人類學雜誌
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98 巻, 3 号
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  • 埴原 恒彦
    1990 年 98 巻 3 号 p. 233-246
    発行日: 1990/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    東アジアを起点とするモンゴロイド系人種の拡散と分化に関する研究の一貫として,環太平洋,オセアニアに分布する集団を非計測的歯冠形質に基づき比較分析し,その類縁関係について検討した.
    対象とした集団は,ピマーインディアン,現代日本人,沖縄島民,青ケ島島民,アイヌ,縄文人,弥生人(土井ケ浜人),ネグリト,ポリネシア人,ミクロネシア人で,分析は歯冠諸形質に基づく3種類の生物学的距離(MMD,E2,B2)によった.各分析の結果,多少の違いはあるもののおおよそ同様の結果が得られた.
    現代日本人は土井ケ浜弥生人に最も近くピマーインディアンと共にひとっのクラスターをつくる.しかし同じ現代日本人でも特殊な環境下にあった集団(地理的隔離集団)は本土の住民よりも太平洋民族に近く,これら二つのグループ(地理的隔離集団と太平洋民族)はさらに縄文人,ネグリトと共に別のクラスターを形成する.この二つのクラスターはいわゆる北方系の新モンゴロイド集団と南方系の原モンゴロイド集団に対応する.さらにネグリトの標本数が比較的少ないためにSJØVOLD(1975)の方法によって彼らがどの集団に最も類似しているかを検討したところ(表6),地理的隔離集団(日本人)に最も類似していることが明かとなった.
    以上の結果は日本人の基層集団が恐らく後期更新世の原モンゴロイドに由来し,弥生時代以降北方系渡来民の影響を強く受けたとする仮説を支持するものである.また,この基層集団は東アジア,太平洋における人種形成の過程で歯冠形質に関する限りネグリトのような集団から拡散,分化してきたのではないかと考えられる.
    今回得られた結果は,歯冠形質に関しては,原モンゴイドといういわば更新世の仮想人類集団が,東南アジア,西太平洋に分布しこの地域に現存する最も古いタイプの人種とされるネグリトにある程度類似していた可能性を示すものと思われる.今後,ネグリトを含むプロトマレーの系統(モンゴロイド集団の拡散以前に東南アジァ,西太平洋地域に分布していた原住民の総称)が,東アジアの基層集団を解明してゆく上でひとっの鍵を握るのではないかという視点からさらに分析を進めたい.
  • Alexander KOZINTSEV
    1990 年 98 巻 3 号 p. 247-267
    発行日: 1990/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    筆者は日本学術振興会の招きで,1989年の3月から5月まで,日本国内の大学と博物館で骨人類学的研究を行なう機会に恵まれた.調査資料は,札幌医科大学,九州大学医学部,京都大学理学部,東京大学総合研究資料館および国立科学博物館に保管されている.東日本および西日本の縄文人,土井ヶ浜を中心とした西日本の渡来系弥生人,西日本古墳人,西日本現代人,東京在住の江戸ならびに現代人,南西諸島人,北海道アイヌ,サハリンアイヌおよび宗谷大岬出土のオホーック文化人の頭骨標本である.
    9項目の頭骨非計測的形質を調査したが,そのうち,日本の諸集団の系統関係を明らかにするのに特に有効な項目は,横頬骨縫合痕跡(TZST),眼窩下縫合第2型(IOP II)および眼窩上孔(SOF)の3項目であった.これら3項目の高い集団間相関を考慮すると,日本列島の諸集団は二つの要素一縄文的要素とモンゴロイド的要素-の混合の度合いによって特徴づけられていることが強く示唆された.
    そこで,この3項目の非計測的形質の出現頻度に基づいて,各集団に対してモンゴロイド•縄文示数(MJI)を算出したが,その結果から次のような事が明らかになった.
    1.西日本縄文人→東日本縄文人→北海道アイヌ→サハリンアイヌ→南西諸島人→弥生人→古墳人→西日本現代人→東京現代人の順にモンゴロイド的要素が増大する.
    2.弥生時代以降の日本人のモンゴロイド的要素は現代中国人のそれにきわめて近い.
    3.モンゴロイド的要素の流入は弥生時代に突然に始まるが,それは明らかに大陸からの大量の渡来に起因する.
    4.弥生時代以降現代までのモンゴロイド的要素の増加は僅かである.
    5.現代日本人には明らかに縄文的要素の痕跡が認められ,しかもそれは西日本現代人により明瞭である.
