,あるいは頭骨分析など多角的な方向からアプローチしてゆく必要があると思われる.
  • 現代日本人への THOMPSON のコア•テクニックの応用
    楢崎 修一郎
    1990 年 98 巻 1 号 p. 29-38
    発行日: 1990/03/10
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    近年,骨組織による死亡年齢推定法が盛んになり,いくつかの方法が提唱されている(AHLQVIST and DAMSTEN,1969;KERLEY,1965;SINGH and GUNBERG, 1970;THOMPSON,1979)が, THOMPSON による "コア•テクニック"は,資料となる人骨の損傷を最小限に抑えるという利点がある.この方法は,高速ドリルを使用して人骨より直径4mm のコアを取り出し,その骨組織の加齢変化を指標として死亡年齢を推定するものである. THOMPSON は,この方法を死亡年齢•性別の判っている解剖学実習用遺体•検死遺体に応用して,重回帰分析を行い,白人用の重回帰推定式を算出した.THOMPSON の研究では,左右の上腕骨•尺骨•大腿骨•脛骨が推定に使われたが,大腿骨が最も良く推定できる部位であることが判明した.そこで,本研究では日本人の解剖学実習用遺体の左•大腿骨からコアを取り出し死亡年齢推定を行った.
    資料は,東京大学医学部解剖学教室の解剖学実習用遺体22例(男性11例,女性11例),及び横浜市立大学医学部解剖学教室の解剖学実習用遺体30例(男性17例,女性13例)の計52例である.男性28例の死亡年齢は,54歳から98歳,平均78.96歳であり,女性24例の死亡年齢は,43歳から94歳,平均75.71歳である.
    THOMPSON は,19の骨組織を死亡年齢推定の変量として用いたが,本研究では8つの変量,骨緻密質(コア)の厚さ,コアの重量,第二次オステオンの数,第二次オステオンの平均面積,第二次オステオソの面積の標準偏差,第二次オステオンの平均周辺長,第二次オステオンの周辺長の標準偏差,一定面積に占める第二次オステオンの総面積を用いた.そのうち,第二次オステオンの面積の標準偏差と第二次オステオンの周辺長の標準偏差は,本研究で新たに導入された.これらの変量により重回帰分析を行い,日本人用の重回帰推定式を算出し,男性で重相関係数0.581,標準誤差9.28,女性で重相関係数0.748,標準誤差9.95という結果を得た.
    この結果は,信頼性が高いとは言えないが,死亡年齢が50歳以上で,ゴしかも大腿骨しか存在しない場合でも死亡年齢推定が可能であり,また骨資料の損傷を従来の方法よりも最小にとどめるという点で有効であろう.
  • 関川 三男, 金沢 英作, 尾崎 公, L.C. RICHARDS
    1990 年 98 巻 1 号 p. 39-47
    発行日: 1990/03/10
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    上顎第2乳臼歯(男子:22,女子:31)咬合面のモアレ写真から各咬頭の隆線の出現頻度と平均的な走行パターンを定量的に調査した.さらに,すでに得られている上顎第1大臼歯での結果と比較した.中心隆線は,すべての歯の各咬頭に認められたが, hypocone には存在しないものもある.また,近心および遠心の副隆線は, hypocone と metacone では発達の弱いものやあるいは欠如することもある.男女間で隆線の出現頻度や平均的な走行パターンにあまり大きな差は認められない.しかし,metacone の近心副隆線は,女子の方が男子より有意に出現頻度が高い.隆線の平均的な走行パターンは, trigon の大きさを基準化した斜行座標から mesh data として得た. trigon を構成する咬頭では,それぞれ3つの隆線は基本的に[山]の字型の走行パターンを示す.しかし, hypocone では定形的なパターンは認められない.すなわち,第2乳臼歯の隆線の形態においても,第1大臼歯で得られた結果と同様に hypocone の形態変異が著しいといえる.
    斜走隆線の走行は,肉眼的に第2乳臼歯のほうが第1大臼歯より明瞭である.斜走隆線は,男女ともにすべての歯に認められたが,斜走隆線の最深点(中心溝との会合部)の高さやこの隆線上に見られる小結節の発達程度,さらにそこから派生する細い隆線には変異が認められた.この小結節は,通常 metacone の中心隆線上に見られ,その位置や形態が metaconule に類似する.この小結節の発達の良い歯は,そうでないものと比べて咬頭頂間距離は大きいが,咬頭は低い傾向を示す.第2乳臼歯に比べ咬頭が高くエナメル質の厚い第1大臼歯では,この結節はほとんど認められない.すなわち,咬合面に存在する隆線や結節の発達程度は,咬頭の大きさや高さと関連をもち,さらにエナメル質の形成量にも依存していることが推察された.