    6.北海道のオホーツク文化人は,ある特徴ではアムール河流域のツングース•満州系と近いが,別な特徴ではアイヌに類似する.
  • 百々 幸雄, 石田 肇
    1990 年 98 巻 3 号 p. 269-287
    発行日: 1990/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    縄文人171例,土井ヶ浜を主体とする渡来系弥生人153例,古墳時代人276例,鎌倉時代人220例,室町時代人124例,江戸時代人194例,現代日本人180例および北海道アイヌ187例の頭骨につき,22項目(ただし江戸時代人については20項目)の形態小変異の出現頻度が調査された(表1,表2).これら8グループの資料の出自は,弥生人を除いてすべて東日本である.
    まず,鎌倉時代人,室町時代人,江戸時代人,および現代日本人について,形態小変異の出現頻度を比較したが X2検定で有意差が検出されたのは,22項目中わずか2項目においてであった.このことから,頭骨の形態小変異の出現頻度は,骨格の計測的特徴と異なり,日本の歴史時代を通じてほとんど不変であったことが明らかにされた.
    次に,20項目の出現頻度に基づいてスミスの平均距離を算出したが,古墳時代から現代にいたるまでの日本人グループ間の距離はいつれも小さく,有意でないものがほとんどであった(表3).したがって,これら日本人グループは単一集団に属すると見なされた.これに対して,縄文人および北海道アイヌと上記の日本人グループとの距離はいづれも明らかに有意であった.
    さらに,スミスの距離に対してクラスター分析と主座標分析を行なってみたが,その結果,調査した8グループは大きく2つのクラスターに分割された.すなわち,縄文•アイヌ群と弥生•古墳•歴史時代日本人群とである(図2,図3).後者のクラスター内では,古墳時代から現代までの諸グループは非常に密接に関連しており,現代日本人の人類学的特徴は古墳時代まで遡れることが強く示唆された.渡来系の弥生人も明らかに古墳時代以降の日本人グループに分類されるが,それらとはやや距離を置く傾向にあった.この傾向は,国外の資料も含む12グループについて行なったクラスター分析でも同様に認められた.すなわち,弥生人は蒙古人よりもやや遠い距離で古墳時代以降の日本人グループと結合していた(図4).こあ結果は,渡来系の弥生人が直接古墳時代人に移行したという単純なモデル化は危険であることを示唆しているように思われる.おそらく,弥生時代から古墳時代にかけての日本のポピュレーション•ヒストリーはもっと複雑な様相を呈していたものと考えられる.しかし,本研究の結果から判断する限りにおいては,弥生時代の渡来系の集団が基本になって,古墳時代に現代日本人の原型が成立したと考察するのが妥当であるように思われた.
    縄文人と北海道アイヌの関係については,我々の従来からの主張,すなわち縄文人-特に東日本の縄文人のアイヌへの移行,が繰り返された.
  • 高橋 美彦
    1990 年 98 巻 3 号 p. 289-301
    発行日: 1990/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    縄文時代87例,弥生時代44例,古墳時代44例,鎌倉時代30例,室町時代22例,江戸時代36例,明治時代16例の古人骨の頭部 X 線規格写真と,住民調査で得られた現代人の頭部 X 線規格写真419例を調査し,顎関節形態の時代的推移について検討した。その結果,顎関節の時代的変化はおもに関節突起に現れ,下顎窩における時代の変化には一定の傾向はみられなかった。関節突起はおおむね時代とともに細長くなるとともに,下顎頭幅は小さくなり,下顎頭の尖鋭化が進行していた。下顎窩幅に対する下顎頭幅の割合は弥生時代人と現代人で小さく,とくに現代人においてこの傾向が強く認められた。
  • 横山 泰行
    1990 年 98 巻 3 号 p. 303-316
    発行日: 1990/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    肥〓度が青少年の体力•運動能力に及ぼす影響を知るために,12-17歳の男女7,849名の体力•運動能力を性•年齢別に肥〓度により9段階に分類し,分散分析法で解析した結果;1)F値が全年齢群で有意な項目は男女の握力,50m走,走り幅とび,持久走,5年齢群で有意な項目は男女のハンドボール投げ,男子の垂直とびであった;2)F値が半数以上の年齢群で有意でない項目は男女の柔軟性,女子の反復横とび,垂直とび,踏み台昇降,懸垂であった;3)SCHEFFÉ 法の検定結果により,肥〓段階 VII から肥満度に比例して記録の低下する走り幅とび型,肥〓段階IVまで〓身度に比例して記録の低下する握力型,肥〓段階 I,II で記録の低下するボール投げ型,あまり差のない伏臥上体そらし型などに分類された。
  • 木下 太志
    1990 年 98 巻 3 号 p. 317-336
    発行日: 1990/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    山形県天童市の旧山家村に残る1760年から1870年にわたる宗門改帳を使って,江戸時代における東北地方の農民の結婚と出生を分析した。結婚に関しては,男子の場合,初婚年齢,既婚率ともに経済的要因によって強く影響されるが,女子の場合にはこのことは必ずしも言えない。この理由として,男女間の社会的,経済的地位の差が考えられる。また,山家村の出生率は時代とともに増加しているが,これは主に有配偶出生率の増加に起因し,生涯未婚率の低下が補助的に出生率の増加に寄与している。出生率の増加には,労働形態の変化,雇用機会の増大,賃金の上昇等が関与しているものと考えられろ。
  • アジア•太平洋地域諸集団との比較
    武井 俊哉
    1990 年 98 巻 3 号 p. 337-351
    発行日: 1990/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    台湾 Atayal (タイヤル)族の歯冠形態を,アジア•太平洋地域の諸集団と比較し,その類縁性を検討した。その結果,Atayal は計測的形質において,サイズおよびシェイプともに本州日本人や弥生人に類似した傾向を示し,太平洋地域諸集団(Guam,Marquesas,Mokapu)や縄文人とは区別された。また,Atayal は非計測的な形質において,本州日本人や弥生人に近く,日本列島の隔離住民(アイヌ,青ケ島島民,沖縄島民),太平洋地域諸集団,Negrito および縄文人とは区別された。以上の結果から,Atayal の歯冠形態は中国•北東アジア系集団に近い傾向を示すことがわかった。
  • 針原 伸二, 大坪 燈, 中村 貴子, 原田 勝二, 三澤 章吾
    1990 年 98 巻 3 号 p. 353-357
    発行日: 1990/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    山形県,茨城県,東京都および山口県在住の日本人,計640名の,赤血球酵素 S-adenosy1 L-homocysteine hydrolase(SAHH)の変異の検索を行なった.この赤血球酵素は,ヨーロッパ白人のいくつかの集団では,澱粉ゲル電気泳動のパターンの差異として観察される多型がみられることが報告されている.しかしながら,今回の研究では,日本人全個人の SAHH のタイピングは1となり,1例の差異も見い出されなかった.この結果は,日本人における多型を報告した AKIYAMA et al.(1984)の報告とは矛盾する.実験における SAHH の型判定の妥当性を検証するため,茨城県つくば市在住の白人21名と米国オルソ社製のパネル赤血球10検体分の SAHH の型判定を同様に行なった.その結果,白人集団に2名の3-1型がみられたほか,パネル赤血球にも1検体に2-1型黍みられ,変異型を検出できることから,判定法は妥当なものと考えられた.AKIYAMA etal.(1984)の判定が誤っていたとすると,それは SAHH の保存効果により電気泳動パターンが変化したことによるものと思われる.
  • 松山 容子, 植竹 桃子, 垣内 美奈子, 植竹 種美, 柳澤 澄子, 近藤 四郎
    1990 年 98 巻 3 号 p. 359-367
    発行日: 1990/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    全身の皮下脂肪分布に関する情報は,着心地のよい,体にあった衣服の設計条件を追求するためには重要なものである.そこで本研究では,医療用Bモード超音波法による皮下脂肪厚測定を,人体の多様な部位に適用する場合の,測定部位同定について検討した.すなわち,同定を困難にしている,(1)断層像個人差,(2)脂肪組織から反射される複数のエコー,(3)受信機の過渡現象などの問題について,若年成人女子58名を被検者とし,上胸部,腋前面,膀側部,下腹部,側胸部,腸稜部,腰背部,大転子,肩甲下角,殿部,上腕後面,前腕外側,手首,大腿前面,大腿内側,下腿外側,下腿内側,足首,頬骨部,オトガイ部,頚椎部,胸椎部の22部位について検討し,測定のしやすさに従って分類した.ここに掲げた22部位1のうち,前者18部位では,皮下脂肪層の同定が可能であると確認されたが,後者4部位では確実な同定は困難であった.前者には,衣服設計の観点から不可欠であるにもかかわらず従来の方法では測定の困難な部位が含まれているので,今後貴重なデータが得られることになろう.
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