  • ロコモーション適応の比較機能形態学的考察
    馬場 悠男
    1990 年 98 巻 1 号 p. 51-64
    発行日: 1990/03/10
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    ヒトの足の構造を理解するために、陸上哺乳類のロコモーション適応の歴史を比較機能形態学的に分析した。その結果、ヒトの足は第1指の巨大な点で樹上適応の歴史を示すものの、現時点では抗重力的な構造を持ち、速歩に適応しているとみなすことができる。
  • 篠田 謙一
    1990 年 98 巻 1 号 p. 65-74
    発行日: 1990/03/10
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    ニホンザル152個体(♂R93,♀59)の足部骨格を交連状態で計測した.標本は,京都大学霊長類研究所所蔵のもので,成長途中のもの(83個体)と成体(69個体)の双方を含んでいる.足の長軸方向に21の計測項目を設定した.大きさの変化にともなう,この各部分のプロポーションの変化を明らかにするために多変量アロメトリーの手法を用いて解析することとした.成体群と発育途上群を分けて,それぞれのアロメトリー係数を導出し,両群の関係を明らかにした.
    全体に対して中足骨が優成長すること,足根部の劣成長が指の劣成長よりも著しいことなどは両群に共通で,これらの傾向は大きさが増すことによって獲得されるプロポーションの変化であると結論できる.両者に異なった傾向がみられる項目間については,二変量のアロメトリーを計算して解析した.足根の前方部分と後方部分を比較すると成長期には後部が優成長を示すのに成体では逆に劣成長となる.これは足根骨の成長の様式が長軸方向に関して一様に行われてはいないことに原因があると推測され,多数の骨をまたぐ形で計測される項目の解釈の困難さをうかがわせた.また,第一中足骨と基節骨の関係も両群で逆転しているが,こちらは各個体のこれらの骨の成長率にバリエーションがあることに起因する相違であると思われた.他の指ではこのような変異はなく,母指のみに現れることは興味深い.
    この様に成長途中のグループと成体の間には,大きさの変化に伴うプロポーションの変化の様式に差がみられる場合があり,一方から他方を類推することは危険である.
  • 岡田 守彦, 小久 保秀子, 進藤 正雄, 森本 光彦
    1990 年 98 巻 1 号 p. 75-90
    発行日: 1990/03/10
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    7歳~15歳の男子545名、女子541名の右足について、長径12項目、高径2項目、幅径•周径各1項目の生体計測を行い、各計測値および示数値(プロポーション)の年齢推移とその性差について検討した。踵から指端や中足端までの長さおよび甲の高さの成長は男女とも12歳までほぼ並行するが、男子は13歳でスパートし、女子は12歳でほぼ成長が止まる。足幅では女子も14歳まで成長がつづく(男子は不明)。足根部の長さは9歳前後から男子が女子をしのぐようになり、以後性差は漸増する。この結果、男子は女子よりも足根部が相対的にやや長い。指節部の長さは、母指を除き、男女とも思春期頃から相対的に長くなる。また、女子は男子に較べ、外側指が相対的にやや長い。身長に対する足の大きさ(比足長)は思春期前後から男子が女子を上まわりつつ漸減し、性差は加齢とともに強まる。1950年代の資料との比較から、とくに女子において足の成長の早熟化傾向が見出された。
  • 河内 まき子, 山崎 信寿
    1990 年 98 巻 1 号 p. 91-105
    発行日: 1990/03/10
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    靴型設計の基礎となるデータを提供するため、各部位の寸法と形状を非接触で計測できる足型計測機を用いて得られた、足型外郭投影図の爪先部と中•後足部、およびインステップ断面図の輪郭形状を解析した。輪郭形状は20または30の等長ベクトルに分割し、基準線に対するこれらのベクトルの成す角度列で記述した。このように数値で表現した形状の変異を主成分分析し、寸法データとの関連を検討して以下の結果を得た:1)各部位について4つ程度の総合特性値が抽出できる。2)輪郭形状の変異の多くは、寸法でみた変異と相関が低い。3)各部位における変異は互いに独立性が高い。またこれらの足型変異の特徴を靴型設計にどのように応用すべきかについて考察した。
  • 平本 嘉助
    1990 年 98 巻 1 号 p. 107-110
    発行日: 1990/03/10
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    ヒト足底腱膜のうち腓側部の腱膜は踵骨の底面から起こり、次の二つの線維束に分岐している場合が多い。それらの線維束は、第5中足骨粗面へ向かった後に脛側へ向きを変えて第4中足指節関節下の深足底靱帯に達する細く薄い線維束と、第5中足骨粗面へ直線的に走行してその粗面に停止する比較的発達良好な線維束とである。前者の線維束には形態的変異が見られ、筆者の調査した現代日本人の出現頻度は83.9%である。
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